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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(47) 8.28~9.1

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今回はパラ・サイクリングのロード世界選手権でアジア選手初の金メダル獲得という快挙のニュースをはじめ、国内外で奮闘するパラ・アスリートたちのニュースが満載です。最後には先月末にリリースされたリオ・オリンピック・パラリンピックのボランティア募集情報も載せておきました。世界中から広く募集中です。

 2020年東京パラリンピック開幕日(8月25日)まで6年を切りました。どの競技も、世界の動向を的確につかむとともに、長期的な視野に立ち、実践的な強化計画と実施がますます重要になっています。

 

■パラ・サイクリング

・28日: 米国サウスカロライナ州グリーンビルで「2014パラ・サイクリング・ロード世界選手権」が開幕。大会は過去最高の44カ国から約300選手がエントリーしており、日本からは男子1名、女子2名+視覚障害選手のパイロット1名の計4選手が出場する。

 

・29日: ロードタイムトライアル(24.9km=8.3kmx3周回)が行われ、女子Bクラス(視覚障害タンデム)(⇒註1)の鹿沼由理恵(パイロット田中まい)が2位に51秒14の大差をつける34分46秒04で金メダルを獲得した。同大会でアジア選手ペアのロード種目での優勝は史上初という。

 

 日本自転車競技連盟(JCF)の公式サイトによれば、優勝した鹿沼は、「スタートから慎重にペースを守り、ゴールまで全力で走り切ることができました。パイロットの田中さんと優勝することができて嬉しさも2倍です」とコメントし、パイロットの田中も「コーチの方、スタッフの方のサポートのもと、鹿沼さんと力を合わせて最後まであきらめずに全力で走り切ることができました。結果、優勝することができて最高に嬉しいです」とコメントしている。

 

 鹿沼は2010年バンクーバー冬季パラリンピック出場経験もあるクロスカントリースキー選手だったが、14年ソチ大会に向けた練習中の事故でスキーを断念。その後、サイクリングに転向して実力を伸ばし、現在は16年リオデジャネイロ・パラリンピック出場、そしてメダル獲得を目指している。

 

また、男女機能障害クラス(16.6km=8.3kmx2周回)では、男子C3クラス(⇒註2)の藤田征樹が8位入賞、女子C2クラスの藤井美穂が7位に入賞した。両下腿切断の藤田は両足に義足をつけて競技し、右大腿切断の藤井は右足に義足は付けず、左脚だけでペダルを踏む。

 

⇒註1 Bクラス(視覚障害タンデム): 2人乗りのタンデム自転車を用い、視覚障害の選手が後ろ、健常の選手が前(パイロット)でペアを組んで競技を行う。

 

⇒註2 Cクラス(機能障害): 自転車競技用の自転車を用いて行われるクラスで、障害の程度によって、重いほうから1~5のクラスに細分される。この他に、パラ・サイクリングでは機能障害Hクラスと機能障害Tクラスがある。前者は手で漕ぐハンドバイク車を用い、Cクラス同様、障害の程度により5クラスに細分され、後者は3輪のトライサイクル車を用い、障害の程度によって2クラスに細分される。

 

・31日: 男女ロードレースが行われ、距離81.6km(10.2kmx8周回)で行われた女子Bクラスの鹿沼・田中ペアは2時間8分28秒でフィニッシュした先頭集団7組の中で、ゴール前のスプリントで粘り、4位に入賞した。

 

 男子C3クラスは距離71.4km(10.2kmx7周回)で行われ、藤田が1時間49分38秒で5位に入賞した。優勝したアイルランド選手から1分52秒差の総勢13選手からなる集団でのフィニッシュだったが、ラストのスプリント力を発揮し、着順をあげた。

 

 女子C2クラス(距離51km=10.2kmx5周回)の藤井は周回中、他クラスの男子選手に後方から接触され、落車。途中棄権となったが、運営上の事故として救済され、完走扱いの7位入賞となった。

 

