星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(58) 11.12~11.17
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は、いよいよ開幕したブラインドサッカー世界選手権で好発進した日本代表をはじめ、錦織圭選手の活躍が話題となった「ツアーファイナル」の車いす版ともいえる「世界マスターズ選手権」(26日からロンドンで開催)などの車いすテニスの話題や、ゴールボールの日本一決定戦など、さまざまなリポートをお届けします。また、国際パラリンピック委員会が選ぶ、「2014年度パラスポーツ最高の瞬間トップ50」のカウントダウンもスタートしました。
■ブラインドサッカー
・16日: FIFAワールドカップと同じように、4年に一度の世界最高峰の闘い「IBSAブラインドサッカー世界選手権2014」が東京・代々木の国立代々木競技場フットサルコートで開幕した。同選手権がアジアで開催されるのは史上初めてで、各大陸予選上位の12カ国が集まった。ホスト国の日本代表は開幕戦でパラグアイと対戦し、1-0で勝利。出場3大会目で初の勝ち点3を得て、日本は目標のベスト4に向けて好発進した。第2試合はグループリーグで日本のライバルとなるフランスとモロッコが対戦し、0-0で引き分けた。
【世界選手権の勝利を、サポーターとともに喜ぶ日本代表】
堅い守備が持ち味の日本は、1300席のスタンドをほぼ埋め尽くすほどの観衆が見守るなか、体格で勝るパラグアイの攻撃をよくしのいだ。均衡が破れたのは25分ハーフの前半20分、3大会連続出場のベテラン黒田智成が、ドリブル突破から左足で先制ゴールを決めた。
黒田は、「こういう素晴らしい環境のなか、多くの人が応援してくださるなかでプレイできて本当に最高だった。今日はしっかり守って少ないチャンスを確実に決めていくというプラン通りの戦い方ができた。(先制ゴールは)蹴った瞬間は分からなかったが、会場の大声援が聞こえてきて、『入った』という確信が持てた。本当に嬉しかった。疲れて脚が止まる時間帯にも大きな声援が背中を押してくれた。僕たちの力だけでなく、会場や全国から応援してくれた方、みんなで勝ち取った勝利だと思う」と振り返った。
魚住稿監督は、「初戦が大切と思っていたので、自分たちの目指す堅守速攻のサッカーができ、そのなかで強豪パラグアイを無失点に抑え、1勝できたことに大きな手応えを感じている。引き分けでもと考えていたが、ここで勝ち点3を獲れたことは我々が目指すベスト4に向けて、着実に一歩、歩みを勧められたと思う」と評価した一方で、「課題は決定力。守備も間を抜かれることがあったので、今後、コミュニケーションをしっかりとって、やっていかねばと思う」と引き締めた。
【パラグアイを無得点に抑えた堅守・日本。左から川村怜選手(#7)、決勝ゴールを決めた黒田智成選手(#5)、加藤健人選手(#9)、田中章仁選手(#4)】
1000人を超える観衆のなかには「ブラインドサッカーを初めてみる」人も少なくなかった。都内在住の女性は、「ニュース番組で見て、興味をもって来てみた。試合観戦前に体験ブースでブラインドサッカーを体験したが、全然できなかったので、(観戦して)選手のすごさを余計に感じた」と話した。また、フットサル愛好者の男性も、初めて見るブラインドサッカー選手の妙技に、「びっくりの連続。選手たちはボールの扱いがすごく上手い。今度アイマスクをしてブラインドサッカーにも挑戦してみたい」と話した。
1998年に始まった同選手権は今大会で6回目。史上最多の12カ国が3組に分かれて予選リーグを戦い、8チームが決勝トーナメントに進む。優勝国には2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権が与えられる。日本は18日(19時半~)にモロッコ、19日(同)にフランスと対戦する。決勝戦は24日17時半キックオフの予定。
