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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(393) 「ついに、私たちの出番」――北京冬季パラリンピック、まもなく開幕

いよいよ3月4日から、北京冬季パラリンピックが開催されます。熱戦に沸いたオリンピックの盛り上がりを引き継ぎ、パラアスリートたちも躍動します。

オリンピックと同様に北京市は史上初めて、夏季と冬季のパラリンピックを開く都市となります。49の国と地域から史上最多となる約650選手たちが集う予定で、6競技78種目が5つの会場で実施され、13日まで10日間にわたって熱戦をくり広げます。

新型コロナの感染拡大を踏まえ、大会は去年夏の東京大会と同様に大会関係者が外部と接触できない、いわゆる「バブル方式」で行われますが、毎日、PCR検査が求められるなど東京大会を上回る厳しい感染対策がとられています。開・閉会式や試合の観戦チケットの一般販売はなく、観客は大会組織委員会が招待した人たちに限られます。

日本からは6競技中4競技(アルペンスキー、バイアスロン、クロスカントリースキー、スノーボード)に29選手が出場予定です。他2競技はアイスホッケーと車いすカーリングです。メダル獲得目標は設定せず、選手たちはコロナ禍の苦難のなか重ねてきた日ごろの取り組みを生かし、最高のパフォーマンスを発揮することを目標に戦います。

■村岡桃佳主将、北京パラの結団式で決意。「全力で戦い抜く」

開幕に先駆けて、2月24日には東京都内で、日本代表選手団73名(選手29名、スタッフなど44名)の結団式が開催されました。日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会の森和之会長ほか、東京大会につづき日本代表選手団を率いる河合純一団長、桜間裕子副団長、主将でアルペンスキーの村岡桃佳選手(トヨタ自動車)、旗手でクロスカントリースキーの川除大輝選手(日立ソリューションズJSC)が登壇。その他の選手・関係者は新型コロナウイルス感染症対策のためオンラインで出席しました。

結団式に出席した、(左から)森和之日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会会長、桜間裕子副団長、河合純一団長、主将を務める村岡桃佳選手、旗手の川除大輝選手 (提供:日本パラリンピック委員会)

主将を務める村岡桃佳選手は選手団を代表し、「自国開催の東京大会から引き継いだ流れを絶やさないよう、決してあきらめない覚悟をもち、全力で戦い抜くことをここに誓います。障害のあるなしに関わらず、日本の未来を担う子どもたちにパラスポーツをみてもらい、人間の無限の可能性を感じてもらえることを願っています」と力強く決意表明しました。

村岡選手は前回の2018年平昌大会で、女子大回転の金など5つのメダルを獲得した、「冬の女王」。さらに、昨夏の東京大会では陸上競技にも挑戦し、T54(車いす)女子100mで6位入賞も果たした、「二刀流」です。東京大会後はすぐに競技用車いすをチェアスキーに乗り換え、わずか半年間で冬の大舞台に臨みます。今年の1月中旬、スキー練習中に転倒して右肘のじん帯を損傷しましたが、リハビリを重ね、2月中旬には雪上練習にも復帰。「自分から前にでるタイプではなく、(主将は)不安は少なからずあるが、北京大会でもいつもの私らしく笑顔で楽しみながらレースをして、日本選手団の前に立って進んでいきたい」と意気込みを語りました。

結団式後のフォトセッションで、北京冬季パラリンピックのマスコット、「シェ・ロンロン」のぬいぐるみを膝に乗せ、笑顔の村岡桃佳選手(左)と川除大輝選手 (提供:日本パラリンピック委員会)

また、式典で河合団長から、団旗を授与された旗手の川除選手は、「大役を務めさせてもらえる嬉しさもある」と話し、期待に応えるには、「いい成績をださなければいけないという重圧もある。そのプレッシャーをはねのけてよい成績をだせたら、よりクロスカントリースキーやパラリンピックにも注目してもらえると思う。しっかり調整して頑張りたい」と闘志を燃やしていました。

川除選手は生まれつき両手足の指の一部がなく、ストックを持たずに脚力だけでスキーを滑らせる、クロスカントリ―スキーの若きエースです。初出場だった平昌大会は2種目で9位、リレーで4位と、「あと一歩、悔しい結果」に終わりました。今大会は4年間の進化を見せたいと意気込んでいます。

河合純一団長から、日本代表選手団旗を受け取る川除大輝選手(右) (提供:日本パラリンピック委員会)

河合団長は、「オリンピックの代表選手団の大活躍を受け、ついに私たちの出番です」と切り出し、選手に対しては、「私が考える冬季パラの魅力とは自然と向き合う難しさと用器具の活用です。自然を味方につけ、用器具と一体となり、これまで鍛えてきた心身の要素が掛け合わされたとき、最高のパフォーマンスが発揮される。皆さんのパフォーマンスを通じて、人間の可能性を存分に示してもらいたい」と激励。

さらに、監督やコーチ、スタッフに向けて、「感染症対策の徹底や中国国内での試合経験も少ない異例の大会。だからこそ、チーム力と対応力が求められている。選手たちの最高のパフォーマンスの発揮に向けてサポートをお願いしたい」と呼びかけました。

また、桜間副団長は2008年北京大会でも総務役員として選手団に同行した経験があり、現在はJPCの女性アスリート委員会の副委員長も務めています。語学力や豊富な経験を踏まえての起用ということで、「本部を運営する重責をしっかり努めたい。コロナ下で小さなコミュニティかもしれないが、国際交流もできれば」と話しました。

日本代表選手団は2月末現在、スノーボードチーム(うち選手6人)以外のアルペンスキーチーム(同14人)とクロスカントリースキー・バイアスロンチーム(同9人)がすでに現地入りしています。コロナ禍でテスト大会が行われなかったことから、選手たちはようやく滑ることができた本番コースで、最後の調整を重ねています。

■今こそ、スポーツの力で

それにしても、大会開幕を間近に控え、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という、信じられない事態が起こってしまいました。オリンピックには休戦協定があり、北京パラリンピック閉幕後の3月20日までを期間とすることが昨年12月に国連で採択されています。国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長は24日、「ロシアのオリンピック休戦協定違反を非難する」との声明を発表しました。その中で印象的だったのは、「スポーツは、互いに対決するのではなく、一緒に競い合うものだ」という言葉。

ウクライナも、ロシアパラリンピック委員会も冬季大会の強豪国です。日本の選手たちにとってもライバルであり、競い合う仲間でもあります。

北京大会開幕まであと数日。なんとか解決の方向に向かい、選手たちが笑顔で集い、ルールに基づいた真剣勝負で自己実現ができるよう、強く祈りたいと思います。

(文:星野恭子)