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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(374) 東京パラを、ゴールでなく、スタートラインに

東京パラリンピックが閉幕して1週間が経ちました。コロナ禍による1年延長を経て、緊急事態宣言下で、安心・安全を最大目標に掲げて実施された異例の大会となりましたが、この大会が成功したのかどうか、本当の結果が判明するのはもう少し先のことになるかなと感じています。

東京パラリンピック閉会式の終盤、会場に掲示された、[ARIGATO]のメッセージ。オリンピックでも掲げられ、オリパラ一体をここでも感じた。(撮影:吉村もと)

一つ言えることは、今大会は「ゴールではなく、スタート」。賛否両論ある中で開かれた自国開催の大会だったからこそ、新たな未来を拓くためのきっかけにしたい。そのためにも今、このタイミングでその影響について少しずつ振り返ってみたいと思います。

コロナ禍の影響が心配されましたが、結果的に162の国と地域に、難民選手団を加え、史上最多約4,400人の選手たちが参加し、世界記録をはじめ、新記録更新に沸いた競技もありました。

無観客という異例の中で行われましたが、日本では自国開催ということもあり、メインのNHKでは多チャンネルで史上最長の放送時間が割かれました。SNSなどインターネットを使った情報発信も積極的に行われました。オリンピック、パラリンピックを通して、大会組織委員会主催のメダリスト会見もインターネットで一般公開され、多くの人が選手の喜びの声や表情をリアルタイムで見ることもできました。

おかげで、今までほとんど見たことのなかった人にも、「パラリンピックが持つ多様性」や「パラアスリートのパフォーマンスのすごさ」などに触れる機会になったのではと思います。選手たちの躍動する姿は多くの人々の心に響き、パラリンピックの魅力や価値を強く、広く伝えるものになったことと思います。

日本選手団は金メダル13個を含み、計51個のメダルを獲得し、国別ランクで11位になりました。入賞者数も109だったそうです。前回リオ大会では金はゼロで、総個数は24個でしたから2倍超え、12年ロンドン大会では金は5個、総個数は16個だったので3倍以上の結果でした。

例えば、日本選手団のメダル第1号で、日本パラリンピック史上で最年少のメダリストとなった水泳の山田美幸選手は14歳。一方で、自転車の杉浦佳子選手は50歳で金メダル2つを獲得。金メダリストの最年長記録を更新しました。幅広い年齢の選手が活躍できるのもパラリンピックの魅力でもあります。

もちろん、メダル獲得数だけで活躍のすべてを図ることはできませんが、過去数年にわたっての戦略的な強化策が一定の成果を示したと言えるでしょう。例えば、国の施策としてバリアフリー化されたナショナルトレーニングセンターが新築されたり、競技に特化した地域での専用の強化拠点なども設置されたり、パラアスリートの競技環境が充実しました。また、スポーツ庁の管轄下におかれたことで、強化費が大幅に増えたということもあります。また、企業の力も見逃せません。競技に専念できる雇用形態であるアスリート雇用や、プロ選手への支援、社員のボランティア活動奨励なども含めた積極的な支援がここ数年、見られました。

予算をつけて環境を整え、時間をかけて強化をすれば、強くなれる。そういう当たり前のことが実行され、成果を示しました。こうした実績が東京パラで終わってしまうことなく、今後にもどうつなげていくかが大きな課題です。

近年、パラリンピックを開催した、中国、イギリス、ブラジルといった国々は今、パラリンピック大国となり、例えば、メダル獲得数を伸ばし、大きな活躍を見せています。日本もこの例につながっていけるのか、これからの取り組みが問われていると思います。

このように、競技面では一定の成果が見られましたが、ここからさらに一歩進めて、大会が掲げる「共生社会の実現」にどうつなげていくかは、また別の課題だと思います。

例えば、障害のある一般の人たちのスポーツ環境も整えていく必要があります。障害のある成人のスポーツ実施率は障害のない成人に比べると、まだまだ低いのが現状です。障害のある人が気軽に使えるスポーツ施設が少ない、指導者や支援者が少ないなどの背景もあります。パラリンピックで注目されたパラスポーツがもっと普及し、楽しまれるための環境整備も考えていくべき課題だと思います。

もう一つ、パラリンピックを通して、トップアスリートの持つ能力について広く伝わったとは思いますが、それが一概に、「障害は努力すれば、乗り越えられるもの」とか、「できない人は努力していない」といった誤った価値観につながってほしくないなと願っています。

大会が掲げたコンセプトの一つ、「多様性と調和」は互いに違いを認め尊重しあい、そのうえで、「みんな違って、みんないい」という考え方でまとまっていくことだと思います。パラアスリートの活躍によって、新たな分断が生まれてしまっては元も子もありません。

自国開催のパラリンピックによって、これまで触れたことのなかった人もパラスポーツやパラアスリートに触れる機会を持ち、何かを感じ、考えるきっかけになったはず。この経験をどう生かしていくかによって、東京2020大会の成否は変わるのではないでしょうか。

「無事に終わってよかった」でなく、発信しつづけることも含めて、「新たなスタート」だとしっかり認識し、取り組んでいかねばと思っています。

(文:星野恭子)