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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(44) 8.4~8.10

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号も国際大会の模様などをリポートしています。日本選手の活躍とともに、競技の普及やファン拡大を目標に行われているさまざまな取り組みにもご注目ください。

 

■ゴールボール

・8日~10日: 8日から有明スポーツセンター(東京都江東区)で「2014ジャパンパラ・ゴールボール競技大会」が日本女子代表A、Bの2チームとオーストラリア女子代表の3チームが参加して開催された。決勝は日本のAチーム(安達阿記子、浦田理恵、中島茜、欠端瑛子)がオーストラリアを5-0で勝ち、金メダルを獲得した。若手主体のBチーム(小岩井亜樹、天摩由貴、安室早姫、若杉遥)は5敗1分けの3位だった。

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【ゴールボールは攻守に分かれ、ボールを交互に投げ合い得点を競う球技。写真は優勝した日本女子Aチームの欠端選手が対戦するオーストリア陣に向けてボールを投げる瞬間。バスケットボール大のボールは1.25㎏と重く、硬い】

 

 Aチームは予選リーグを6戦全勝で突破。決勝戦では体格で勝るオーストラリアチームを相手に、前半を2-0で折り返すと、後半も持ち味の堅いディフェンスからの丁寧にコースをついた攻撃で得点を重ね、リードを広げて逃げ切った。

 

 優勝した日本Aチームの主将、浦田理恵は、「日本の皆さんにゴールボールを生で見て応援していただけることは、私たち選手のモチベーションもすごく上がること。緊張もするが、そのプレッシャーを感じながら、どこまで自分たちがやれるかというところに挑戦できる貴重な機会をいただき、感謝している。今大会のチームとしての目標はパーフェクト(無失点)での全勝優勝。勝利という目標は達成できたが、予選で2失点。世界はもっと強い。今後は勝ち方にこだわって、もっと貪欲にゼロ(点)で抑え、1点でも多く得点を重ねていかねばならないと、いい刺激になった大会だった」と振り返った。

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【日本が世界に誇る「一文字ディフェンス」。3選手の中心でボールに手を伸ばすのが、日本チームの中軸、そして守備の要、浦田理恵主将】

 

 日本代表のヘッドコーチで、今大会ではAチームを率いた江黒直樹ヘッドコーチは、「今大会には、Bチームは強化、トップチームは複数ポジション(センター、左右ウィングを各選手がこなす)というテーマをもって臨んでいた。若い選手が海外の選手とこれだけの試合を戦えたことは大きな収穫。また、複数ポジションのトライについては各選手の個性を生かした攻め方、守り方という点で課題が見えたが、(全体的に)いい大会だった」と総括した。

 

 ジャパンパラ大会は、日本障がい者スポーツ協会が競技団体と共催で開催する国内最高峰の競技大会で、国内における競技力向上と記録の公認を図ることなどを目的に陸上競技や水泳など一部競技で実施されてきたが、ゴールボールは今年度より開催競技として加えられた。2012年のロンドン・パラリンピック競技大会で金メダルを獲得した日本女子チームの競技力の向上などが目的で、今後も海外チームを招聘して開催する意向だという。

 

■ゴールボールの面白さを広める工夫

 今大会では来場者を対象にしたゴールボール体験会や来場できないファン向けにインターネットによる全試合のライブ中継など、ゴールボールの普及をめざした取り組みがさまざま行われていた。なかでも画期的だったのは、特殊な装置を使った実況中継サービスだ。

 

 ゴールボールはアイシェード(目隠し)をした選手がボールに仕込まれた鈴の音や相手選手の足音などからボールの動きを判断して行うスポーツのため、試合は静寂のなかで行われる。そのため、場内アナウンスによる実況や解説などは導入できず、観戦初心者のファンなどから「試合内容が分かりにくい」といった声が多かった。

 

 こうした課題解決のために工夫されたのが、実況の音声を、個人用補聴器を応用した装置による補聴器を通じて観戦者一人ひとりに届けるシステムだ。日本ゴールボール協会では、都内の医療機器メーカー(*)の協力を得て数年前から主催大会の一部で導入していたが、今回は骨伝導式の補聴器を応用したヘッドセットを使い、さらに音声を無線で飛ばすという改良版となり、より利便性が高いものになったという。イヤフォンのように耳をふさがないので、実況音声を聞きながら同時にプレイ中の選手の声やボールの音なども楽しめる。

 

 実況ではルールの解説や戦略の分析のほか、各選手の特徴などの豆知識も盛り込まれていた。ゴールボール初心者の理解を深めることにも役立つし、視覚障害のある観客も実況の助けを借りて試合を「見る」ことができる。こうした技術力を生かした観客サービスは「日本らしいおもてなし」のひとつとして、2020年東京大会でも大きな力を発揮するのではないだろうか。

 

(*)ディー・シー・シー株式会社/医療機器製造業および第二種医療機器製造販売業/東京都千代田区内神田3-2-12

 

■ウィルチェア(車いす)ラグビー

・4日~8日: 世界トップ12カ国が集い、デンマークのオデンセで2014IWRF(International Wheelchair Rugby Federation=国際ウィルチェア・ラグビー連盟)ウィルチェア(車いす)ラグビー世界選手権が開幕、6カ国ずつA、Bプールに分かれ、予選リーグが行われた。前回大会(2010年)の銅メダル以上を目指す日本は4勝1敗でBプール2位で決勝トーナメント進出を決めた。予選リーグ全5試合の結果は以下の通り。

