「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(345) ゴールボール男女日本代表の強化大会が開催。約1年ぶりの貴重な実戦の機会に
視覚に障害のある選手がアイシェード(目隠し)をして鈴入りのボールを投げ合い得点を競うパラリンピック競技、ゴールボールのジャパンパラ競技大会が東京パラリンピックへの強化の一環として2月6日から7日にかけ、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催されました。新型コロナウイルスの影響により、例年とは違い海外チームは招かれず、男女とも日本代表の強化選手が2チームに分かれて対戦するなど全5試合を実施。無観客開催でしたが、インターネットで全試合がライブ中継されました。
東京パラリンピックに向けた男女ゴールボール日本代表の強化の一環として2月6日、7日に千葉市で開催されたジャパンパラ大会の様子 (撮影:吉村もと)
8月開幕の東京パラには男女とも開催国枠での出場が決まっており、女子は2大会ぶりの金メダル奪還を、男子も初出場ながら世界の頂点を目指しています。昨年春のコロナ禍の自粛期間以降はガイドラインに従った感染症対策を講じながら、毎月2週間以上の合宿で強化を進めてきましたが、国内外の大会が相次いで中止され、今大会は男子では14カ月ぶり、女子では11カ月ぶりの“代表戦”。緊急事態宣言下ではありましたが、「選手たちに実戦の機会を作りたい」と、選手やスタッフら約100人のPCR検査の実施や、手で触れて知覚する視覚障害のある選手たちにも配慮した、より小まめな消毒、接触機会を減らす移動のゾーニングなど感染症対策を徹底させて実現しました。選手からは「久々に大会のいい雰囲気が感じられた」「試合の緊張感を感じながら戦えたことは良かった」などの感謝する声が聞かれ、貴重な実戦経験を積む機会となりました。
初日には2試合が行われ、初戦の女子A対Bはいきなり「ゴールボールのフルコース」が展開される熱戦となりました。12分ハーフのレギュラータイムは引き締まった攻防が続き、前後半を終えて0-0。3分ハーフのオーバータイム(延長戦)前後半でも両者無得点と決着がつきません。試合はサッカーのPK戦に相当する1対1のエクストラスロー(ゴールデンゴール形式)にもつれ込み、Bチームのべ7人目、4大会パラリンピアンで東京パラ代表に内定している小宮正江選手(アソウ・ヒューマニーセンター)が貴重なサドンデスゴールを決め、Bチームが1-0で勝利しました。
2戦目は男子日本代表が同じくA、Bの2チームに分かれて戦いましたが、締まった熱戦だった女子とは一転、ボールのパワーやスピードが増した豪快プレーが連続する激戦に。前半序盤にBチームが先制し、一進一退を繰り返したのち、代表内定4選手がそろったAチームが逆転に成功。後半には大量得点をあげ、10-3(前半4-3)で快勝しました。
身を挺してゴールを守る田口侑治選手。重さ1.25㎏のボールを軽々と操って投げ込む男子のボールは時速60㎞から70㎞にも達するほどの威力 (撮影:吉村もと)
6得点で勝利に貢献した、Aチームの佐野優人選手(順天堂大)は、「前半の後半で逆転できたのは一番の評価。僕も練習してきた、角度のついたバウンドボールで得点できたので、練習成果がでた」とコメントしました。
つづく2日目は3試合が行われました。女子のA、Bチームはそれぞれ、「女子の世界トップ級のスロー」を想定した男子クラブチームのつくばテックと対戦。国際大会がない中、工夫して強化を進めている様子がうかがえました。結果は、Aチームが5-3、Bチームが9-8で、それぞれ勝利を収めました。
男子クラブチーム(奥)と戦う、日本代表女子Aチーム。女子同士の紅白戦だけでは得られない貴重な実戦経験に (撮影:吉村もと)
また、男子は前日と同カードが実施され、Aチームが5-1でBチームを下し、2連勝しました。宮食行次選手(サイバーエージェントウィル)が3点、佐野選手が2点を挙げて活躍。Aチーム主将で、守備の要も担う田口侑治選手(リーフラス)は、「宮食もそうですが、佐野の攻守にわたる存在感も光った。今大会でいい緊張感を味わえた。開催していただいて感謝しています」と大会を振り返しました。
182㎝の長身をいかしたダイナミックなスローを武器に、2試合で7点を挙げた宮食選手は半年後に迫った東京パラに向けて、「世界で日本が一番成長している。ダークホースという立場になると思うが、しっかり頂点まで駆け上がって行きたい」と力強く意気込みを語りました。
■1年延期が及ぼす影響
今大会はまた、選手たちにとって東京パラ日本代表入りへのアピールの場でもありました。日本ゴールボール協会は昨年3月に男女6人ずつの内定選手を発表。その後、新型コロナウイルス感染拡大の影響による東京五輪・パラリンピックの1年延期決定を受け、同協会は6月、内定選手の資格を維持したまま強化を進めることを決定。しかし、コンディションなどによる「内定見直しの可能性」も示唆し、今大会のパフォーマンスも評価の対象となっていたからです。
「内定見直し」の理由について、日本代表の市川喬一総監督は、昨年3月発表の内定選手はあくまでも2020年8月の大会に向けた選考であり、1年延期された今夏の大会に向けて改めて、「ベテランがコンディションを維持でき、若手がどこまで伸びるか。総合的なバランスを考慮して適正なメンバーを選ぶため」と説明。
「内定の見直しはコーチ陣が判断すること。選手は自分のパフォーマンスを100%発揮するだけ。(日本女子の)仕上がり具合はまだこれから。まだまだこのチームは強くなると思っている」と、天摩由貴主将 (撮影:吉村もと)
そのうえで、今大会2日間の各試合を見守った市川総監督は、代表チームの現状を「男子のこの1年の成長や伸び率は半端ない。逆に女子は1年延期の影響が計り知れない。できれば(東京パラを)20年にやりたかった」と分析。今大会の結果や今後の代表合宿の内容などをもとに、今夏に向けた新たな内定選手を4月上旬までには決めたいと話しました。
ロンドン・パラ金メダリストで、東京で4大会連続出場を目指すベテラン、浦田理恵選手(総合メディカル)は「パラリンピックは世界一を取りにいく大会。直近の一番いい選手で編成されるべきだと思う。世界で勝つために自分の役割を果たすことに集中するのは変わらない」と前向きに話していました。より強い日本代表を目指し、選手たちのさらなる発奮に期待したいと思います。
なお、熱戦の模様は下記のYouTubeリンクからアーカイブ映像がご覧になれます。男子の試合は市川総監督、女子の試合は杉山沙弥香コーチによる詳しい解説付き。ゴールボールの基本ルールから見どころ、選手情報まで、たっぷり楽しめます。ぜひ!
▼2021 ジャパンパラ ゴールボール競技大会 初日(2/6)
https://www.youtube.com/watch?v=Z0hofQV4RM4
第1試合 女子日本代表A vs 女子日本代表B
第2試合 男子日本代表A vs 男子日本代表B
▼同 2日目(2/7)
https://www.youtube.com/watch?v=LjaifHB5uPY
第1試合 男子クラブチーム vs 女子日本代表A
第2試合 男子日本代表A vs 男子日本代表B
第3試合 男子クラブチーム vs 女子日本代表B
(文:星野恭子)