・17日: 世界選手権第2日目はグループリーグ4試合が行われた。第1試合は、8年ぶりの世界一を狙うアルゼンチンがスペインに1-0で勝利。第2試合はパラリンピック3連覇中で、世界ランク1位のブラジルがトルコを1-0で下した。第3試合はアジアの強豪中国が、コロンビアに1-0で勝ち、第4試合は韓国とドイツが0-0で引き分けた。
【前半20分に先制ゴールを決めたブラジルのカシオ・レイス選手(左)】
■車いすバスケットボール
・14日~16日: 日本、イギリス、オーストラリア、韓国の男子代表チームが参加して、「第11回北九州チャンピオンズカップ国際車椅子バスケットボール大会」が北九州市立総合体育館で開かれ、日本代表がイギリスを64-58で破り、優勝した。日本は予選リーグでは45-52でイギリスに敗れていたが、課題を修正し、決勝戦でリベンジした。
北九州チャンピオンズカップは、4年に一度開催される車椅子バスケットボールの世界選手権が2002年、北九州市で開催されたことを契機に、翌2003年から継続して開かれている。
また同時開催されていた、全日本ブロック大会は決勝戦で関東ブロックが近畿ブロックを69-56で破って優勝。3位決定戦は東海北陸が四国を66-45で下した。
・15日~16日: 女子クラブチームの日本一を決める戦い、「第25回全日本女子車椅子バスケットボール選手権大会」がグリーンアリーナ神戸(神戸市)で開催され、昨年と同一カードとなった決勝戦で、カクテルがELFINを59-44で下して優勝、昨年のリベンジを果たした。3位決定戦はBrilliantCatsが九州ドルフィンを62-37で退けた。
なお、決勝戦の模様はBSスカパー!(BS241/CS585)で生中継されたが、さらに再放送が21日(月・15時~)、30日(月・0時~)に予定されている。
併催された「第18回全国シニア選抜車椅子バスケットボール大会」は決勝戦で関東Knightsが近畿ブロックを下して、優勝した。
■車いすテニス
・14~16日: 「第24回全日本選抜車いすテニス選手権(日本マスターズ)」千葉県柏市の吉田記念テニス研修センターで開催され、男子は国枝慎吾、女子は上地結衣、クァードクラス(⇒註)は川野将太が優勝した。同大会は、世界ランキング20位(クァードは10位)選手、および日本国内ランキング上位から推薦された8名(クァードは4名)の中から選抜された選手による日本最高峰の戦い。
また、26日からは車いすテニスの今季ツアー最終戦となる「世界マスターズ選手権」が26日にロンドンで開幕する。錦織圭選手の活躍が話題となった「ツアーファイナル」の車いす版ともいえる大会で、日本からは男子シングルスに国枝慎吾(世界ランク1位/2連覇中)と眞田卓(同9位/初出場)が、女子は上地結衣(同1位/前回初優勝)の3名が出場する。
⇒クァードクラス: まひなどの機能障害が3肢以上にみられる重度障害の人のクラス。オーバーハンドサービスができない人、手動車いすの操作に支障がある人、ラケットを握るのに支障があるためテープで固定したり、補助具を使う必要のある人など、障害の内容や程度には個人差が大きい。男女の区別はなく1クラスとして実施される。
■ゴールボール
・15日~16日: クラブチーム日本一を決める、「2014日本ゴールボール選手権」が青梅市立総合体育館で開催され、男子は地区予選を勝ち抜いた8チームが、女子は同じく4チームが出場し、男子はスーパーモンキーズ(京都)が、女子はMix(京都・岐阜)が頂点に立った。
<男子結果>
1位 スーパーモンキーズ(京都)
2位 IBK(茨城)
3位 チーム付属A
<女子結果>
1位 Mix (京都、岐阜)
2位 九州なでしこ(福岡)
3位 武蔵フューチャーズ(埼玉)
■東京発
・13日: 東京の渋谷ヒカリエで12日から開催中の超福祉機器展「2020、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」でのシンポジウムに、陸上競技のパラリンピアン、鈴木徹選手と花岡伸和選手が登壇、「違いは個性。ハンディは、可能性」というテーマに、自身の障がいや競技経験などを元に語った。
【シンポジウムの様子。左から司会の須藤シンジ氏、義足モデルのGIMICO(ギミコ)さん、鈴木徹選手、花岡伸和選手】
