「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(356) アスリートが「オリパラ一体」で心ひとつに連携。選手による情報発信を強化へ
東京2020大会に関連する大きな活動があいついで開催されました。一つは4月20日に行われた、東京2020大会組織委員会と日本オリンピック委員会(JOC)、日本パラリンピック委員会(JPC)という3団体合同でのリモート形式によるアスリート委員会です。3団体が組織を超えて連携することが目的で、3団体合同での開催は初めて。オリンピック開幕があと3カ月に迫る中で、アスリートの視点から大会の開催意義などが協議されました。
3団体合同のアスリート委員会に臨んだ、東京2020大会組織委員会の高橋尚子アスリート委員長(前列右)、同橋本聖子会長(同左)。後列左から、JOC山下泰裕会長、同澤野大地アスリート委員長、JPC鳥原光憲会長、同大日方邦子アスリート委員長 (Photo by Tokyo 2020)
オリンピック・マラソン金メダリストで、組織委のアスリート委員長を務める高橋尚子さんは、「今、東京大会についての発信は批判の大きな元にもなりうる」としたうえで、「(大会に向け)どういう思いで挑むか、(アスリートたちが)心を一つにした」と会議の成果を口にしました。
JOCの澤野大地アスリート委員長は、「初の試みだったが、活発な議論ができ、有意義な機会となった。一体となって進んでいくことはアスリートにとっても、支えてくれる人にとっても大きな一歩になったのでは。この力をさらに前進させるべく、各団体とも手を取り合い、協力して進んで行きたい」と手ごたえを語りました。
また、JPCアスリート委員長の大日方邦子さんはパラリンピックの金メダリスト。「オリンピックとパラリンピックが一緒になる、『オリパラ一体』という言葉は東京2020大会を機に生まれた言葉。パラアスリートにとって、この言葉の意義はとても大きく、エポックメーキングな出来事。一体となって進められることは貴重な機会であり、これをレガシーとしてしっかり残せるようにアスリートも一緒になって考えていきたい」と前向きに話しました。
コロナ禍での大会開催については批判の声もあるなかで、高橋委員長は「(今回の会合では)開催についての意見は出なかった」とし、「社会の皆さんが今、生きることで精一杯の中で、私たち(アスリート)の役割はどういうことができるのだろうか。私たちが特別な存在でないと踏まえた上で、自分たちに今できることは(社会への)還元もそうですし、諦めずに最後までやり続けることではないか。選手は最後の最後まで、1%でも可能性があるなら諦めないですし、9回裏ツーアウトからでも諦めない。オリンピック・パラリンピックがこの先どうなっても、今やるべきことは見失わずに前を向いている感じがありました」と、会合でのアスリートたちの様子を振り返りました。
さらに、東京大会に向けて選手による情報発信を強化する方針なども確認されました。5月以降、「つなぐ」をテーマに困難を乗り越えた経験などを選手がSNSを通じて発信したり、6月には小・中学校や高校を対象にしたオンラインでの交流イベントも開催されるそうです。
アスリートが発信できることとして、パラアルペンスキー選手でもあった大日方委員長は、「自分のことを信じてパフォーマンスをする。苦しいときも一歩一歩進み続ける、そこを伝えることで、(選手を)応援してくださっていると感じている」と話し、現在40歳で東京大会出場を目指している澤野委員長も、「アスリートの力は目標に向かって頑張る姿。その姿を見るだけで、人々が感動する。そうした姿がスポーツの力だと思う」と話しました。
会議に同席した組織委の橋本聖子会長は、「アスリートから出る(言葉の)一つひとつはどの世代にも通じる重みがあると改めて感じた。安心安全最優先の東京大会の舞台を作り上げるという大きな仕事を何としてもやり遂げたい」と感想を話しました。また、コロナ禍が続くなかでの東京大会開催に不安を抱える選手もいると認めた上で、「感染症対策を第一優先にするが、どのように安心安全の大会をすることができるか、プレーブックも含めて安心してもらえるようにしっかりとしたものをまとめ上げたい」と強調しました。
