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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(46) 8.15~8.24

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今回は世界トップ選手のみが出場できる陸上競技シリーズの最終戦で、山本篤選手が金メダル獲得という嬉しいニュースが飛び込んできたほか、知的障がい者サッカー日本代表の「もう一つのW杯」での健闘ぶり、さらには2020年東京パラリンピック開催決定を受けて日本パラリンピック委員会(JPC)が主催した、選手発掘イベントの模様などをリポート。パラスポーツの広がりに手ごたえを感じつつ、だからこそ取り組むべき課題についても改めて考えさせられた週となりました。

 

■陸上競技

・23日: 英ウェールズのスウォンジーで19日から開催中のIPC(国際パラリンピック委員会)陸上競技ヨーロッパ選手権で、ドイツのマルクス・レームが走り幅跳び男子T42/44クラス(片大腿切断/片下腿切断など)で、7m63(1086点)で優勝した。彼は先月のドイツ選手権の走り幅跳びで8m24を跳び、健常者を抑えて優勝して話題となっていた。

 

 この日はあいにく風に翻弄される試合となり、自身のもつT44クラスの世界記録(7m95)の更新はならなかったが、2位に入ったT42クラスのデンマーク選手(6m22/975点)や3位のT44クラスのオランダ選手(6m78/930点)らを大きく引き離す跳躍だった。

 

 大会公式サイトによれば、レームは「今日は向かい風や横風が強く、踏み切りを合わせるための助走距離を見極めるのが難しかった。今シーズンはとても調子がよかったので、ここスウォンジーでも8mに近いジャンプを期待していたが、できなかった。これからの目標はジャンプの安定感に取り組むこと」とコメントした。

 

 なお、レームが7月末のドイツ選手権で8m24を跳び優勝したことで、ドイツ代表として健常者のヨーロッパ選手権(8月12日~17日)への出場も期待されたが、ドイツ陸上競技連盟(DLV)は「義足の有利性への疑問」を理由に、今回はレームを代表に選ばなかった。この判断に対し、レームにはスポーツ仲裁裁判所への提訴の可能性もあったが、その後の報道などをみる限り、レームの周辺でそうした動きや発言は見られない。おそらく現時点ではDLVの判断を受け入れ、まずは障害者陸上という舞台でのさらなる向上を目標にしているように思われる。

 

・24日: 国際パラリンピック委員会(IPC)が主催し、世界ランキング上位者など招待選手のみで行われる陸上競技大会「グランプリシリーズ2014(全9戦)」(⇒註)の最終戦、「IPC陸上競技グランプリ・ファイナル」がイギリス・バーミンガムで行われ、男子100mT42クラス(片大腿切断)で山本篤が26秒43で優勝した。山本は昨年も同種目で招待され、2位に入っていた。

 

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<参考写真>第19回関東身体障害者陸上競技選手権大会での山本篤選手の力走=2014年7月6日、東京・町田市立陸上競技場/撮影:星野恭子

 

 今大会は全15種目に約90選手が招待されたなか、日本勢は山本のほか、3選手が出場。男子1500mT53/54クラス(車いす)で樋口政幸が3分12秒04の5位、同T20クラス(知的障がい)で中川大輔が4分06秒19のシーズンベストをマークして7位、女子走り幅跳びT42/44クラスで佐藤真海が4m51で6位だった。

⇒IPC陸上競技グランプリシリーズ: 国際パラリンピック委員会(IPC)が2013年度からスタートさせた陸上競技の国際大会のシリーズで、今年度は最終戦まで含め、全9戦が行われた。出場選手は世界ランキング上位など世界トップ選手のみを対象に、大会ごとに実施種目に応じて招待される。

 

■知的障害者サッカー

・22日: 「もうひとつのW杯」と呼ばれ、12日からブラジルで開催中の知的障害者サッカーのワールドカップ、「INAS(アイナス)サッカー世界選手権」で、日本代表は予選リーグを終えてB組2位、ベスト4で史上初の決勝トーナメント進出を果たした。臨んだ準決勝では、A組1位で、現在、大会2連覇中の強豪サウジアラビアに挑んだが、惜しくも1-3で敗れ、決勝進出を逃した。

 

・23日: 初のメダル獲得を目指して3位決定戦に臨んだ日本は、予選リーグでは1-5で敗れたポーランドに対して善戦したものの、0-2で敗れ、4位に終わった。途中、相手ファウルによる負傷退場で、攻守の要であり、キャプテンのMF野澤雄太を欠く不運もあり、悲願達成とはならなかったが、大崩せず、粘れたことは、地道な強化の表れだろう。今後の活躍が期待される。

