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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(358) 横浜で、トライアスロン・パラトライアスロンの世界シリーズ戦。「オリ・パラの試金石に」

5月15日から16日にかけて横浜で、トライアスロン・パラトライアスロンの東京2020大会日本代表にもつながる「ITU世界トライアスロン・パラトライアスロンシリーズ横浜大会」が山下公園周辺特設コースで行われました。15日には30を超える国と地域から約180名(うちエリートパラ67名)のエリート選手が参戦。16日の一般選手などが参加するエイジグループ約1000人も合わせ、運営スタッフやボランティア、関係者など総勢4000人規模での公道を使った大規模な大会となりましたが、感染症対策を徹しての大会運営となりました。

5月15日に開催された「ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会」での、男子PTVI(視覚障害)クラスのスタートの様子。緑のキャップが選手、白はそれぞれのガイド選手 ©Satoshi TAKASAKI/JTU

日本トライアスロン連合の大塚真一郎専務理事はコロナ下での開催意義について、「コロナ下における社会活動の再開に向けたきっかけになれば。スポーツの火を消さず、スポーツを仕事にしている方々が力を発揮する場になれば」と強調しました。

大会は感染症対策を徹底のため、スポーツ庁を通じて関係省庁と協議の上、「海外選手受入計画」を策定し、選手や関係者の外部との接触を遮断する、いわゆる「バブル方式」で実施されました。海外選手は入国14日前からスマートフォンのアプリを利用した健康状態のモニタリングを実施し、入国72時間以内のPCR検査陰性証明を取得してから来日。成田空港からの入国後は国ごとに専用車で移動し、ホテルは宿泊フロアを貸し切って動線を外部と分離。滞在期間中の行動は競技会場と宿泊場所の往復のみに限定され、隔離期間中の練習もバブル内のみで小グループ制で行われました。PCR検査は滞在期間に応じて、最多7回となる選手もいたそうです。

レース当日はメイン会場となる山下公園内への入場が制限され、テレビ放送やライブ配信で観戦機会をつくり、沿道での観戦は自粛が呼びかけられました。報道陣もPCR検査の陰性が求められたほか、参加4000人全員の大会後の健康状態もモニタリングする方針で、大塚専務理事は「ロードレーススポーツやアウトドアスポーツの新様式をプレゼンテーションしたい。少しでもオリンピックやパラリンピックの試金石になれば」と期待を寄せました。

赤いTシャツは、パラトライアスロンのスイムパートで、自力で海から上がるのが難しい選手をサポートする、「スイム・イグジット・アシスタント」。選手でなく、大会側が用意するスタッフ。マスクやゴーグル着用で、選手をサポート ©Satoshi TAKASAKI/JTU

参加者の健康状態は大会後14日間までモニタリングされる予定です。陽性者などが発生せず、「成功」と発表されることを祈ります。

■東京パラリンピックに向け、熱戦!

さて、パラトライアスロンのレースの模様ですが、東京パラリンピック出場につながるポイント対象大会である「エリートの部」は15日早朝に開催され、20か国から約70選手がエントリー。日本からは男子8人、女子4人が出場しました。パラトライアスロンはスイム(750m)、バイク(20㎞)、ラン(5㎞)の計25.75kmで競われます。

女子PTS2(運動機能障害)で秦由加子選手(キヤノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・ブリヂストン)が1時間25分43秒で、同PTS4(同)の谷真海選手(サントリー)が1時間15分33秒で、それぞれ2位に入りました。

秦選手は2位の結果に「負けちゃいました」と悔しがりましたが、国内に同じクラスで競う選手がいない秦選手にとって優勝したアメリカ人選手はかけがえのないライバル。「一緒にレースができたことがうれしかったし、スタートする時に感慨深いものがあって、(レースに)戻ってこられたと感じた」と振り返りました。「パラリンピックが開催されるかどうか難しい状況だけど、開催されるなら選手としてそこでベストパフォーマンスを出すことが人生の中でも大事な機会になる。もっと頑張らないと勝てない。危機感を忘れずに次につなげたい」と力を込めました。

女子PTS2(運動機能障害)で2位に入った秦由加子選手(左)はゴール目前で笑顔に。隣はゴールを目指す、車いすの男子選手 ©Satoshi TAKASAKI/JTU

谷選手は、「最後のスピード勝負で勝てなかったのは悔しい。まずは、東京パラというより選考レースを戦い抜きたい」と前を見据えました。

ほかに、女子PTVI(視覚障害)の円尾敦子選手(日本オラクル・グンゼスポーツ)が1時間18分18秒で3位に入り、PTWC(車いす)の土田和歌子選手(八千代工業)は7位でした。

男子は、PTS4の宇田秀生選手(NTT東日本・NTT西日本)が1時間2分22秒で3位となり、日本勢では唯一の表彰台に上りました。苦手とするスイムで出遅れたものの、バイクとランで追い上げました。「目標は2位以内だったので」と悔しさをにじませながらも、「自分の位置を知る、いい機会になった」と、期待される東京パラのメダル獲得に向け手応えも口にしました。

男子PTS4(運動機能障害)で2位に入った宇田秀生選手の力走。 ©Satoshi TAKASAKI/JTU

ほかに、男子PTVIで米岡聡選手(三井住友海上火災)が4位、PTWCの木村潤平選手(ひまわり福祉会)が5位、PTS5(運動機能障害)の梶鉄輝選手(JPF)は、「エリートの部」初出場で8位入賞を果たしました。

男子PTVI(視覚障害)で4位入賞の米岡聡選手。全盲で、ガイドと一緒に競技する。「表彰台を狙っていたので悔しい」とコメント。©Satoshi TAKASAKI/JTU

なお、東京パラでは5カテゴリー8種目が実施予定で、出場権を争う戦いは7月15日まで続き、同日時点でのITU東京パラ出場資格ランキングの上位9位までの選手に出場権が自動的に与えられます。その後に決定されるバイパルタイト(招待)枠なども加え、全80選手が出場します。レースは8月28日と29日に4種目ずつが実施され、8人の金メダリストが決定する予定です。

(文:星野恭子/写真提供:日本トライアスロン連合)