■大会を支えるボランティアリーダー向けの研修がスタート。「内容が濃かった」
東京2020大会組織委員会は4月22日から、東京大会で競技の運営サポートなどを行う約8万人の大会ボランティア(フィールドキャスト)のうち、リーダーとしての役割を担う参加者を対象にした「リーダーシップ研修」をオンライン形式でスタートさせました。ボランティアは少人数のチームに分かれて活動予定で、各チームを束ねるリーダーは約6000人で、本人の希望や面談を経て選ばれています。
研修は各回2時間あまりで、22日には午前と午後の回で合わせて約310人が受講。チームメンバーの体調管理や雰囲気作りなどリーダーとしての役割や心構えについて講義やディスカッションワークを通して学びました。
東京2020大会フィールドキャスト(大会ボランティア)リーダーシップ研修で、画面の向こうの受講者たちに笑顔で挨拶する講師陣。左から、園部さやかさん(日本財団ボランティアサポートセンター事業部マネージャー)、 高田和奈さん(大会組織委員会総務局ボランティア推進部ボランティア推進課ボランティア推進チーム主事)、二宮雅也さん(日本財団ボランティアサポートセンター参与・文教大学准教授)。 (Photo by Tokyo 2020)
研修後に、参加者2名が報道陣の取材に応じてくれました。まず、東京都の会社員、松井俊治さん(40)は「オンライン上でできることは、ほぼ全てやったのではないかと思う。進行もスムーズで内容が濃く、成功していた」と感想を話し、同じく東京都在住のスタイリスト、佐竹洋子さん(41)も「やっと五輪が近づいてきたと実感できた。(コロナ禍で)不安な気持ちが大きかったと思うけど、他のボランティアの皆さんと一緒の時間を持ち、言葉をかわせて、次に向かう気持ちや不安な気持ちを分け合えて良かった」と振り返りました。
東京2020大会フィールドキャストリーダーシップ・研修会に参加した松井俊治さん(左)と佐竹洋子さん。活動への想い新たに (Photo by Tokyo 2020)
コロナ禍の先行きが見通せない現在では、感染防止の徹底は必要不可欠な対応であり、ボランティア活動においても大きな課題です。松井さんは、「感染リスクが高まるのではないかという不安は皆持っている。(チームのメンバーにも)3密を避けたり、うがいや手洗いなど普段やっていることを着実に徹底してほしい」と話し、佐竹さんも、「夏なのでマスク着用で熱中症などの不安もある。希望者はワクチンを打てるようになっていればよかったのではと、正直に思う」と不安を口にしながらも、「ちょっとでも(体調に)気になることがあれば、すぐ言ってもらう雰囲気づくりをしたい。ちょっとでも異変があれば休んだ方がいいし、そういうことになっても罪悪感を感じたり、周りが気にしたり、そうならないように、体調が悪くなっても大丈夫な空気作りをすることが大事」とリーダーとしての意気込みを話しました。
大会ボランティアを志望した理由として松井さんは、「東京で夏のオリンピックが行われるのは数少ないチャンスであり、日本の良さやおもてなし精神、カルチャーを世界に発信する場として最適。ボランティア活動を通して、市民レベルでの発信できればと思った」と言い、国際交流や社会貢献活動の経験がある佐竹さんも、「私自身がスポーツ好きで、スポーツで成長させてもらったり、スポーツを見て感動してきた。(そうした体験を)多くの皆さんに伝えることに、ボランティアとして貢献できれば」と話しました。
東京都など4都府県を対象にした3回目の緊急事態宣言期間が25日から始まるなど、まだまだ不透明な日々が続いていますが、希望の未来の訪れを信じ、それぞれが「今できることに精一杯」取り組んでいる様子が感じられた2つの活動でした。
(文:星野恭子)