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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(55) 10.18~10.25

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は、10月24日に閉幕した、4年に一度のパラスポーツの祭典、「アジアパラ競技大会」のスペシャルリポートを中心にお届けします。アジアの中で、日本チームはどう戦い、何をつかんだのでしょうか。また、11月1日(土)~3日(祝)には「第14回全国障害者スポーツ大会」が長崎県を舞台に、「長崎がんばらんば大会」として開催されます。お近くの方はぜひご声援ください。

 

■韓国発 「番外編:仁川2014アジアパラ競技大会リポート」

・18日~25日: 韓国・仁川(インチョン)で開かれていた「仁川2014アジアパラ競技大会」の閉会式が24日、同市内の文鶴競技場で行われ、7日間にわたった障害者スポーツの祭典が幕を閉じた。23の競技が実施された今大会は、アジアの41の国と地域から約4500人の選手が参加して史上最大規模で行われ、初出場の北朝鮮を含む、アジアの41の国と地域が参加する史上最大規模で行われ、24の世界新記録(タイ記録含む)と121のアジア新記録が誕生した。アジアの競技力の向上が感じられた。

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【アジアパラ競技大会の閉会式=2014年10月24日/文鶴競技場(韓国仁川市)】

 

 日本からも過去最高の285名の選手が派遣され、22競技に出場し、目標としていた120個を上回る、計143個(金38、銀49、銅56)のメダルを獲得した。メダル獲得数による国別順位では、317個(金174、銀95、銅48)の中国、211個(金72、銀62、銅77)の韓国に次ぐ3位だった。選手223名が19競技に出場し、103個のメダルを獲得し、中国に次いで2位だった前回(2010年中国・広州大会)から順位を落とした。

 

 日本を抜いて2位に入った韓国は史上初めて金メダル数が70個を超えた。ボウリングで11個、水泳で10個、また今大会から正式採用となった車いすダンスで6種目中5つの金メダルを獲得するなど、個人競技で確実にメダル獲得を重ねた。また、総数120個で4位だったイランは金メダルの数は37個で、日本の38個にわずか1個差にまで迫った。また、金22個を含む総数31個で5位に入ったウズベキスタンは、選手団はわずかに26名。「獲得効率」は非常に高く、少数精鋭で躍進した国だ。「獲得効率」でいえば、1位の中国も選手数は日本よりも少ない226名でメダル317個を獲得している。メダル数だけで測れるわけではないが、アジア各国が強化を進め、力をつけてきた一つの証明といえ、日本の現状を知る良い機会になったと思う。

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【陸上4x100mリレー男子T42/47(切断クラス)で大会新記録(45秒12­=日本タイ記録)をマークし金メダルを獲得したチーム・ジャパン。左から、多川知希選手、佐藤圭太選手、鈴木徹選手、山本篤選手=2014年10月23日/文鶴競技場】

 日本選手団の大槻洋也団長は閉会式翌日に行われた選手団解団式で大会を総括し、「今大会は2020年東京パラリンピックが決まって初めての海外での総合大会だった。メダル目標の120個は達成したが、多くの競技で(イランなど)4位以下の国が我々以上の強化策を練っているように感じた。(2016年の)リオデジャネイロ・パラリンピックへのスタートはすでに切られている。我々も、今回のメダル数に甘んじることなく、リオではもっとメダルを獲らなければならない。選手やスタッフが全力で取り組んでいる姿や結果を見せなければ、パラスポーツになかなか目を向けてもらえないと痛感している。これからも精進して、国民が我々を見るように仕向けていこう」と呼びかけ、選手団に一層の奮起を促した。

 

 また、車いすテニスの世界チャンピオン、国枝慎吾は今大会でも単複で2連覇を果たし、優勝者に与えられるリオ・パラリンピックの出場権も手にし、「今回、結果を残せた、残せなかったに関わらず、選手の皆さんはきっと全力を尽くしたと思います。胸をはって帰国しましょう。そして、最高のリオのメダルを皆で目指しましょう」と話し、日本選手団主将としてチームメイトに最後の声をかけた。

 

 日本代表選手の詳しい成績については、日本パラリンピック委員会(JPC)の公式サイトで「日本代表選手成績」リストが公開されている。

 

