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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(386) ゴールボール男女日本代表候補、パリ2024へ発進! 女子ベテランの浦田理恵は引退へ。「力出し切った」

視覚障害のある選手たちが得点を競うゴールボール。東京パラリンピックで女子は銅メダル、男子も初出場ながら5位入賞を果たしたゴールボール日本代表チームが次のパリ2024大会に向けて始動しました。

12月11日から12日にかけて、代表チームの競技力向上を目的とした、「2021ジャパンパラゴールボール競技大会」が郷土の森総合体育館(東京都府中市)で行われ、日本代表候補の女子選手10名は3チームに分かれて対抗戦を行い、同男子12名も2チームに分かれ、エキシビションマッチを戦いました。

ゴールボール日本代表の競技力向上を目的に開かれた。「2021ジャパンパラゴールボール競技大会」。新型コロナウイルス感染症の状況を考慮して事前公募で招待された府中市民の観客以外は原則無観客で開催されたが、全試合をYoutubeで生配信された (撮影:星野恭子)

今大会はまた、来年6月に中国で開催が予定され、パリ大会への出場権もかかる世界選手権の日本代表の選手選考にもかかわる重要な位置づけの大会でもあり、代表入りを目指す選手たちにとってはチームの勝利とともに、自身の実力をアピールする貴重な場でもありました。

まず女子は、11日に3チーム総当たりの予選を戦い、2勝したAチームと1勝1敗のBチームが決勝に進出しました。12日の決勝では両チームともに締まったゲームを展開。前半8分50秒にレフトウイングの欠端瑛子選手(セガサミー)が得意の回転投げで先制。後半に入っても、互いに好守備を見せ、結局、AチームがBチームを1対0で破って優勝しました。

Aチームは東京パラで主将を務めた天摩由貴選手(マイテック)、高橋利恵子選手(筑波大院)、欠端選手の3人で、予選でもBチームを6対0、Cチームを2対0で下しており、決勝を含めて完封勝利を果たしました。

守備の要のセンターで、司令塔の高橋選手は、「失点なく終われたのが大きかったです。ウイングに点を取ってもらうように(配球を)組み立てました」と振り返りました。

東京パラリンピック日本代表センターとして活躍した高橋利恵子選手(右)の守備。左は天摩由貴主将 (撮影:星野恭子)

決勝点を挙げた欠端選手は、「チームで立てた作戦を試合の中でしっかりできたし、できなくても声を掛け合って修正できました」と手ごたえを語りました。

■男子も、さらなる高みを目指して

エキシビションマッチとして行われた男子の試合は熱戦となりました。前後半を終え、7対7の同点で延長戦に入り、その後半、東京パラでも活躍した、Aチームの宮食行次選手(サイバーエージェントウィル)が決勝点を決め、勝利しました。

宮食選手は、「東京パラリンピック以来、興奮しました。我慢していれば、チャンスは来ると思い、得点されても切り替えていこうという声掛けはできていました。誰れも下を向くことなくチーム全体でプレーできたことが、逆転勝利につながりました」と声を弾ませました。

同じくAの佐野優人選手(順天堂大)は、「これまでパラリンピック出場が夢でしたが、(東京パラ後)メダル獲得が目標に変わりました。東京パラで、自分の守備は世界に通じることがわかりましたが、攻撃は個の力がまだ足りないとわかりました。もっと世界の選手を圧倒できるボールを投げれるようにしたいと思います」と話し、さらなる成長を誓っていました。

「2021ジャパンパラゴールボール競技大会」で、熱戦となった男子のエキシビションマッチ。(撮影:星野恭子)

市川喬一総監督はパリ大会開幕まですでに3年を切り、新たな代表チームは男女とも東京パラ代表選手がベースとなりますが、スタッフも含めメンバーの入れ替えもあることを念頭において進めているという方針を示しました。

ゴールボールはパリ大会から出場国数が男女各10から8に減ることが決まっており、出場権争いはますます激化する見込みです。コロナ禍で、海外遠征の予定も立てにくいなかでの難しい強化となりますが、「男女金メダル」の目標達成に向け、両チームの一層の奮起を期待したいと思います。

