星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(57) 11.7~11.9
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今週は1964年東京パラリンピック(当時の正式名称は「国際身体障害者スポーツ大会」というものでした)の開会式から50周年を迎えた11月8日の話題をはじめ、“世界最古”の車いす単独のマラソン大会「大分国際」(第1回大会は1981年)から、史上初開催となったアイススレッジ・ホッケーの国際女子大会まで、さまざま集めました。日本で初開催となるブラインドサッカーの世界選手権(16日開幕)の直前情報も。
■ドイツ発
・7日: 国際パラリンピック委員会(IPC)と東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、1964年東京パラリンピックの開会式を記念し、ちょうど50年目にあたる11月8日から5日間にわたって、1964年大会の模様をはじめ、パラリンピック・ムーブメントの50年の歩みを伝えるコラム、ビデオ映像や写真などを公開すると発表した。
IPCのフィリップ・クレイヴン会長は、「2020年の東京大会に目を向けることともに、過去を振り返ることも重要だ」と話した。
なお、1964年東京大会は第2回パラリンピックと数えられており、世界22カ国から375人(日本選手は53選手)が参加し、9競技が行われた。そして、6年後の2020年は15回目となり、170カ国から約4300人の選手の参加が見込まれ、 最大で23競技が実施される予定だ。この50年で、パラリンピックはスポーツイベントとしては、オリンピックやサッカーのワールドカップに次ぐ世界で3番目の規模を誇る国際大会へと成長した。
このように、一つの都市が2回目のパラリンピックを開催するのは史上初になる。そういう意味でも、「2020東京」は世界から注目されている。規模だけでなく「中身」でも成長を見せられるのか、今後の準備にかかっている。
■陸上競技
・9日: 第34回大分国際車いすマラソン大会が11月9日、大分市で開催され、フルマラソン男子はスイスのマルセル・フグが1時間21分40秒で総合優勝を果たし、大会5連覇を飾った。総合2位には日本人3選手の熾烈な争いをトラック勝負で制した山本浩之(福岡県)で、1時間28分27秒。山本は2年連続の準優勝。1秒差の同タイムで副島正純と洞ノ上浩太が3位、4位だった。
【5連覇達成のマルセル・フグ選手。次の目標は、「まずはバカンス」と笑顔。南の島で来シーズンへの英気を養うそうだ】
スタートから飛び出し、31キロ過ぎまで世界記録(1時間20分14秒)ペースで快調に飛ばす展開で、フグの強さが際立ったレースだった。残念ながら、世界記録更新はならなかったが、2位の山本に6分以上の差をつける圧勝だった。
フグは、「5連覇を達成できて嬉しい。大事なレースと位置付けている大分で勝てて、本当にうれしい。独走するつもりはなかったが、いいスタートが切れた。一人旅になってしまったのは残念だ。今日は体調もよく、31キロくらいまでは『世界新ペースで走っているな』と意識していた。『今日は新記録が出る』と思ったが、その後、ペースダウンしてしまったのは残念」と振り返った。
先に行く見えないマルセル・フグを追いかけながら、副島正純(長崎県)と洞ノ上浩太(福岡県)との2位争いを1秒差で制した山本。途中、3人がそれぞれ何度も仕掛ける場面があったが、互いに粘りを見せ、勝負はトラックまでもちこまれた。最後は山本が振り切り、3年連続で日本人1位になった。
【トラックでの息詰まる勝負を制した山本浩之選手。後方右は3位の副島正純選手、左が4位の洞ノ上浩太選手】
「マルセル選手に追い付けなかったのは残念で、悔しい。スタートではそれほど離されなかったので、日本人3人でペースを落とさないように、うまくローテーションしながら追いかければ、追いつけると思ったが、あっという間に見えなくなった。2位争いをトラックに持ち込むつもりはなく、2人を何度も振り切ろうと仕掛けたが、なかなかバラけず、結果的に『もつれてしまった』という感じ。トラックに入っていいポジション取りができたので、とにかく必死に走った。マルセル選手との勝負と、日本人同士の勝負とで、今日はとても疲れた。力は出し切ったが、それだけに優勝できなかったのは残念」と山本。悔しさもにじませたが、「今年は風が無かったからか、例年より沿道の声援がよく聞こえ、力になった」と、最後には雨模様のなか沿道に詰めかけた多くの観衆に感謝を示した。