 各競技団体はそれぞれの目的と目標をもって、今大会に臨んでいた。例えば、陸上競技の身体障害クラス(知的障害クラスもあり)は、計32個(金13、銀11、銅8)のメダルを獲得して目標数を達成し、前大会の総数16個(金6個)からも倍増した。安田享平監督は、メダル獲得とは別に、個々の選手に「自己記録更新」という目標も課していた。対相手の前に、対自分との戦いをというわけで、「自己記録の更新が、世界へつながっていく」と説明する。結果、今大会では、のべ16個の自己新記録が生まれた。本番に合わせるという選手個々の「ピーキング力」と、ドクターやトレーナーの「調整力」など総合力についても手応えを得たという。

 

 ただし、メダル獲得の中身をみると、ロンドン・パラリンピック銅メダリストでT11クラス(視覚障害)の和田伸也の3冠をはじめ、一人で複数のメダルを獲得した選手も数名おり、その多くがすでにパラリンピック出場経験のあるベテラン中心だった。2020年に向けて選手層を厚くするという意味では少し物足りなさもある。だが、初出場で砲丸投げの世界新記録(12m21)を樹立して金メダルを獲得したF46クラス(機能障害)の加藤由希子はまだ21歳の大学生。「今大会での目標、『世界記録更新』が達成できて嬉しい。2020年には14mを出す計算をしている」と頼もしい。その他、メダルまであと1歩の若手も見られた。

 

 競泳陣は、目標の60個には届かなかったものの、前回の51個をわずかだが上回る計52個のメダルを獲得し、日本のメダル獲得数に大きく貢献した。記録を狙って積極的に攻める姿勢も多々見られ、実際、自己新をマークする選手も多かった。最年少16歳の池愛里や17歳の一之瀬メイなど10代選手の活躍も目立ったのは好材料だ。

 

 団体競技も健闘した。例えば、5人制(視覚障害)サッカーは、前回4チーム中4位に終わった悔しさをバネに、今大会は堅い守備型のチームをつくり上げ、5チーム中、1勝1敗2分け(2失点)の2位と躍進した。魚住稿監督は「無失点での金メダルを狙っていたが、最低限の目標、銀メダルを獲得でき、満足はしている。決めきれない得点力については、今後の大きな課題。(シュート力は)個の技術の突破になるので、選手一人ひとりに細かく指示を出し、課題をきちんとクリアすることが大事」と話した。今大会の経験を、来年のリオ・パラリンピック予選に生かし、悲願のパラリンピック初出場につなげたい。

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【韓国との最終戦を0-0で引き分けて銀メダルを獲得した日本チームを率いた落合啓士主将(手前)のドリブル=2014年10月23日/仙鶴ホッケースタジアム】

 ウィルチェア(車いす)ラグビーは今大会から正式採用された競技で、日本が初代王者に輝いた。元々日本は世界ランク4位とアジアの中では群を抜いていた(次は韓国の世界ランク17位)ため、「金メダルを獲って当たり前」というプレッシャーのなか、代表メンバーはあえてベテランと若手を織り交ぜた構成で今大会に臨んでいた。選手交代を駆使しながら、勝ち星を重ねる戦いぶりに、ベテランの仲里進は「若手の国際大会の経験を積めたことが一番の収穫」と話し、エースの池崎大輔も「プレイ中のコミュニケーションはまだ不足しているが、その精度を上げていけばもっと上にいけると感じた」と手ごたえを口にした。

 

 実は涌井俊裕ヘッドコーチも今大会が代表コーチのデビュー戦だった。「今大会は若手の育成大会と位置付け、僕自身も若いコーチとして起用された。ベテラン選手に助けてもらいながら、いろいろな選手と戦術を試すことができた。今大会を通して大きく成長した若手選手も見られ、2020年に向けて大きな収穫」と話していた。

 

 男女とも連覇を目指していた車いすバスケットボールはともに銀メダルに終わった。男子の及川晋平ヘッドコーチは、「練習してきたことを試合で発揮する『遂行力』が弱かった。緻密なバスケットを目指しているが、選手が戦術を理解しても精度が足りずミスが出る。成熟度を高め、遂行力を上げるにはもっと強化合宿や遠征を増やしたいが、合宿地の確保も困難」と話し、現在の練習環境の課題を指摘した。

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【男子車いすバスケットボールの韓国との決勝戦のティップオフ。ボール奪取を狙う、藤本怜央主将(15番)=2014年10月24日/三山ワールド体育館】

