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ゴルフ界に初速80m/sの時代がやってきた!

 いま世界最高峰のゴルフツアーで何が起こっているか!?

 それは、選手のロングショットのパフォーマンスが驚異的に向上し続けている。

 

 PGAツアーは試合の詳細なデータを取って公表しているが、その記録を見ると、主要選手の平均ボール初速(ティショット)は軒並み75m/sを超えているのだ。

 

 今年メジャーに勝った選手に限っていうと、全英オープン、全米プロに勝ったローリー・マキロイが80.4m/s、マスターズチャンピオンのババ・ワトソンが82.0m/s、全米オープンの覇者マーティン・カイマーは76.6m/sだ。

 初速80m/sというのは、日本のドラコン競技のトップ選手が叩き出す数字とほぼ一緒。飛距離にすると、330~340ヤードキャリー+ランという世界である。76m/sでもキャリーは300ヤードを超えるのに十分だ。つまり世界最高峰の舞台で戦うには、キャリーで300ヤード打てないと話にならないということである。ちなみに昨シーズンの石川遼の平均ボール初速は76.5m/s、松山英樹は75.5m/sである。

 

 国内ツアーはどうかというと、75m/s以上でプレーしている選手はほとんどいないのが現実だ。数年前、日本オープン出場選手のボール初速を計測したことがあるが、上位に来る選手でも70m/sを少し超える程度だった。そのときよりは距離が伸びているだろうが、73m/s前後でプレーしている選手が多いのが現実ではないだろうか。これは要するに、世界に出ていけるポテンシャルを持つ選手は石川、松山以外にはいない、ということに他ならない。

 

 谷原秀人、藤本佳則といった国内トップ選手を指導する阿河徹プロコーチによると、今年の全米プロで日本と世界の差を痛感したという。会場となったバルハラGCの練習場は全長300ヤードで、それ以上打つと試合期間中は使われない逆側の打席にボールが飛び込むのだが、ほぼすべての出場選手がキャリーでその打席に打ち込んでいたそうである。唯一届かないのは日本を主戦場にする選手のみで、戦う前から勝負はついていたといえる。この試合に勝ったローリー・マキロイに至っては、打席を遥かに超える場所にボールが落ちていたそうで、レーザー距離測定器で測ってみるとそのキャリーは約340ヤードだったと阿河氏は証言する。

 

 そう、世界は確実に300ヤードキャリーの時代に入っているのであり、それはプロだけではなくアマチュアの世界でも同じだ。今年の9月、52年ぶりに世界アマチュアチーム選手権が日本で開催されたが、アメリカ、カナダ、スウェーデンといった男子トップチームの選手のキャリーは余裕で300ヤードを超えていたし、見たところ78m/s前後のボール初速でプレーする選手が多かった。

 これは国内のプロツアーよりも遥かに高いパフォーマンスだ。この試合には今年の全米アマで準優勝したカナダのコリー・コナーズや、カナディアンオープンで初日トップに立った同じくカナダのテイラー・ペンドリス、2012年の全米オープンで活躍したアメリカのボー・ホスラーなど、将来を嘱望された選手が多数出場していたが、近い将来、彼らがプロとして表舞台に立つ頃にはより一層パワーゴルフの時代になるだろうし、そこではショートヒッターが活躍できる余地はなくなりそうだ。

 にもかかわらず、日本のプロゴルフツアーがトータル280~290ヤード程度の飛距離で争われているのは、時代錯誤だし制度の欠陥と言わざるを得ないだろう。平板な日本のコースを難易度の高いトーナメントコースに仕立てるにはラフを深くするのが常套手段だが、飛距離がメリットにならないようなセッティングをしてしまうため、ロングヒッターが上位に来られないのだ。選手は飛ばすと損するから飛ばさないのであり、破格の飛距離を持つ選手はバカにされる傾向すらある。

 宮里優作のようにその気になれば初速80m/sを出せる選手もいるのだが、国内ツアーでは必要性がなく宝の持ち腐れ。世界との差を縮めたいのなら、300ヤード以上のキャリーが大きなアドバンテージになるセッティングにして飛ばし屋を養成するべきなのだ。

 

「いや、ショートゲームの精度を上げれば日本人でも十分世界で戦える」という意見は的外れだ。世界最高峰のツアーでは、コロンビア大学の教授が考案した「稼いだ打数」という指標でプレーを分析する方法が主流になっていて、それによればティショットや200ヤード以上のアイアンショットの精度を上げるほうが、ショートゲームやパッティングを磨くよりもスコアを減らすのに貢献することが証明されているのだ。特に重要なのがロングゲームで、世界のトップ選手はもっか、レンジで4番アイアンを打ち込むのに長い時間を費やしているのが世界の常識。200ヤード以上の距離からアイアンで硬いグリーンに止まる球を打てないとメジャーでは戦えないし、それには最低でもボール初速75m/s以上のポテンシャルが絶対に必要だ。

 

 だからもし、将来ゴルフを職業にしようと考えるなら、目先のスコアなど気にせず、とにかく強く振ってポテンシャルを上げることだ。初速70m/s程度でプレーするアマチュアが国内ツアーで上位に入ったとしても、いい思い出にはなるだろうが、それがプロとして生活できるという保証にはまったくならないのである。

 

 ショートゲームは練習すれば必ず上手くなるが、ロングゲームのポテンシャルは一度ゴルファーとして完成されてしまうと、なかなか上げることができないので、ぜひとも若いうちはブンブン振り回すことをおススメしたい。くれぐれもジュニアゴルファーの段階でスコアにこだわり過ぎないことだ。ポテンシャルを上げれば自ずとスコアはついてくる。

「自分は世界で戦うことは考えていない。国内ツアーで稼ぐんだ」というスタンスのエリートゴルファーは多いかもしれないが、ガラパゴス化した日本ツアーが今後存続する保証はどこにもないことを念頭に置いて練習すべきだろう。

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(小林一人/文と写真)