「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(355) アルペンスキーの北京冬季パラ・プレシーズンが終了。村岡選手、森選手が好調ぶり示す。
コロナ禍の影響で例年とは異なる環境や状況のなか、開幕まですでに1年を切った2022年北京冬季パラリンピックに向けたパラアスリートたちの戦いも進行中です。例えば、パラアルペンスキーではワールドカップに次ぐランクの公認大会で、今季最終戦となった「2021WPAS(ワールドパラアルペンスキー)アジアカップ~野沢温泉シリーズ~」が4月12日から15日にかけて長野県の野沢温泉スキー場で開催されました。
同スキー場でパラアルペンスキーの公認大会が開催されるのも、シーズン最終盤の4月に公認レースが日本で行なわれるのも初めてのこと。選手にはコースレイアウトや雪のコンディションを読み切る力も問われるレースとなりましたが、北京パラを目指す選手にとってはプレシーズンの総仕上げとなる重要な大会でもあり、大回転1戦、回転2戦が実施され、熱戦が展開されました。
例年なら「日本チーム」として夏から秋の海外遠征で雪上練習を積んだのち、シーズン中はレースを転戦し、強化を進めていきますが、今季はコロナ禍で海外遠征もままならず、貴重な実戦機会だったはずの2月の世界選手権(ノルウエー)や3月のワールドカップファイナル(北京)をはじめ、北京パラ前哨戦となるテスト大会も中止されました。難しい調整を強いられるなか、選手たちはそれぞれの意向で海外遠征組と国内調整組に分かれるという異例の形で強化を進め、3月に長野県菅平高原で行われた「同~菅平高原シリーズ」を経て迎えたのがこの今季最終戦でした。
なかでも好調ぶりをうかがわせたのは、女子座位(チェアスキー使用)カテゴリーの村岡桃佳選手(トヨタ自動車)です。2018年平昌冬季大会で金1個を含む全5種目でメダル獲得後、夏の東京パラ出場を目指して陸上競技との“二刀流”にも挑戦中。スキーでの大会出場は3月の菅平大会が約2年ぶりでしたが、圧倒的な強さを見せ、今大会でも3戦全勝でした。
北京冬季パラに向け、視界良好の村岡桃佳選手(トヨタ自動車)。陸上との“二刀流”で、「夏冬パラリンピアン」も目指す(写真:堀切 功/日本障害者スキー連盟)
コロナ禍による東京大会延期という「想定外の日程」となり、ここ半年は陸上とスキーを行ったり来たりで、「とにかく時間が足りなかった」と明かしましたが、その分、「充実した時間を過ごせた」と振り返ります。
好調の要因として村岡選手が挙げたのは、「二刀流の挑戦」です。陸上向けのトレーニングによる基礎体力の増強に加え、精神的な強さも各段に増したと言います。「久しぶりのスキーで緊張感もありましたが、すごく楽しかった。競技者としての、『貪欲さ』も実感できた」と話していました。
予定通り東京大会が開催されれば、その約半年後に冬季の北京大会を迎えるというハードさですが、9月までは陸上に専念し、10月ごろから雪上に上がる計画です。「10月スタートは例年通りなので、(北京パラに向け準備する)時間はあると思っています」と、二刀流への覚悟を力強く語っていました。
日本代表チームの石井沙織ヘッドコーチ(HC)も、「陸上に行ったことで、気持ちの面で一回りも二回りも成長したと感じています。(海外勢と比べても、村岡選手の)今の滑りを見ている限り、東京パラ後にスキーに取り組んでも大丈夫なレベルだと思っている」と、エースのパフォーマンスを評価しました。「二刀流」で強さを増した村岡選手の活躍から、今後も目が離せません。
男子でも、同じく座位カテゴリーの森井大輝選手(トヨタ自動車)が好調ぶりを示しました。2002年ソルトレークシティー大会から5連続のパラリンピアンで、北京大会では悲願の金メダルを目指しています。今大会では大回転で優勝し、回転でも1戦目は途中棄権(旗門不通過)となったものの、2戦目はきっちり修正して勝利し、今季を締めくくりました。
国内でじっくり調整が奏功した森井大輝選手(トヨタ自動車)の回転での滑り。北京パラで悲願の金獲得へ(写真:堀切 功/日本障害者スキー連盟)
今季は長いキャリアのなかでも初となる「国内残留」を選び、調整を図ってきました。コロナ禍を受け、自宅にジムをつくって体作りに励むとともに、競技力を大きく左右する用具、チェアスキーの調整にもじっくりと取り組んだそうです。特に、雪面からの衝撃を吸収し、推進力へとつなげる重要なパーツ、サスペンションの改良にもメーカーの担当者とともに取り組んだことを好調さの要因に挙げていました。
「今までにないイレギュラーのシーズンで不安もありましたが、国内で腰を据えてトレーニングできたことで用具の調整にも、自分の体調にもしっかり向き合えてよかったです。コロナでマイス部分もありましたが、プラスもあったシーズンでした」
来年の北京パラでは金メダル獲得が期待されますが、プレ大会も中止され、コース情報はほとんどなく、「ぶっつけ本番」となること必至です。しかし、森井選手は、「経験が生きる部分も大きいと思います。(菅平、野沢の国内2連戦で)いろいろ気づきもあったので、改善して北京に臨みたい」と話します。チームとしての今季の活動は今大会で終了しましたが、来年3月の北京大会を見据え、この先5月の大型連休くらいまでは個人的に雪上練習に励み、「春の悪雪」を滑り込む予定だと言います。
北京2022冬季パラリンピックは来年3月4日から13日まで中国の首都、北京で開催される予定です。パラアルペンスキーヤーたちの挑戦にもご注目ください。
北京大会でソチ大会以来の金メダル奪還を目指す、回転のスペシャリスト、鈴木猛史選手(KYB)(写真:堀切 功/日本障害者スキー連盟)
立位カテゴリーのベテラン、片脚スキーヤーの三澤拓選手(SMBC日興証券) 北京大会で、5大会連続パラリンピアンを目指す(写真:堀切 功/日本障害者スキー連盟)
右半身まひを感じさせない力強い滑りを見せた、立位カテゴリーの若手のホープ、20歳の高橋幸平選手(日本体育大学)(写真:堀切 功/日本障害者スキー連盟)
(文:星野恭子)