女子総合はトラックまでもつれ込んだ土田和歌子(東京都)との息詰まる勝負を、マニュエラ・シャーが(スイス)が1時間38分42秒で制し、2連覇を果たした。土田はわずかに1秒、及ばなかった。シャーと土田のデッドヒートは2年連続で、昨年は2人ともが世界新記録となる1時間38分07秒でゴールに飛び込み、わずかな差でシャーが制していた。
【女子優勝のマニュエラ・シャー選手(中央)と2位の土田和歌子選手(左)、3位のタチアナ・マクファーデン選手。レース前日の記者会見より=2014年11月8日/大分市内】
「今日もタフなレースだった。雨という悪コンディションの中、よく戦ったと思う。タイムも、世界記録まであと少しだったし。今の気分は『スーパー・ハッピー』。ワカコとは去年もそうだったけど、ほとんどのレースでトラック勝負の展開になる。だから、とにかく先にトラックに入りたいと思っていた。雨でトラックが滑りやすいコンディションでは追い抜くのは難しいので、残り4キロ以降は常にワカコより前にいようとがんばった。沿道の応援はとても印象的だった。こんな雨のなか、いったい何人が応援してくれているのと思いながら走っていた。大分は大好き。人々は優しく、とてもオープンでフレンドリーだから。来年もまた、このレースに戻ってきたい」と爽やかな笑顔で喜びを語った。
また、1週前の11月2日にニューヨークシティ・マラソンで優勝し、2年連続のグランドスラム(⇒註)を達成したばかりのタチアナ・マクファーデン(米国)が大分国際に初出場、シャー、土田とともにトップ集団を形成していたが、終盤に離され、1時間41分42秒で3位に終わった。
「大分は、ワカコなど多くの選手から、『最高で、タフな大会のひとつ』と聞いていて、以前から憧れていた大会。本当にコースはとても素晴らしかった。フラットで高速コース、そしてアップダウンやコーナーもいくつかあってチャレンジングな部分もある。今日は再び、マニュエラやワカコという世界トップの2人と競えて、とてもハッピーだった。ただ、雨は降っていなかったけど、道路は濡れていたので、3人の集団で走っていて後ろにつくと、車輪のしぶきがひどくて大変だった。そして、残念なことに今日は、勝負どころの最後の上りで、左手のグリップが悪くなってしまい、2人から遅れてしまった。3位になってしまったけど、がっかりはしていない。今年はとても素晴らしい1年を過ごしてきたし、最後にこうして憧れだった大分国際を走ることができたから。大分の人々はとても親切で、文化も気に入った。来年もまた、この大会に戻ってきたい」と、マクファーデンはすっきりした笑顔で話した。
⇒車いすマラソンのグランドスラム: 同一年度内に世界4大マラソン(ロンドン、ボストン、シカゴ、ニューヨーク)の全レースで優勝すること。
今大会にはハーフマラソンを含めて16カ国271人がエントリーしていたが、当日は238人が出走し、204人が完走した。その中には今大会の最高齢88歳の工藤金次郎選手(徳島県)も含まれ、ハーフに出場して1時間56分08秒、133位でのフィニッシュだった。
【フルマラソンは国内外から81選手(うち女子7名)が午前11時に一斉にスタート。後方には3分後にスタート予定のハーフに出走する157選手(同16名)が待機中】
また、レース前日の11月8日には大会開会式が行われたが、この日は1964年東京パラリンピックの開会式からちょうど50年にあたったことから、開会式場では東京都、日本パラリンピック委員会、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の者による「1964年東京パラリンピック50周年記念事業」として、写真パネルの展示なども行われた。
