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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(357) 車いすラグビー日本代表、悲願の東京パラ金へ、調整順調!

東京パラリンピックで金メダル獲得の期待が高い、車いすラグビー日本代表が5月4日、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)での強化合宿中に、ケビン・オアーヘッドコーチ(HC)と4選手がオンラインで取材に応じ、合宿の手ごたえや意気込みなどを語りました。

日本代表を率いるオアーHCは、この合宿の目的として、ゲーム中の選手の位置や戦術の精度を上げることにフォーカスしていると話し、「いい強化ができている」とチームの現状を評価しました。例えば、重要なプレーで同じミスが繰り返されたときには練習を止めて厳しく指導したことも明かした上で、その後、選手間のコミュニケーションが活発化したことなど合宿の成果を語りました。

池透暢主将(日興アセットマネジメント)は、合宿では「チーム内での競争」を意識しながら集中力の高い合宿ができていると、チームの様子を話しました。コロナ禍で国際大会からは遠ざかっていますが、外国勢を想定した実戦練習を重ねていて、「国際ゲームをしているような感覚で細かなコミュニケーションをしながらの練習」で実戦感覚を磨いているそうです。

車いすラグビーの日本代表合宿中に競り合う、池透暢主将(左)と急成長中の若手、橋本勝也選手。「チーム内競争」も激しく (提供:日本車いすラグビー連盟)

例えば、車いすラグビーは各選手が障害の程度に応じて0.5点から3.5点の「持ち点」をもち、公平な競技のため、コート上の4人の合計点を「8.0点以内」でチーム編成するというルールがありますが、合宿では海外勢を想定して、より障害の軽い選手を入れられる8.0点以上の、「オーバーライン」でチーム編成した相手とのマッチアップで練習をするなど、工夫して強化を図っています。

また、エースの池崎大輔選手(三菱商事)は、特に手ごたえのあった練習として、「不利なシチュエーションをつくり、そこから状況を打開しながらボールを運び、トライしていく練習」を挙げました。チームの連係が不可欠であり、「4選手が同じ方向を見なければいけない。苦手な部分を改善する練習ができた」と成果を語りました。

車いすラグビーは男女混合の競技ですが、女子が入る場合は一人につき、0,5点のハンデが与えられるため、より有利なチーム編成を行うことができます。その担い手として期待されるのが、チーム唯一の女子選手の倉橋香衣選手(商船三井)です。ケガや体調不良などで、しばらく代表合宿を休んでいましたが、4月の合宿から復帰しての2回目。「フルに参加できてよかったですし、コンディションも調整できていると実感できました」と安堵の表情。コンディションも上向いているそうで、「現状に満足せず、本番に向けてもっと上げていきたいです」

日本代表チーム唯一の女子、倉橋香衣選手。2016年リオパラリンピック後に代表入りし、2018年世界選手権制覇にも貢献 (提供:日本車いすラグビー連盟)

もう一人、若手のホープとして活躍が期待される橋本勝也選手(福島県三春町役場)は3月に高校を卒業し、4月から地元の役所に入職し新社会人になったことを報告。仕事と競技の両立には、「慣れない環境もあって疲労感はありますが、(両立がスタートして)まだ1カ月。自分で選んだので、責任を持って両立していきたい」と力強く話しました。

■東京パラ1次リーグの組み合わせが決定!

東京パラの車いすラグビーは、8チームが参加して、国立代々木競技場で開催されます。2組に分かれて総当たり戦の1次リーグを行い、上位2チームが準決勝に進出。決勝は8月28日に実施される予定です。

合宿直前の4月28日には、その1次リーグの組み合わせ抽選がイギリスで行われ、日本の対戦国が決まりました。日本(世界ランキング3位)はプールAに入り、オーストラリア(同1位)、フランス(同6位)、デンマーク(同7位)と同組になりました。一方のプールBは、アメリカ(同2位)、イギリス(同4位)、カナダ(同5位)、ニュージーランド(同10位)となりました。

実は開催国である日本には、抽選でA、Bそれぞれに3カ国ずつが振り分けられた時点で、どちらのプールに入るかの選択権が与えられており、オンラインで抽選会に参加していたオアーHCがプールAを選んだそうです。

リモート画面を通して、取材陣の質問に答えるケビン・オアーヘッドコーチ。「チーム強化は順調」 (提供:日本車いすラグビー連盟)

オーストラリアはロンドン、リオと大会連覇の王者、またフランスは2024年パリ・パラリンピックの、デンマークは2022年世界選手権の、各開催国として代表チームの強化が進められているなど、いずれも強豪国です。オアーHCは、「チームごとの対策の取りやすさを考慮した」と言い、特にフランスとカナダを比べ、カナダは元エースのザック・マダル選手が現役復帰したことから、戦力アップが予想されることもあり、「マッチアップを考えてAを選んだ」と説明しました。

池主将も、「いいプールに入ったと思う」と歓迎し、倉橋選手は、「(初制覇を果たした2018年の)世界選手権のプール分けと似ている。1回勝てた経験があるので、よし頑張ろうという気持ちになりました」と前向きに語りました。池崎選手は、「目の前の相手に全力を尽くすだけ。勝つという想いが必要になってくる」と力をこめました。

5月16日には東京パラ開幕100日前を迎えます。「とてもワクワクし、待ち遠しい思い。準備も順調に進んでいる」と前向きに語ったのは、オアーHCです。池主将は、目標とする金メダル獲得に向け、「プレッシャーに感じる部分もあるが、今までに以上に中身の濃い100日にして、成長したい」と話し、池崎選手も、「(残り100日を)無駄にしないようにという想い。細かいところを拾っていくことで、もっと成長できる。『金メダルを獲るための練習』に集中してやっていきたい」と、ともにさらなる成長を誓っていました。

羽賀理之選手(右)のタックルをかわしてボールを運ぶ、池崎大輔選手。世界トップクラスのスピードが武器の日本のエース (提供:日本車いすラグビー連盟)

倉橋選手は、「まだ100日あるととらえて、もっとチームのために、自分の仕事が果たせるように、自分のプレーを高めることに挑戦する100日にしたいです。もっと声を出してプレーできれば」と話し、橋本選手は「東京パラで決勝の舞台に立ちたいと目標を掲げて取り組んできたので、(100日前は)時間がないと焦りを感じる部分もある。どこにフォーカスして取り組むか考え、東京パラで尽力できれば」と、それぞれ意気込みを口にしました。

車いすラグビー日本代表はチーム一丸で、悲願の金メダル獲得に向かって、前進を続けています。

(文:星野恭子)