「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(350) 北京冬季パラリンピック出場を目指す選手たちが躍動。国内唯一のパラスノーボード大会
パラスノーボード唯一の国内大会、第7回全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップが3月14日、白馬乗鞍温泉スキー場(長野県)で開催されました。名称の通り、この大会はパラスノーボード日本代表選手らも出場する公式戦と、選手たちを日ごろ、さまざまな形で支える一般選手が出場する「サポーターズカップ」が併催され、各カテゴリーの日本一を決めるユニークな大会です。昨年の第6回大会はコロナ禍により中止されたため、2年ぶりの開催となりましたが、抜けるような青空のもと、全カテゴリー合わせて26選手が出場し、熱戦が展開されました。
パラスノーボードは障害の内容と程度により上肢障害(UL)、大腿障害(LL1)、下腿障害(LL2)の3クラスに分かれ、男女別に競います。種目は、バンク(カーブ)に設置された旗門を通過しながら滑走タイムを競う「バンクドスラローム」と、起伏やカーブなど障害物のあるコースで速さを競う「スノーボードクロス」の2つがありますが、この大会は「スノーボードクロス」で競われます。ただし、通常は2選手が同時にスタートして早くフィニッシュしたほうが勝ち抜くノックダウン方式で行われますが、今回はコロナ感染防止対策として競技時間短縮を目的に、ひとりずつスタートして2本を滑り、よいほうのタイムで順位をつけるタイムレース方式で行われました。
結果は出場した4人の日本代表強化指定選手が各カテゴリーで順当に上位に名を連ねました。
「男子下腿障害エキスパート」カテゴリーは全5選手が出場し、僅差でしのぎを削りあいました。1本目に32秒17をマークして首位に立った市川貴仁選手(エレマテック)が2本目もトップタイムの31秒72で逃げ切り、大会4連覇を飾りました。
2本ともスピーディーで安定感あるパフォーマンスで4連覇を果たした市川貴仁選手 (撮影:吉村もと)
2013年の交通事故で左足の膝から下を切断後、義足でスノーボードを始め、スキー場でインストラクターを務めながら、競技生活を送っています。この日は磨いてきたカービングで安定したパフォーマンスを披露。「1本目は様子見だったが、タイムが出た。2本目はもっとできるなと思い、それが素直にできたから、めちゃくちゃ嬉しい」と笑顔。2026年イタリア大会での金メダルを最終目標に、よいステップとするべく北京パラの出場も目指しています。
2位には同じく強化指定選手の岡本圭司選手(サイドウエイ)がトップと0.87秒差の31秒99で入りました。「1本目は板が滑らず、2本目はワックスが合ったので攻めたが、市川選手に抜き返されて、勝負強いなと思った」とレースを振り返りました。一般の部には妻と息子も出場し、「家族と出られる大会はなかなかないので、めちゃくちゃ楽しかった」
元々、フリースタイルのプロスノーボーダーでしたが、2015年に撮影中の事故で腰椎を損傷し、右脚はまひしてほぼ動かず、「左脚1本で滑っている感じ」と言います。それでも、「残っているところを最大限に使う工夫をしている」そうで、今は体幹や臀部を鍛え、低い姿勢のまま、股関節で荷重しながら板を滑らせるテクニックを体得。「スノボができることの幸せをかみしめながら、自分のスタイルで、北京(パラ)までやっていきたい」
男子LL2クラスの強化指定選手はもう一人、大会には不参加だった田渕信司選手(兵庫県和田山特別支援学校)もいます。市川選手は「3人で切磋琢磨して北京(パラ)まで頑張りたい」、岡本選手も「普段から仲が良く、互いに教え合ったりしている。3人で北京に出たい」と良きライバル関係をうかがわせました。
「男子大腿障害エキスパート」カテゴリーは平昌冬季パラリンピックにも出場した小栗大地選手(三進化学工業)のみの出場となり、1本目の43秒63のタイムで優勝はしたものの、2本目は転倒による途中棄権と大苦戦。2月にフィンランドで行われたワールドカップで2連勝後の凱旋レースとなったこの日も期待されましたが、「直前の合宿まで調子がよかったが、ザクザクの雪が苦手なのも一つ(の要因)」と残念そうな表情。
2種目ともメダルを惜しくも逃した平昌パラ後、スタンスをレギュラーからグーフィーに変えて強化を進めています。健足側の左脚を後ろにすることでスタートなどの縦滑りのセクションがこなしやすくなるといい、北京パラでは「金メダルが目標」と力強く語りました。
平昌冬季パラリンピックの悔しさをバネに、北京大会を目指す小栗大地選手 (撮影:吉村もと)
3選手が出場した「男子上肢障害エキスパート」カテゴリーは大岩根正隆選手(ベリサーブ)が1本目、2本目もトップを譲らず、3連覇を果たしました。「春雪で緩いので、転倒しないように気を付けた。狙っていた3連覇ができて嬉しい」
交通事故により右腕をほぼ失っていて片腕で滑りますが、左右のアンバランス差を滑りの工夫で補うとともに、慎重180cm、体重75㎏の体格を生かした加速力を武器に、初出場を目指す北京パラに向けて、「今は未完成。課題は多いが、日ごろから集中して一つひとつクリアして、表彰台を狙っていきたい」と意気込みます。
左腕一本でバランスをとりながら、180㎝の長身を生かしたダイナミックな滑りを見せた大岩根正隆選手。表彰式では愛娘の祝福に満面の笑顔 (撮影:吉村もと)
二星謙一スノーボード委員長はこの日の結果について、「特に下腿障害(LL2)の市川選手、岡本選手は切削琢磨し、つばぜり合いをしている状況で、今日も僅差のレースでよかった。大岩根選手は体格もよく、スノボの技術も年々向上。今回はミスのない、伸びやかな滑りでよかった。小栗選手は、今日はセクションが合わなかったようでミスも多かったが、直近のワールド杯で優勝もしている。平昌から見ているが、かなり高いレベルにある」と総括。
1年後に迫った北京パラについては、「平昌大会後の2年間は自力をつけることを重視してきて、それが去年から花を開いてきたと感じている。技術的には勝負のポイントとなるスタートセクションに重点を置き強化してきたが、今年からはスタートセクションに加え、バンクやキッカー、ターンなどコース全体の滑りを仕上げていき、北京に向かいたい」と話しました。
なお、今大会にはエキスパート部門に加え、コース上の障害物が2つ少ない9セクションで少し難易度が下がる「一般部門」も行われ、女子下腿障害3人、男子上肢障害ひとり、同大腿障害2人、同下腿障害4人の計10人が出場。5人の次世代育成選手も含まれ、好パフォーマンスを見せるなど国内のパラスノーボーダーのすそ野も少しずつ広がっている様子がうかがえました。
(文:星野恭子)