 

  ○53-38 ドイツ

  ○62-58 スウェーデン

  ○54-45 ニュージーランド

  ○56-44 フランス

  ●45-65 アメリカ

 

 IWRFウィルチェア・ラグビー世界選手権は1995年に初開催され、今年で6回目。日本は2010年の前回大会で銅メダルを獲得している。前大会覇者で、現世界ランク1位のアメリカや、2012年ロンドン・パラリンピック金メダリストで、同ランク2位のオーストラリア、同ランク3位のカナダの他、開催国オランダ、ベルギー、フィンランド、イギリス、フランス、ドイツ、ニュージーランド、スウェーデンが出場。

 

・9日: 準決勝が行われ、日本はオーストラリアに49-60で敗れた。もう1試合はカナダが延長戦の末、59-56で王者アメリカを下した。

 

・10日: 3位決定戦で日本はアメリカと対戦、56-62で敗れ、4位に終わったが、予選リーグで45-65の大差で敗れた相手に善戦した。序盤から食らいつき、第3ピリオド終了時点で44-47。最終ピリオドの終盤、アメリカにターンオーバーからの速攻などで連続得点を許したが、最後まで粘り強く戦う姿勢を見せた。

 

 大会公式サイトによれば、日本のアダム・フロストコーチは、「3位決定戦のアメリカ戦が間違いなく、今大会における我々のベスト・マッチだった」とコメント。また、キャプテンの仲里進は、「最初の試合(予選リーグでのアメリカ戦)での反省を生かすことができた。日本は進化しているし、世界トップに近づいているという手ごたえがあった」と振り返っている。

 

 決勝戦はロンドン・パラリンピックと同じ顔ぶれの対戦となった。前日の準決勝でアメリカを延長戦の末に破ったカナダの戦いぶりに注目が集まったが、地力に勝るオーストラリアがロンドンにつづき、67-56で勝利。オーストラリアは悲願の世界選手権初制覇を成し遂げた。

 

■ファン投票によるMVPを選出

 大会最優秀選手賞にはカナダのザック・マデル(Zak Madell)が選ばれたが、今大会では新たなファン・サービスのひとつとして選手権史上初の試みいう、「ファン投票による最優秀選手賞」も実施された。これはツイッターやフェイスブックなどを利用したもので、候補となる選手についてもファンが投稿によってノミネートし、そのリストの中からお気に入りの選手に投票するというもの。投票は決勝戦終了まで受け付けられ、20人以上の候補選手の中から最多得票で選出されたのは今大会5位に入ったイギリスのAjaz Bhutaだった。

 今大会はより多くのファンにウィルチェア・ラグビーを楽しんでもらえるよう、全試合をインターネットでライブ中継し、さらにオンデマンドによる録画画像も視聴できるようにしていたが、アーセネン実行委員長によれば、ファン投票は大会へのファンの参加レベルを次のレベルへと高めることが目的で導入したという。

 

■水泳

・6日: 19か国が参加して、米国カリフォルニア州パサデナで「2014パンパシフィック・パラ水泳選手権大会」が開幕。日本からはパラリンピックのメダリストなど経験豊富な5選手(うち女子1名)が派遣された。選手名とクラス(⇒註)は以下の通り。

男子: 小山恭輔 S(B・M)6/江島大佑 同7/山田拓朗 同9/木村敬一 同11

女子: 生長奈緒美 S(B・M)11

 

・10日: パンパシフィック選手権が閉幕。日本選手団は金1、銀3、銅6の計10個のメダルを獲得した。各選手のメダル獲得種目の成績は以下の通り。

 

  小山:50m自由形(S6) 33秒22 銅

  江島:50mバタフライ(S7)  32秒93 銀

     200m個人メドレー(SM7) 2分56秒48 銅

  山田:50m自由形(S9) 26秒51 銅

     200m個人メドレー(SM9) 2分25秒75 銅

     100m平泳ぎ(SB8) 1分19秒31 銅

  木村:100mバタフライ(S11) 1分03秒97 銀

     100m平泳ぎ(SB11) 1分14秒39 金

     200m個人メドレー 2分30秒96 銀

  生長:50m自由形(S11) 33秒88 銅

 

⇒クラス: 水泳のクラス分けは肢体不自由、視覚障害、知的障害など障害別に分けられ、かつ、それぞれ障害の重いほうから順に肢体不自由は1~9、視覚障害は11~13のように細分されている。数字の小さいほうが重度を表す。知的障害は14の1クラスのみ。そして、泳法によって自由形、背泳ぎ、バタフライはS、平泳ぎはSB、個人メドレーはSMに分類され、各選手のクラスは障害の程度との組み合わせで表現される。例えば、「SM11」は、個人メドレーの視覚障害・全盲クラスを意味する。

 

■東京発:

・4日: 東京・有明コロシアムで開催中されている「南関東インターハイ」のテニス男女団体戦の表彰式で、車椅子テニスのプロ、国枝慎吾がプレゼンターとして登場し、男子優勝の四日市工業高(三重)、女子優勝の名経大高蔵高(愛知)にそれぞれメダルを授与した。表彰式後には、高校生とのエキシビション・マッチにも臨んだ。

 

・5日: 日本障がい者スポーツ協会は10月18日に開幕する「2014アジア・パラリンピック選手権大会」(~24日/韓国インチョン)に派遣する日本選手団の第一次発表を行った。選手団名簿など詳細は、同協会公式サイトの関連ページで公開されている。

 

(星野恭子/文・写真)