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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(353) 車いすラグビー、悲願の金メダルへ着実に前進中

2018年の世界選手権を制し、東京パラリンピックで金メダル獲得の期待が高い競技のひとつ、車いすラグビー。コロナ禍で予定された強化大会などがあいついで中止や延期となっていましたが、3月に入って少しずつ大会が再開され、選手たちは今夏の大一番に向け、少しずつ試合勘を取り戻しているようです。

3月20日、21日にはジャパンパラ競技大会が千葉ポートアリーナで行われ、日本代表候補たちが3チームに分かれ、総当たり戦で競い合いました。例年は海外の強豪チームを招いて行われる代表強化大会ですが、コロナ禍により日本選手同士の「紅白戦」となりました。それでも、日本代表が公式戦の舞台に立つのは約1年5カ月ぶりという貴重な実戦の機会で、さらに、東京パラの代表12人入りへの貴重なアピールの場でもありました。残念ながら、無観客開催でしたが、熱戦の模様は全試合、オンラインでライブ中継されました。

また、3月29日には、「三井不動産チャレンジゲーム2021」が東京・渋谷区スポーツセンターで開催されました。参加選手は関東在住の希望者に限られましたが、東京パラ代表候補も含めた選手が4チームに分かれ、2試合を戦いました。

羽賀理之選手(左)を強烈なタックルで止める島川慎一選手。(代表候補選手対象の)ジャパンパラ大会の緊張感とは違った楽しさが(チャレンジゲームには)あった」 (提供:日本車いすラグビー連盟)

世界トップクラスのタックルが持ち味のベテラン、島川慎一選手は久しぶりに試合の機会がつづき、「ゲーム勘が薄れていたと感じた。大会の雰囲気に慣れることは大事」と話し、試合途中に悪い流れを変えられるキープレイヤーとしても期待されていることから、「限られた試合機会の中で、自分の役割を確認したい」と気を引き締めていました。

また、世界に誇るスピードが武器のポイントゲッター、池崎大輔選手は「試合形式が増えてきて、感覚がよみがえり、モチベーションが上がってきている。僕もそうだし、他の選手の表情を見ても感じられる」と手ごたえを口にしました。

一方で、日本代表として戦った国際大会は2019年10月に行われたワールドチャレンジが最後。強化合宿は昨年7月から毎月実施されていますが、東京パラ本番までに対外試合のチャンスがあるかなど不透明なままの調整が続いています。池崎選手は、「国内試合では仕上がっていると思うが、国際試合になったらどうなるか、正直分からない。その点も意識しながら、みんなで練習していきたい」と課題も口にしていました。

日本代表入りし、パラリンピック初出場を目指す、乗松隆由選手(左)。「これからの1プレー1プレーが選考に関わると思う。成長してきた部分や海外にも通用することを示したい」。(提供:日本車いすラグビー連盟)

東京パラの車いすラグビーは8カ国で金メダルを争います。会場は国立代々木競技場で開会式翌日の8月25日(水)から29日(日)に開催されます。日本代表候補選手は月に1度は強化合宿を行って強化を進め、東京大会を戦う12人のメンバーは6月をめどに発表される見通しとなっています。

その東京大会に向けたテストイベントが4月3日、4日に車いすラグビーの本番会場である国立代々木競技場で、非公開で行われました。テストイベントはオリンピック・パラリンピック本番での運営能力の向上を目的とした予行演習として過去大会でも開かれています。東京大会としてもこれまで39大会が実施されましたが、コロナ禍による大会延期に伴い、2020年3月のスポーツクライミングを最後に中断。オリンピック競技の14大会、パラリンピック競技の3大会が未実施となっていましたが、約1年1カ月ぶりに再開され、その第1弾として実施されたのが車いすラグビーでした。

日本代表候補選手16人と運営スタッフ、ボランティアなど約100人が参加し、紅白戦3試合を行い競技運営の流れや会場の設営・撤去手順などが確認されました。

車いすラグビーの東京パラリンピック運営テストとして、国立代々木競技場でプレーする選手。左から、岸光太郎選手、池崎大輔選手、池透暢選手 (提供:©Tokyo2020)

なかでも大会組織委員会が「最重要課題」と位置付けるのが新型コロナウイルス対策で、さまざまな確認や検証が行われたようです。接触の制限や消毒、換気の徹底などはもちろん、陰性が確認された選手や競技役員と、それ以外の関係者の動線を分ける「ゾーニング」も徹底。また、車いす競技ならではの対策として、選手控室の前に消毒液を染み込ませたタオルを敷いて車輪の除菌なども実施されました。

運営テスト後に大会組織委運営局の森泰夫次長が取材に応じ、「非常にいい経験になった。細かい点も含めて知見を整理して、(他競技にも)共有していきたい」と話しました。今後は5月21日までに、未実施分と新たに札幌・大通公園で行われるオリンピックのマラソンを加えた計17大会のテストイベントが実施される予定です。

試合の合間にボールや床の消毒や選手の手に消毒液を吹きかけるなど、コロナ対策による競技時間への影響なども確認された (提供:© Tokyo2020)

テストイベントは選手にとっても重要です。池崎選手は事前に、「テストイベントは会場の空気や光の加減など、東京パラをイメージできる機会であり、大きなメリットになる」と話していましたが、会場の床と車いすとの相性やボールのバウンド具合など知ることは戦略上、大切ですし、バリアフリー状況などの会場設備を知っておくこともメンタル的な余裕度につながると思います。

今後の国際大会などはまだ不透明ですが、車いすラグビー日本代表は限られた環境や条件のなかで悲願のパラリンピック金メダルを目指し、前だけを見て今日も車いすを走らせています。

(文:星野恭子)