 

 なお、決勝戦はサウジアラビアが南アフリカに4-2で勝利し、大会3連覇を果たした。

 

■東京発

・20日: 日本障がい者スポーツ協会、日本パラリンピック委員会(JPC)は、10月に開催される「アジア・パラ競技大会」(18日~24日/韓国インチョン)に派遣する選手、役員の第2次発表を行った。詳しい名簿などは、JPC公式サイトから確認できる。なお、第1次発表は8月5日に行われている。

 

・23日: 2020年東京大会など将来のパラリンピックで活躍できる選手の発掘を目的として日本パラリンピック委員会(JPC)が主催したイベント、「めざせパラリンピック!可能性にチャレンジ2014」が23日、東京都障害者総合スポーツセンター(東京・北区)で開催された。JPCによれば、こうした選手発掘イベントは今回が初の試みという。

 

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【車いすテニスを体験する少女】

 

 事前に体に何らかの障害をもつ10歳から25歳までの人が公募され、この日は関東近郊を中心に仙台市や福岡市など各地から約80人が参加、陸上競技や水泳のほか、ゴールボールやアイススレッジホッケーなど15以上の競技団体が競技体験会や情報提供などを行った。多くのパラリンピアンも駆けつけ、競技のデモンストレーションを行ったり、競技内容や練習などに関する質問や相談などにも気軽に応じた。

 

 また、「パラリンピックアスリートへの道」と題した講演会も行われ、1992年バルセロナ大会からパラリンピック6大会に連続出場し、日本人最多となる21個のメダルを獲得している、全盲のスイマー河合純一氏が、「みなさんには無限の可能性がある。やりたいことを見つけて夢と目標をもってがんばってほしい。がんばれば必ず応援してくれる人が現れるし、口だけじゃなく行動に表せばきっと目標に近づける」と満員の観衆に呼びかけた。河合氏は現在、日本身体障がい者水泳連盟会長も務めている。

 

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【講演会「パラリンピックアスリートへの道」で講師を務めた元日本代表選手たち。左から、為末大氏(陸上競技、河合純一氏(パラ水泳)、鈴木徹氏(パラ陸上競技)、京谷和幸氏(車いすバスケットボール)

 

 また、イベントにはオリンピアンたちも協力。その一人、陸上競技400m障害で活躍した為末大氏は講演会にも参加し、「ヒーローは世界を変えることができる。2020年の東京大会でパラリンピアンの中からヒーローが出現すれば、そこから本当に世界が変わるようなことが起こるだろうと思う。だから、今日はすごく期待してこのイベントにきている」とエールを送った。

 

 「スポーツは未体験」という参加者も少なくなく、画期的な試みに各競技の体験ブースは終始、盛況だった。ほとんどの競技を試したという車椅子の男子は、「どれも面白かった。まだ一つには絞れない」と話し、初めてタンデム(二人乗り)自転車に乗ったという視覚障害のある女子は、「風が気持ちよかった」と笑顔を見せた。レーサー(陸上競技用車椅子)の体験会では、「(レーサーを)持ち運びはどうすればいいのか」など具体的な質問も飛び出し、「実際に始めさせたいが、どんな機会や手続きがあるのか」など熱心に情報収集する保護者の姿も見られた。

 

 30日には神戸市でも、同様のイベント開催が予定されている。

 

■大阪発

・15日: 一般社団法人「日本記念日協会」は新しい記念日として8月25日を障がい者スポーツの日を表す「パラスポーツ(para-sports)の日」として登録認定した。これは2020年東京パラリンピックの開会式が行われる8月25日を記念して、障がい者スポーツを支援するNPO法人「アダプテッドスポーツ・サポートセンター」(⇒註)の申請により、制定された。

 

 同センターによれば、東京パラリンピックのPR活動を行い、大会の認知度を高めるとともに、障がい者への理解を深めることが目的であり、この記念日とともに、8月25日から31日までの1週間を「パラスポーツ週間」として位置づけ、2020東京大会のPRと障がい者のスポーツの普及・振興を全国に推奨していく意向だという。

 

⇒NPO法人アダプテッドスポーツ・サポートセンター(大阪市): 2005年に設立された団体で、学校や企業、地域などと協力し、高齢者や障害者に関わる個人や団体に対して、アダプテッドスポーツ(障害者のスポーツの別称)を支援する事業を行うことで、アダプテッドスポーツの振興に寄与することを目的としている。目的達成のため、調査研究、情報提供、普及啓発、人材育成、催事支援などの活動を展開。公式サイトはこちら

 

(星野恭子/文・写真)