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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(375) IPC、世界12億人の障害者の人権を守る運動「WeThe15」をスタート

今号では、国際パラリンピック委員会(IPC)が東京パラリンピックを契機に新たに立ち上げた、「WeThe15(ウィーザフィフティーン)」という新しいキャンペーンについて紹介します。

「WeThe15」は、世界の人口の15%にあたる約12億人に上るといわれる障害者の人権を守り、その生活を今後10年間で変革させることを目的にした国際的な人権運動です。障害者に対する差別的な状況を改善するため、障害者が直面している課題の認知や理解向上に国際的なスポーツイベントを活用していこうというものです。

このため、IPCと、スペシャルオリンピックス(知的障害)、インビクタスゲーム財団(傷病兵)、国際ろう者スポーツ委員会(聴覚障害)が初めて連携。さらに、国際障害者同盟や国連人権理事会、ユネスコといった主要な国際機関も協力し、キャンペーンを進めていくそうです。

東京パラリンピックの開会式では、キャンペーンの紹介とともに、印象的なシンボルも披露された。紫色は長年、障害者コミュニティを示す色とされている (撮影:星野恭子)

具体的には、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「障害者権利条約」にそって、次の方法で障害者に対する人々の考え方を変え、障害者が参画できるより多くの機会創出を目指します。

・ 障害者を多様性と社会的包摂を実現する世界目標の中心的存在に位置づける。
・ 障害者の社会的包摂を推進するために、政府や企業、一般市民を対象としたさまざまな活動を実施する。
・ 障害者が自らの可能性を発揮し、社会の一員として活躍することを妨げている社会的、制度的障壁を取り除く。
・ 障害者の認知度や可視性、代表性を高める。
・ 社会的包摂を推進するための手段としての支援技術の役割を促進する。

「WeThe15」のスタートに寄せて、主導するスポーツ団体の代表が発表したコメントは次の通りです。

IPCのアンドリュー・パーソンズ会長:
「『WeThe15』が障害者のための史上最大の人権運動となることを目指し、民族や性別、性的指向などと並んで、障害者をインクルージョンという課題の中心に置くことを目的としています。何らかの障害のある人たちは世界で最も人口が多い属性にも関わらず、疎外されています。主要な国際組織と世界12億人の障害者が同じキャンペーンのもとに団結することで、障害者の生活に具体的な変革をもたらす時が来ています。スポーツは社会に好影響をもたらしますし、パラリンピックなどのスポーツイベントは世界中の人々の注目を集める強力な手段です。スペシャルオリンピックス、インビクタスゲーム、デフリンピックと協力することで、今年から2030年までの10年間に、障害者を対象とした大規模国際スポーツ大会が少なくとも年1回開催され、『WeThe15』を紹介できます。私は、『WeThe15』が障害者にとって真のゲームチェンジャーとなると確信しています」

スペシャルオリンピックスのメアリー・デイビスCEO:
「開発と平等のための世界目標を達成するためには障害者が社会の片隅に追いやられてはなりません。障害者は国境や年齢、性自認や所得など、あらゆる属性を横断して存在するため、縦割りのプログラムからは除外されがちです。スポーツは障害者を傍観者から解放し、持続可能な社会に向けた世界の発展を加速させる効果的な手段です。スペシャルオリンピックスは『WeThe15』のメンバーであることを誇りに思います」

インビクタスゲーム財団の後援者、サセックス侯爵ヘンリー王子:
「私がインビクタスゲームを創設しようと思った理由の一つは、身体的、精神的に傷を負った経験を持つ人々でも本気で取り組めば、どんなことでも成し遂げられるということを世界に示す場を作ることでした。インビクタスゲーム財団の関係者全員が、『WeThe15』キャンペーンに参加できることを光栄に思うとともに、世界中のコミュニティに意味のある変化をもたらすことのできる使命だと信じています」

国際ろう者スポーツ委員会のグスタボ・ペラッゾロ会長:
「スポーツは障害を持つ人々を結びつける世界共通の言語です。主要な障害者スポーツ団体は初めての試みとして国際的なスポーツイベントやアスリートのコミュニティの注目度を利用し、障害者の障壁を取り除き、権利を守ります。『WeThe15』は新しい時代の幕開けです。完璧さだけを求めるのでなく、世界を変えようとする人たちの強みに目を向け、先入観を持たず、誰も置き去りにしないよう行動する時です。障害者を妨げている誤解や偏見をなくすために皆が視点を変え、意識を高めることに力を注ぎます」

東京パラリンピックの閉会式終盤、聖火台も、『WeThe15』のシンボルカラー、紫色に染まった (撮影:星野恭子)

さて、東京パラリンピックは賛否両論あるなかで開催されましたが、自国開催ということもあり、これまでになく多くの人たちがテレビやネットなどを通して競技を観戦。障害のあるアスリートたちのパフォーマンスに驚き、魅了された人たちも多かったと思います。パラリンピックを通して、パラアスリートがもつポジティブなイメージも広く発信され、『WeThe15』の貴重な一歩となったように思います。

今後、『WeThe15』の重要なPRの場となるスポーツイベントが連続して開催予定です。来年は、3月に北京冬季パラリンピック、4月にインビクスタスゲームズ(オランダ)、5月にはデフリンピック(ブラジル)が予定されています。2023年にはロシアでのスペシャルオリンピックス冬季大会、24年にはパリで夏季パラリンピックと続きます。

人々の考えや姿勢を変えていく取り組みにはじっくりと地道な活動が不可欠ですし、また、できるだけ目に見える形で訴えかけ続けることが大切。キャンペーンの今後の進展に注目していきたいと思います。

▼WeThe15公式サイト
www.WeThe15.org

▼WeThe15キャンペーン動画 (1分30秒/音声注意)
https://www.youtube.com/embed/Ng6mT_EJy2Q

(文:星野恭子)