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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(346) 東京2020組織委、コロナ対策の行動指針などをまとめた「プレイブック」の初版を公表

一連の森喜朗会長問題が大きな注目を集めていますが、2月に入って東京2020大会組織委員会ではもう一つ大きな動きがありました。国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)と共同で、今夏、コロナ禍の中での大会開催を見据えて、感染拡大を防いで安心・安全な大会を実現するため、全ての大会関係者に順守を求める規則集「プレイブック」の初版を公表したのです。

「プレイブック」は対象者別に、各国際競技団体(IF)とテクニカルオフィシャル(審判、技術役員)向け、放送関係者向け、プレス向け、さらに選手とチーム役員向けの全4冊に分かれています。2月3日から9日にかけて順次公表され、各対象者向けの内容説明会(非公開)もすでに実施されました。
組織委、IOC、IPCが公表したプレイブック(国際競技団体向け)初版の表紙 (提供:Tokyo 2020 公式ライブ配信より)

ブックの基本内容は、昨年12月にまとめられた新型コロナウイルス対策調整会議の中間整理の内容を基に、世界保健機関(WHO)や第三者である世界中の専門家・機関からの助言、さらにコロナ禍の中で開催された国際的スポーツイベントでの感染防止策や実績などが参考となっています。大会のために来日する関係者に対し、渡日前、滞在中、帰国時における基本的な行動ルールが規定されており、入国14日前の行動から始まり、出国前と入国時にPCRなどの検査を受けること、滞在期間中は2種類のスマートフォン用アプリを使って健康状態のモニタリングや状況によっては行動確認を求めることなどが記されています。

さらに、対象者ごとに個別の規定もあります。例えば、IF向けには公共交通機関の使用や買い物など観光や外食等の禁止も明記され、観客席では歌や声援でなく、拍手での応援が求められています。また、選手向けでは選手村での過ごし方や原則4日ごと(96時間ごと)にPCR等の検査を受ける、食事や就寝時以外はフェイスマスクの着用などがあります。

私はプレス向けの説明会に参加しましたが、例えば、各会場のミックスゾーンや撮影エリア、ワークエリアの「密」を避けるため、会場のキャパに応じた「入場者枠」が設定され、入場には事前予約が必要となるといった「新ルール」が示されました。屋内・屋外に関わらず全競技会場が対象で、当初の予定に比べて各会場に入場可能なメディア数はほぼ半減される見通しです。公共交通機関の利用も制限されており、試合結果を見ながらさまざまな競技会場を取材して回ることは難しくなると思われます。取材活動はかなり制限されたものになりそうですが、コロナ禍にあっては私たちメディアも工夫して対応し、ルールを守ることが、大会を、他者を、そして自らをも守るために不可欠なのだと改めて感じました。

IOCによれば、このような規則集が作成されるのは、前代未聞のコロナ禍という事態に対応するためであり、大会史上初めてと言います。2月3日に行われた公表会見において、組織委の中村英正ゲームズ・デリバリー・オフィサー(GDO)は、IOCとIPCを含めた3者で協力して作成を進めたとし、「コロナ禍で世界中の人々の日常生活が大きな影響を受けて変化している今、安全安心を最優先事項として、今夏のオリンピック・パラリンピック大会も変えていく必要がある。今後、東京都民や日本国民の皆さまに丁寧な説明をしていくこと、取り組みをお示しすることが最も重要と考えている」と強調しました。

パラリンピック目線からの配慮と思われますが、障害のある関係者に向けた「Paralympic Consideration」というページも必要に応じて挿入されています。例えば、「車いす等の適切な消毒」や「聴覚障害者向けに必要に応じて短時間ならマスクを外しての会話も可能」といった内容です。

IPCのチーフブランド&コミュニケーション・オフィサーのクレイグ・スペンスは、「今夏の大会を安全かつ成功させるためには、大会に関わる、あるいは参加するすべての関係者がそれぞれに果たすべき重要な役割があり、その中枢となるのがこのプレイブックである。大会開催期間中に重要なのは、すべての競技会関係者はもちろん、日本国民を守ること」とし、この1年で学んだコロナに関する情報や国際大会の開催経験などから得た「新しい知識や既存のノウハウを組み合わせることでプレイブックは開発されており、大会開幕までにさらに具体的な内容を盛り込み、改訂される」と話しています。

実際、さらなる検討や調整は不可欠です。初版の内容についてはすでに、「対策が甘すぎる」といった批評も聞こえてきます。初版にも繰り返し、または深刻なルール違反があった場合に大会参加資格取り消しの可能性も書かれていますが、明確な基準や罰則はまだ示されていません。陽性者の特定や隔離、感染の疑いがある場合の対応にも触れていますが、隔離施設など具体策の明示もありません。組織委では感染状況の変化などを踏まえて今後、内容を更新し、4月には第2版を、6月には第3版を公表する方針も合わせて発表しています。

今夏の大会開催を願ってはいますが、「安心・安全の確保」は最優先です。組織委を中心にIOCやIPCには、その実現に向けた具体策の構築と、さらにホストとして受け入れる日本国民など関係者以外の理解を取り付けることも求められています。その一つの対応が今回発表された「プレイブック」であり、この先どのように更新され、確実な規則順守に向けた方法が詰められていくのか、これからも注目したいと思います。

▼各プレーブック(初版)のダウンロードは下記から
https://tokyo2020.org/ja/news/news-20210203-03-ja

(文:星野恭子)