同展示会を主催したNPO法人ピープルデザイン研究所の須藤シンジ代表は、「2020年には東京にオリンピック・パラリンピックがやってくることをひとつのきっかけに、障がいの有無に関わらず、誰もが混ざりあい存在することを、僕らの街の価値にしていこうというのが狙い。『心のバリアフリー』を進めるには、憧れやかっこよさ、ワクワクするテクノロジーやポップカルチャーが力になると思う。それを利用して行きたい。今後も渋谷を拠店に、大阪など他都市での開催も考えている」と話す。
会場には未来型の車いすや3Dプリンターを使った「さわれる検索機」などの体験型の展示ブースがあり、多くの人が訪れていた。ヒカリエでの展示会期は18日(火)までだが、22日~24日にはブラインドサッカー世界選手権会場(国立代々木競技場)横のイベント広場で行われる「新しい世界デイ」イベントに同様の体験ブースが出展される予定になっている。
■ブラジル発
・14日: 2016年リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック組織委員会は、大会ボランティアの一般募集受付期間を予定されていた11月15日から延長して、12月15日まで受け付けると発表した。期間延長の理由についてボランティア・プログラムのマネージャーによれば、「(11月15日)の締切間際になって応募者数が急に増えていることと、期間延長を要望する声も多く、より多くの人にチャンスを与えたいから」と説明した。現在、7万人のボランティア枠に対し、すでに180カ国から16万人の応募書類が届いているという。
応募条件は2016年2月時点で18歳以上であることと、期間中少なくとも10日間活動できることの2点が求められている。応募者は1年間のオンライン英語コースやボランティアの役割に応じた研修も受けることになる。詳細や応募は大会ボランティア公式サイトから。
■ドイツ発
・12日: IPCは、「2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50」をこの日から12月31日までの毎日、IPC公式サイトの特別ページで順次公開していくと発表した。内容は2014年度内にパラリンピック・ムーブメントに大きな影響を与えたもので、選手のパフォーマンスや感動の瞬間、メディアでの露出や選手個人のエピソードなどが対象で、ソチ冬季パラリンピック大会のような国際大会だけでなく、日常のシーンまで幅広いなかから選ばれている。すでに全IPCメンバーによってノミネートされたなかから、選定委員によって順位が付けられた。
トップ50のカウントダウン式の公開は今年で3年目。2012年のトップ1は、ロンドン・パラリンピックで2冠に輝いたイタリアのアレックス・ザナルディがトップ1に選ばれ、13年は米国のNBC放送がソチ冬季大会と16年リオ・パラリンピックの放映権の獲得が選ばれている。
<2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50>
50位: 車いすダンス競技のG.リツコヴァ(ロシア)が今季開催されたすべての大会のシングルス部門のタイトルを独占した。
49位: パラ・カヌー選手のJ.チッピングトン(イギリス)がカヌー・スプリント世界選手権(8月/モスクワ)で2つの金メダルを獲得し、自身8回目の世界女王に輝いた。
48位: 28カ国122選手が出場し29種目が行われたパラ・サイクリングのトラック世界選手権(4月/メキシコ)で、23の世界新記録が誕生した。
47位: パラ・トライアスロン世界選手権(5月/ロンドン)で、L.ステッドマン(イギリス)が4連覇中だったF.マクレランズ(同)を破り、新女王に輝いた。
46位: パラ・アーチェリーのヨーロッパ選手権(7月/スイス)で、イタリアが金3個、銅2個を獲得し、メダル総数で第1位になった。
45位: ソチ冬季パラリンピック(3月/ロシア)で世界的な注目を集めたことをはじめ、ワールドシリーズや史上初の女子国際大会の開催など、アイススレッジ・ホッケーが大きく躍進した。
(星野恭子/文・写真)