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ロンドン五輪「メディア革命」の行方(玉木正之)

この原稿は、今年(2012年)6月30日付毎日新聞・スポーツ欄の不定期連載「時評点描」に書いたものです。少々書き加えて、アップします。御一読下さい。


ロンドン五輪「メディア革命」の行方

ロンドン五輪の開幕が目前に迫った。
今回のオリンピック大会の最大の特徴は、「ソーシャルメディア革命」とも「デジタルメディア革命」とも言われている。

五輪開幕百日前からIOC(国際オリンピック委員会)の管理下で、「アスリート・ハブ」と名付けられたツイッターやフェイスブックがネット上にアップされ、陸上短距離のボルトやテニスのフェデラー、バスケットボールのコービー・ブライアントや水泳の北島康介など、多くの有名オリンピアン(五輪出場選手)が登場。何百万、何千万単位といった世界中のフォロワーと交流を始めている。

すなわちオリンピック選手の「声」が、直接、瞬時に、世界中のファンの元へ届けられるようになったのだ。ということは、オリンピック選手自身のメッセージ以上に、オリンピック選手自身がメディア化したことこそ、将来的に(経済的・商業的に)大きな意味を持つことになりそうだ。

またテレビ中継でもBBC(英国放送協会)がネット放送に力を入れ、チャンネル数に制限のないメディアで、ほぼ全競技全種目(26競技302種目)を映像配信するという。

1896年の第1回アテネ大会では、情報手段は新聞などの活字だけだった。が、1936年のベルリン大会でラジオ中継が普及(ラジオの「前畑ガンバレ」という実況中継が日本でも有名になった大会)。

48年のロンドン大会からはテレビ中継が発達。64年の東京大会でカラー放送と衛星中継が始まり、電波にのったスポーツによって全世界の人々(視聴者)が結ばれ、オリンピックの商業的価値が飛躍的に増大。大会規模も肥大化の道を歩んだ(このとき、テレビやラジオといったメディア以上に、オリンピック自身が、メディア化したのだった)。

それが今大会の「ソーシャルメディア革命」「デジタル革命」によって、どう変わるのか?

映像や試合結果の伝達の速さ、ブログやツイートによる選手たちの生々しい声……など、あらゆる「情報」は今後すべてソーシャル・ネットワーク・メディアが中心になるに違いない。

では、電波や活字の旧メディアの役割は終わったのか?
いや、そんなことはあるまい。

オリンピックの本質、そのあり方を言葉(文章)で論じたり、ドキュメンタリー映像によって歴史的に考察したり、あるいは、スポーツそのものの存在意義を検証したり、批判・論評する……などなど、今後ますます新聞やテレビやラジオのジャーナリズム(スポーツ・ジャーナリズム)としての価値が問われるようになるはずだ。

そうでなければ、新聞やテレビやラジオの存在価値は消えてしまうことだろう。