大会会長の広瀬勝貞大分県知事は開会のあいさつのなかで、大分県出身の整形外科医、中村裕氏(故人)が1964年大会の開催に尽力し、日本選手団団長も務めたこと、そしてその後、1981年に始まった大分国際車いすマラソン大会の生みの親でもあることを紹介し、「中村裕博士らの偉大な功績にもぜひ触れてほしい」と選手や聴衆に呼びかけていた。
■ブラインドサッカー
・9日: 日本代表が16日に開幕する世界選手権を前に、パラリンピック3連覇中で世界ランク1位のブラジル代表と仙台市で国際親善マッチを行い、0-4(後半0-2)で敗れた。日本の魚住稿監督は、「(世界選手権初戦の)パラグアイ戦をイメージしたなかで、守備でどのくらい通用するかと思って(ブラジルに)挑んだ。ワールドクラスだとはわかっていたが、やはり非常に強かった。これを意識して、(世界選手権まで)最後の1週間でしっかり修正していきたい」とコメントした。
なお、ブラジル代表は今週末の11月16日に開幕する「IBSA(国際ブラインド・スポーツ協会)ブラインドサッカー世界選手権2014」に出場するため来日し、仙台で合宿中だった。同選手権の詳細は以下の通り。
<IBSAブラインドサッカー世界選手権2014>
4年に一度の世界最高峰の大会。今年は東京渋谷区の国立代々木競技場フットサルコートに、日本をはじめ、ブラジルやアルゼンチン、中国など世界トップクラスの12チームが集結! 4チームずつ3組の予選リーグを経て、世界の頂点を争う。
日時:11月16日(日)~24日(月・祝)
・日本代表の予選リーグの日程
11月16日(日)13:30 vsパラグアイ(大会開幕戦)
11月18日(火)19:30 vsモロッコ
11月19日(水)19:30 vsフランス
試合カードや時間帯で価格は大人500円~2,500円まで、高校生以下は無料~2,000円まで。
・ネット中継チャンネル (全試合生中継予定)
■車いすテニス
・9日: 「車いすテニス・ダブルス・マスターズ」が米国カリフォルニア州で開催され、女子は上地結衣/J・ホワイリー(イギリス)組がL.ハント(イギリス)/K.クルーガー(ドイツ)組を6-2、6-1で圧倒し、優勝した。同ペアは今季、ダブルスの年間グランドスラム(⇒註)も達成している。
男子はJ.ジェラード(ベルギー)/S.ウデ(フランス)組がM.ジェレミアズ(フランス)/G.リード(イギリス)組を6-4、6-1で下し、優勝した。ウデは2012年(パートナー、国枝慎吾)、13年(同、リード)に続く3連覇達成の快挙。
国枝はダブルス・マスターズ大会初出場となるE.マリパ(南アフリカ)とのペアで出場したが、3位決定戦でG.フェルナンデス(アルゼンチン)/N.ピーファー(フランス)組に1-6、1-6で敗れ、4位に終わった。
なお、ダブルス・マスターズ大会は2000年に初めて開催されて以来、毎年、女子は6組、男子は8組(さらにクアードクラス4組)の世界のトップペアが集い、行われている。
⇒車いすテニス・ダブルスのグランドスラム: 国際テニス連盟(ITF)が定めた、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン選手権(ダブルスのみ開催)、全米オープンの4大会を「グランドスラム」と呼び、同一年内に全大会を制覇することを、「年間グランドスラム」という。
■アイススレッジ・ホッケー
・7日~9日: 女子アイススレッジ・ホッケーの国際大会としては史上初となる、「IPCアイススレッジ・ホッケー国際女子カップ」が3チーム参加してカナダで開催され、初代女王にアメリカが輝き、カナダが2位、ヨーロッパチームが3位になった。
3 チーム総当たり戦を2回行う予選ラウンド後、予選2位のカナダが準決勝戦で同3位のヨーロッパチームを2-0で破り、勝ったカナダが決勝に進んだ。決勝では予選1位のアメリカがカナダを5-1で下した。
IPCは今後さらに、女子のアイススレッジ・ホッケーの普及を進め、将来的には冬季パラリンピックへの採用も目指している。今大会準優勝のカナダチームには、神戸市出身で現在はカナダ在住の山本恵理選手が、エリ・マクドナルドとして名を連ねていた。ただし、日本アイススレッジホッケー協会によれば、日本には現在、女子チームはなく、協会に登録されている女子選手が一人だけいるが、現在は活動を中止しているようだ。
(星野恭子/文・写真)