■パラ・トライアスロン

・29日: トライアスロン世界シリーズの今年度最終戦となるグランド・ファイナルがカナダ・エドモントンで開幕。パラ・トライアスロンでは日本からエリートの部に4選手と2名のガイド、オープンの部に2選手が出場する。レースはスイム750m、バイク20.4km(5.1kmx4)、ラン5km(2.3km+2.7km)のスプリント・ディスタンスで行われる。

 

・30日: パラ・トライアスロン・エリートの部が行われ、男子PT4クラス(⇒註)の古畑俊男が日本人トップでフィニッシュしたが、タイムは1時間9分58秒で同クラス14位だった。同クラスの優勝はM.シュルツ(ドイツ)で、タイムは1時間1分3秒。また、土門伸行は1時間22分19秒で同クラス19位だった。

 

 古畑は、グランド・ファイナル初出場となった昨年のロンドン大会では4位に入り、今年はPT4クラスのアジア王者として今大会に臨んでいた。苦戦を強いられた一因には今年度導入された新クラス分けの影響も大きいだろう。昨年は右膝下義足の古畑は全6クラス中のTRI5というクラスだったが、全5クラスに統合された今年度はPT4に区分された。PT4は立位選手の中で障害の程度が最も軽度のクラスで、昨年度のTRI5と大きく異なるのは古畑のような下肢障害だけでなく、上肢障害の選手も含まれている点だ。

 

 実際、今大会ではPT4クラスの14位と沈んだ古畑だが、参考までに昨年のTRI5を基準にすると、昨年と同じ4位になるという。古畑によれば、「昨年の上位(1~3位)の選手とは顔ぶれが違った。新陳代謝の激しさを感じた」そうだが、同レベルを保っている古畑は健闘しているといえるだろう。

 

 パラ・トライアスロンは2016年のリオデジャネイロ大会でパラリンピック・デビューを果たす新競技だ。運営面は過渡期にあり、クラス分けについても今後、再検討される可能性もある。現在52歳の古畑は、「今大会では順位は厳しいものだったが、収穫もあった。(リオ大会に向けてクラス分けが)どのような形になっても、粛々と取り組んでいく」と悲願のパラリンピック出場に向けて改めて強い決意を語ってくれた。

 

 また、PT5クラス(視覚障害)の中澤隆とガイド原田雄太郎のペアは1時間20分47秒で同クラス12位。アメリカのA・シャイディースが1時間58秒で優勝した。

 

 女子PT5の山田敦子とガイド武友麻友組は1時間27分25秒で同クラス9位。優勝は1時間9分49秒をマークした、A.パトリック(イギリス)だった。

 

・9月1日: グランド・ファイナルのパラトライアスロン・オープンの部が行われ、男子PT4クラスで佐藤圭一が1時間9分16秒で優勝した。

 

 佐藤は2010年バンクーバー冬季、14年ソチ冬季と2大会連続でパラリンピック出場を果たしたクロスカントリースキー選手だが、スキー練習の一環としてバイクやランを行っていたことからトライアスロンにも挑戦を開始。今年5月の「世界シリーズ横浜大会」で大会デビュー以降、国内数大会に出場して連続優勝を果たすなど、めきめき頭角をあらわしている。

 

 また、PT3クラスに出場した橋本健児は1時間27分28秒でクラス2位だった。

 

⇒クラス: 2014年度のパラ・トライアスロンのクラスは競技方法と障害の内容によって5つに大別されている。PT1は「座位」で競技を行うクラスで、バイク種目はハンドバイクで、ラン種目はレーサー(競技用車いす)を使う。PT2~4は「立位」で競技を行うクラスで、麻痺や切断などによる運動機能障害があり、障害の重いほうから2~4に細分される。PT5は視覚障害(全盲または弱視)のある選手のクラスで、各選手は必ず「同性のガイド1名」と一緒に競技を行い、バイク種目はタンデム(二人乗り)車を使う。詳細は、日本トライアスロン連合の公式サイトまで。

 

■車いすテニス

・31日: 米国ミズーリ州セントルイスで26日に開幕した「全米オープンUSTA車いすテニス選手権」で男女シングルス決勝が行われた。男子は世界王者の国枝慎吾がS・ウデ(フランス)に7-5、6-3で優勝した。国枝はさらに、ウデと組んだダブルスでも優勝し、単複制覇した。

