「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(394) 異例下での北京冬季パラリンピック。スポーツの力をアピール
パラアスリートの冬季スポーツの祭典、「北京2022冬季パラリンピック」が3月4日、中国の首都北京市にある国家体育場(通称・鳥の巣)での開会式からスタートし、13日までの10日間にわたる熱戦がつづいています。46の国と地域から約560選手が参加し、6競技78種目が5つの会場に分かれて行われています。
北京冬季パラリンピック開会式で点火された聖火。オリンピックとほぼ同じ雪の結晶のモチーフ。開会式での最終点火者は中国の視覚障害のパラリンピック金メダリスト (撮影: 吉村もと)
ただし、長引くコロナ禍により徹底した「バブル方式」での実施にくわえ、直前に起こったロシアによるウクライナ侵攻の影響も受け、異例なかたちで始まりました。
国際パラリンピック委員会(IPC)は最終的に、ロシアパラリンピック委員会の選手と同盟国のベラルーシ選手を参加させないことを決定。4日に行われた開会式でのIPCのアンドリュー・パーソンズ会長のあいさつは「スポーツによる社会変革」を訴える内容で、力強く心揺さぶるものでした。
「私は平和のメッセージから始めたい」と切り出し、「21世紀は対話と外交の時代だ。戦争と憎しみの時代ではない」とつづけ、さらに、「ここ北京で、46の国や地域から集まったパラリンピアンは、ともに競いあう。決して、対決するのではない」と強調。最後に、両こぶしを天につきたて、「Peace!」と叫ぶように締めくくり、平和の大切さを強く世界へ訴えかけました。
その後の各国選手団の入場では、戦禍のなかで参加自体が危ぶまれたウクライナ選手団の名前がコールされると、関係者や招待客で埋まる客席から拍手の音がひときわ高く響きました。ウクライナ選手たちは厳しい表情で、なかには拳をつきあげながらの選手も見られ、ようやくたどりついた大舞台に寄せる強い覚悟と意気込みが感じられました。
実際、翌5日から始まった競技で、ウクライナ選手はいきなり躍動します。さまざまな苦難やプレッシャー、世界中からの注目のなか、ノルディックスキー・バイアスロンで、金3、銀3、銅1と、1日で7個のメダルを量産し、国別メダルランキングのトップに立つ力強いパフォーマンスを見せたのです。
4大会連続出場で過去3つのメダル(銀2、銅1)を獲得しているグレゴリー・ボウチンスキー選手が立位男子6㎞で今大会ウクライナ勢最初の金メダルを獲得。レース後のインタビューでは時々、声を詰まらせながらも、報道陣の質問に丁寧に対応したボウチンスキー選手。ロシアの軍事侵攻が始まって以来、「毎日、つらくて泣いていたが、母国のために何ができるか考えていた。この金メダルは私のものでなく、母国のための金メダルだ」と強調する姿が印象的でした。
つづく視覚障害女子6㎞でも優勝し、さらにこの日最後の種目、同男子6kmでは表彰台を独占する圧倒的な強さを見せました。躍動する姿で、「戦火に苦しむ母国民を勇気づけたい」「平和を訴えたい」、そんな覚悟が感じられました。この先のレースでも、母国の人々を勇気づけるような力強いパフォーマンスを応援したいです。
競技初日の3月5日、バイアスロンの立位女子6kmで力走するウクライナの選手(撮影: 吉村もと)
■アルペンスキーの村岡選手、連日の金メダル! 森井選手も銅2つ
全29名の日本代表選手たちもそれぞれの目標に向けて力いっぱいのパフォーマンスを見せてくれています。筆頭は日本選手団主将で、アルペンスキー座位(チェアスキー)女子の村岡桃佳選手(トヨタ自動車)は5日の滑降と6日のスーパー大滑降で二冠に輝く大活躍。日本代表を勢いづけています。
前回平昌大会で金1個を含む5つのメダルを獲得した「冬の女王」は、昨夏の東京パラリンピックでも陸上競技100mで6位に入賞し、この北京大会を「夏冬二刀流の集大成」と位置づけています。この先の滑りにも大注目です。
同じく男子の森井大輝選手(同)も2種目で銅メダルを獲得し、6大会連続出場のベテランはこれで、銀4、銅3とメダルコレクションを増やしました。「僕のキャリアで唯一獲れていないメダル」という悲願の金メダルに向け、残り3種目に挑みます。
この他、日本選手は「雪上のマラソン」と呼ばれるクロスカントリースキーと、スキーと射撃を組み合わせたバイアスロン、そして、スノーボードに出場しています。それぞれの「自己ベストなパフォーマンス」に向け、挑戦をつづけるパラアスリートたちをぜひ、応援ください!
スノーボードクロスの予選で、力強い滑りを見せる男子LL1(大腿義足)クラスの小須田潤太選手(オープンハウス)(撮影: 吉村もと)
▼日本パラリンピック委員会「北京2022冬季パラリンピック」特設サイト
https://www.parasports.or.jp/paralympic/beijing2022/index.html
▼NHK「北京パラリンピック」特設サイト (番組情報や動画配信など)
https://www3.nhk.or.jp/sports/paralympics/
(文:星野恭子)