「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(352) ボッチャの「選抜甲子園」、オンラインで開催。「将来が明るく見える大会だった」
2年ぶりの選抜高校野球大会が3月19日から甲子園球場で開催されていますが、パラスポーツにも「選抜甲子園」と名のつく大会があることをご存知でしょうか? 近年、じわじわと知名度と人気を高めているパラリンピック競技、ボッチャの大会で、特別支援学校や特別支援学級の仲間同士で結成されたチームが日本一を争う、その名も「全国ボッチャ選抜甲子園」です。
ボッチャは脳性まひによる四肢まひなど比較的重度な障害のある人を対象とし、「選抜甲子園」は特別支援校などの生徒たちが日々の体育学習に意欲的に取り組めるよう、練習の成果を発揮する場として実施されています。5回目を迎えた今年はコロナ禍を受け、重症化リスクの高い選手たちを考慮して創意工夫を重ね、「第5 回全国ボッチャ選抜甲子園~With コロナ~」として、オンラインを活用した新しい様式で開かれました。
3月6日に開催された「第5 回全国ボッチャ選抜甲子園~With コロナ~」の決勝戦は決勝進出3チームとメイン会場をオンラインでつなぐ「新方式」で実施され、新たな可能性を示した (提供:日本ボッチャ協会)
ボッチャは通常、白い的玉に向けて赤と青のボールを投げて得点を競う対戦競技ですが、今大会は予め、的玉と赤いボールの位置が示された課題が出題され、実際に青いボールを投げ、どれだけ的玉に近づけられるかを競う特別ルールで行われました。
まず、2 月8 日~12 日に行われた予選会は予選課題に各校で挑戦し、その様子を撮影。その動画をクラウド上で実行委員会が確認し、課題ごとに獲得した得点を合計した総得点によって順位が決定される形式で行われました。じっくり戦略を練ることができ、また期間内なら何度でもやり直せます。全国から43校44チームがこの予選に参加し、なんと7チームが同点1位となる熱戦の展開に。再度、課題が出された末に、福井県の福井特別支援学校チーム、愛知県の一宮特別支援学校サザンクロスチーム、同じく愛知県の小牧特別支援学校Brex チームの3校が決勝進出を決めました。
そして、この3チームが参加し、3月6日に行われた決勝戦も、感染症対策からオンライン形式という初めての方法がとられました。メイン会場の東京・港区スポーツセンターと、各チームが日ごろ利用している体育館や学校施設とをオンラインでつなぎ、メイン会場から当日発表される課題に同時に取り組み、合計得点を競う形で行われました。
最高6点を獲得できる課題が順に4つ出され、課題1で満点をたたき出した一宮特別支援学校サザンクロスチームが順調に得点を重ね、4問で計18点を挙げて初優勝を果たしました。同校の神田逞太キャプテンは、「3年前に初出場して、1回目はぼろ負け、2回目は初めて一勝。3度目の正直で優勝できて、すごく嬉しいです」と声を弾ませました。さらに、「初めてのオンラインでヒヤヒヤしましたが、たくさん練習しました」と笑顔。チームメートの鈴木晴也選手は、「いつか火ノ玉ジャパン(日本代表)に入れるように、これからも頑張ります」とさらなる成長を誓っていました。
準優勝は12得点の小牧特別支援学校Brex チームです。岩瀬創太郎選手は、「コロナ禍という状況で大会ができる方法を考えてくださり、よかったです。試合はモチベーションになるし、仲間と課題に取り組めて嬉しかったです」とコメント。5得点で3位だった福井特別支援学校チームの山田愛莉キャプテンは、「予選と違い、決勝は一発勝負の難しさがありました。もっとレベルを上げて、また頑張りたい。オンラインで他のチームの様子も見えて、楽しかったです」と、慣れない形ながらも競技に取り組めること、オンラインで全国の仲間と繋がれる喜びなどを語ってくれました。
決勝当日、メイン会場から画面越しに実況解説を行った日本代表の村上光輝ヘッドコーチは、「予選の課題も難しかったが、満点のチームも多く、選手のレベルの高さに驚いた。決勝戦もよく練習していることが感じられた。(ボッチャの)将来が明るく見える大会になって、嬉しい」と目を細めていました。
コロナ禍という難しい中での開催については、「ボッチャ選抜甲子園は学生が対象なので、『今年逃すと、次はない』選手も多い」こと。また、遠隔地から課題に取り組む形はコロナ禍での強化指定選手たちの強化練習で実績があったシステムだったことから、「強化部から提案して実現した」と話しました。「レベルの高さも感じたし、多くの選手を見ることもでき、選手発掘にも可能性を感じた」と話す一方、「ボッチャの面白いところは対面での競い合い。来年の実施に向けては今後、検討」とも話していました。
オンラインで大会を見守った日本代表の廣瀬隆喜選手は、「オンラインで課題に取り組む方法は代表でもリモート合宿などで早くから取り組んでいるが、(高校生たちのチャレンジも)とてもよかった」と感想を語り、同じく杉村英孝選手は、「純粋にレベルが高いなと感じた。課題もスキルの詰まった内容だったので、今後につながるいい大会になったのではないか。僕たちの時代にはなかった(イベント)なので、正直、うらやましい。競技力の向上やすそ野を広げるという大きな役割がこの大会にはある」と感想を話していました。実際、過去の「甲子園」出場選手から強化指定入りしている若手選手もいます。
私もパソコンの画面を通して決勝戦を取材観戦しましたが、互いにコミュニケーションを取りながら、課題に取り組む真剣な表情や、試合終了後に緊張から解放された笑顔が印象的で、やはり選手たちにとって、「大会という目標」はモチベーションややりがいを保つ大事な存在なのだと強く感じました。
「安全第一」で大会を中止することは簡単だと思いますが、「どうすればできるのか」と創意工夫を重ねることが大切ですし、そうすれば、道は拓けるのではないでしょうか。
(文:星野恭子)