 

 女子は準決勝で世界ランク1位の上地結衣を破った同4位のJ・グリフェン(オランダ)がS.エラーブロック(ドイツ)を6-1、6-3で退け、優勝した。グリフェンもA.ヴァンクート(オランダ)と組んだダブルスも制し、単複優勝を果たした。

 

 同大会は、国際テニス連盟(ITF)が主催するスーパーシリーズの最終戦。国枝はこの後、ニューヨークに移動し、今年度のグランドスラム最終戦で、9月4日にスタートする全米オープン車いすテニスの部に参戦する予定。

 

■ブラインド・サッカー

・29日: 日本ブラインドサッカー協会(JBFA)は11月に日本で初めて開催される予定の「IBSAブラインドサッカー世界選手権2014」(11月16-24日/国立代々木競技場フットサルコート)の試合スケジュールを発表した。大会には世界12チームが出場、開幕から20日までは4チームずつ3組に分かれてグループリーグが行われる。

 

 開催国日本はグループAに入り、16日にパラグアイ(コパ・アメリカ3位)と開幕戦を戦い、18日にモロッコ(アフリカ代表)と、19日にフランス戦(欧州選手権2位)と対戦する。試合詳細は下記の通り。

 

  16日(日) 13:30 パラグアイ戦

  18日(火) 19:30 モロッコ戦

  19日(水) 19:30 フランス戦

 

 その他の対戦カードや大会日程は、こちらから。

 

・30日: JBFAが毎年主催している地域リーグ戦のひとつで、関東地域チームを対象とする「関東リーグ2014」が開幕した。今年度はブラインドサッカー(全盲クラス)6チーム、ロービジョンフットサル(弱視クラス)3チームがエントリーしており、来年1月までの5カ月間に全9節が実施され、それぞれの王者が決まる。

 

 この日、ミズノフットサルプラザ調布(東京・調布市)で行われた第1節では3試合が行われ、開幕戦はブラインドサッカー部門で昨季2位のたまハッサーズと同5位の埼玉T.Wingsが対戦し、1-1の引き分けに終わった。第2試合は昨季の覇者、Avanzareつくばが同6位の山梨キッカーズを12-0と圧倒した。第3試合はロービジョンフットサルで昨季優勝したA.C TOKYOが同3位の東京 N-flugelsを1-0で退けた。

 

 次節は9月15日(祝)に、しながわ中央公園(東京・品川区)でブラインドサッカー(全盲クラス)の3試合が予定されている。

 

■陸上競技

・31日: 札幌市の大通公園を発着点とする42.195㎞のロードコースで行われた北海道マラソンに、日本盲人マラソン協会(JBMA)の強化指定選手12名(男女6名ずつ)が出場した。大会速報によれば、男子6選手の中でトップに入ったのは弱視(伴走者なし)の岡村正広で2時間35分52秒。女子のトップは弱視(伴走者あり)クラスの日本記録保持者、道下美里でタイムは3時間17分41秒だった。他の10選手も全員完走した。

 

 JBMAによれば、一般的にマラソンのシーズンは冬期間だが、パラリンピックでは陸上競技は夏季大会の競技であり、マラソンも実施される。2016年のリオデジャネイロ、さらに20年の東京大会を見据え、「夏マラソン対策は必須」。そこで今年から、毎年8月末に開催されている北海道マラソンを強化指定レースと位置付け、取り組みを始めたという。来年以降も継続していく意向。

 

■ブラジル発

・29日: 2016年リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック大会組織委員会は同大会公式サイトで大会ボランティアの募集を開始した。

 

 募集されるボランティアは合計70,000人(オリンピック45,000人、パラリンピック25,000人)で、2016年2月末時点で18歳以上、最低10日間の活動ができるなどいくつかの条件を満たせば、世界中誰でも応募できる。申込み期限は11月15日まで。募集に関する詳細や申込みフォームは、大会公式サイトでご確認ください。

 

(星野恭子/文)