■司令塔、浦田選手が引退へ

今大会ではもう一つ、パリ大会に向けた新生ジャパンのスタートを大きく印象づけるシーンもありました。

女子代表として2008年北京大会から4大会連続でパラリンピックに出場した、浦田理恵選手(総合メディカル)が今年度いっぱいでの代表活動からの引退を表明したのです。12年ロンドン大会では金メダル獲得をけん引、東京大会ではチーム最年長として銅メダル獲得に貢献し、さらに、日本選手団の副主将も務め、開会式では主将の車いすテニス、国枝慎吾選手とともに選手宣誓も行ったレジェンドです。

代表引退を表明し、セレモニーで天摩由貴選手(右)から花束を贈られた浦田理恵選手。プレーはもちろん、その人柄でも日本ゴールボール界をけん引した (撮影:星野恭子)

網膜色素変性症によって20歳をすぎてから視力が低下し失意のなかにあった浦田選手は04年アテネ大会で銅メダルを獲得したゴールボール女子の活躍をテレビで見て、「私にも輝くチャンスがある」と26歳で競技を始めて以来、「センター」を担い、文字通りチームの中心として活躍してきました。

東京大会では新センター、高橋選手の成長で控えに回ることが多かったものの、精神的な柱としてチームを支えました。市川総監督は「彼女なくして銅メダルはなかった。彼女の姿をみて育った若い選手たちが、一人のアスリートとして、一人の人間として、浦田選手から何かを感じてくれればと願っています」と感謝しました。

引退を決めた時期は銅メダル獲得を決めた東京大会終了時であり、その理由は、競技生活にはチーム内でも競争が必要ですが、「仲間の成長がすごくうれしいと思う自分がいました。頼もしいセンターも育っているので、次にバトンを渡す時期なのかなと思いました」と説明しました。

今後も競技普及や代表強化活動には何らかの形で関わっていく意向ですが、日本代表ユニフォームを身に付けての試合出場は今大会が最後となりました。

長年、守備の要として活躍した浦田理恵選手の雄姿(右)。奥は高田朋枝選手 (撮影:星野恭子)

Bチームで出場した浦田選手は予選2戦目のCチーム戦で、前後半戦、そして延長戦も両チーム無得点のまま突入したサッカーのPK戦のような1対1で投げ合うエクストラスローの1人目後攻で登場。まず、Cの神谷歩未選手(日本社会事業大)のボールを止めた後、自ら決勝ゴールを決めて1対0の勝利に貢献。さらに、決勝戦では、予選で0対6の敗戦を喫したAチームに対し、「守備を修正して臨みたい」と話した通り、0対1で惜敗。

「勝って終わりたかったですが、後輩たちの頼もしさを感じながら悔いなくやりきれ、今は清々しい気持ちです。しっかりバトンを引き継げました」とトレードマークの笑顔で振り返りました。

大会終了後には浦田選手を送るセレモニーも行われ、選手やスタッフ、観客らに見守られる中、花束を受け取り、「ゴールボールチームはまだまだ飛躍してまいります。男女ともにパリの金メダルを目指して強化していきますので、皆さん、引き続き応援をどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました」と後輩たちやファンにメッセージを送り、代表ユニフォームに別れを告げました。

浦田選手からリオ大会前に主将を引き継いだ天摩主将は浦田選手の引退宣言に、「正直、寂しいなというのが一番の気持ちです。浦田さんの笑顔とベテランとしての強さや頼もしさに、チームはずっと支えられてきました。長い間、浦田さんにたくさんのことを教えていただいたので、それを今度は自分たちが、実践していく。そして、もっともっと強くなっていきたいと思います」と、さらなる進化を誓いました。

なお、来年1月29日、30日には男女クラブチームの日本一決定戦、「マネードクター2021日本ゴールボール選手権」が秩父市文化体育センター(埼玉県)で開催予定です。浦田選手も含め、今大会で出場した日本代表候補選手たちもそれぞれの所属クラブに戻り、しのぎを削り合う予定です。

久しぶりに有観客での開催も予定されています。「静寂の中の格闘技」ともいわれ、見応えたっぷりのゴールボール、ぜひ、応援ください。

▼マネードクター2021日本ゴールボール選手権
http://www.jgba.jp/play/championship/#1

*本年も「パラスポーツ・ピックアップ」をご愛読くださり、ありがとうございました。来年も北京冬季パラリンピックをはじめ、秋にはアジア選手権も控えます。2022年もパラスポーツへのご声援、どうぞよろしくお願いいたします。

(文:星野恭子)