 

 さらに、専門性のあるコーチやスタッフが無償で帯同している現状も問題だと話した。本業との兼ね合いで、チームのための活動が制限される現状では強化にも限界がある。「本当は合宿と合宿の間にも練習環境を整えたり、戦術を練ったりなどの活動が大切だが、現体制では難しい。それは選手も同じ。主力選手のなかにも職場の理解が得られず、合宿に参加できない選手もいる。だいぶ改善してきたが、まだまだ」と及川コーチは苦しい状況を話した。

 

 こうした問題は車いすバスケットボールだけでなく、ほぼすべての競技、選手も抱える問題だ。2020年東京パラリンピックが決まり、状況は少しずつ上向いてきているが、劇的な好転は難しい。パラスポーツへの理解や普及がさらに高まり、選手やスタッフの人材確保から練習環境の整備まで、まだ課題は多い。

 

 一方、大会の運営面については、先に行われたアジア大会での反省を踏まえたのか、大きな混乱はなかったように思う。実際、例えば、何人かの選手やスタッフに尋ねたところ、選手村の施設環境としてエレベーターの数が少なく、車いす選手などには少し不便だったようだが、食事内容などは満足できるもので、また各試合会場などへの移動バスもある程度スムーズに運行されていたようだ。

 

 また、今大会では一般公募によって選ばれた人と、学校単位で参加の高校生を合わせた約3500人のボランティアが活躍していた。英語や日本語の堪能な語学ボランティア以外は大部分が韓国語のみだったが、何か依頼したり尋ねたりすると、時間はかかっても「何とか結果を出そうと一生懸命な姿」に好感が持てた。競技運営で「?」と思うことも少なくなく、完璧とはいえなかったが、あまり苛立ちを感じなかったのは、「何とかよくしよう」という努力する姿勢が垣間見えたからかもしれない。

 大会の盛り上がりとしては、残念ながら多くの会場で空席が目立ったが、それでも団体競技の韓国戦を中心に、小中学生や高校生の団体が席を埋め、声援を送る姿も見られた。例えば、陸上競技会場では、韓国選手だけでなく、他国の選手でも最後までゴールを目指す姿や高いパフォーマンスには温かい拍手や声援が送られていた。授業の一環での動員観戦かもしれないが、韓国内での認知度はまだ低いと言われるパラスポーツと触れ合う貴重な機会になったと思う。

 

 こうした子どもたちを会場に連れ出す試みは日本でも積極的に行うべきだと思う。管轄が文部科学省に変わったことで、学校単位の参加を奨励することもしやすくなったのではないだろうか。2020年東京大会成功のためには子どもたちへの働きかけは不可欠だと思う。ロンドン・パラリンピックでも、準備期間中の数年間に選手の学校訪問などを積極的に行ったことが、成功を後押しした一因とも聞いた。さまざまな競技で日本選手権やジャパンパラ大会など国内最高峰の大会が行われている。そうした大会でも現在は、選手の家族や関係者だけが観客席を埋める状況だが、社会科見学の一環など、何かうまいしくみができないだろうかと思う。

 

 次回のアジアパラ競技大会は2018年インドネシア・ジャカルタでの開催が決定している。その2年前にはリオ・パラリンピックが、後には20年の東京大会が続く。手応えも課題も含めた今大会での「収穫」をどう活かすのか。その成果が試される機会はあっと言う間に巡ってくる。

 

■ドイツ発

・23日: 国際パラリンピック委員会(IPC)はサムスン電子社(韓国)がワールドワイド・パートナー契約を2020年東京パラリンピック大会まで延長することに合意したと発表した。同社は2006年からパラリンピック公式パートナーとなり、無線通信機器類を提供している。今回の契約延長に伴い、2016年以降はスマートフォンやタブレット、パソコンのほかプリンターなどの周辺機器の提供も行う。

 

・24日: IPC陸上競技連盟は来年3月、アラブ首長国連合のドバイで第1回IPC陸上競技アジア・オセアニア選手権を開催すると発表した。会期は3月3日から8日までで、45カ国から約600名の選手の出場を見込んでいる。参加対象をアジアからオセアニアにまで広げることで、より高いレベルで競技する機会を増やすことが目的だという。

 

(星野恭子/文・写真)