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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(338) パラアイスホッケーの日本一決定戦、長野サンダーバーズが3連覇。「今後が非常に楽しみ」

スレッジと呼ばれる特製のソリに乗ってプレーするパラアイスホッケーの、クラブチーム日本一を決める「2020年国内クラブ選手権大会」が12月5日から6日にかけて、やまびこスケートの森アイスアリーナ(長野県岡谷市)で開催され、決勝戦で長野サンダーバーズが5-1で東京アイスバーンズを破って3連覇を達成しました。
パラアイスホッケー2020年国内クラブ選手権決勝後、健闘を称え合う勝者、長野サンダーバーズ(白)と準優勝の東京アイスバーンズ(黄)の選手たち (撮影:吉村もと)

今大会には国内クラブチームの7つのうち4チームが参加。優勝した長野は、予選第一試合で東海アイスアークスに12-0で快勝。一方、東京は同第二試合でロスパーダ関西を3-1で下していました。

決勝戦での長野は第1ピリオド開始6分に、東京の石井英明選手に先制点を奪われたものの、2018年平昌パラリンピック日本代表のDF熊谷昌治選手が3連続得点で突き放し、まだ競技歴3年というFW森マルコス選手も2得点でダメ押し。熊谷選手は「先制されて、逆に気合が入った」と振り返り、「パスを回して、みんなが得点に絡む攻撃をできれば、もっと強いチームになれると思う」とさらなる進化を口にしました。

また、全得点に絡む5アシストと活躍した、冬季パラリンピック5大会出場のFW吉川守主将も、「選手皆が、よく動いてくれた」と安堵の表情。ベテランと若手が融合して達成した3連覇に、「絶対王者」の底力を見せつけた圧巻の勝利でした。
日本代表でも活躍する競技歴27年のベテラン、長野サンダーバーズの吉川守主将(#13) (撮影:吉村もと)

一方、3大会連続で、決勝で涙をのんだ東京の石川雄大主将は、「ただただ悔しい。5失点は取られすぎ。こちらのプレッシャーが弱く、スピードに乗った状態で(相手の)ベテランにプレーさせる場面が多かった」と敗戦を分析。とはいえ、東京は今大会、ケガなどで3選手を欠いた苦しい布陣の上、初出場の新人選手も多かったこともあったなかでの2位。今後の可能性を感じさせました。

そんな東京を筆頭に、今大会は若手選手の活躍が光る大会でした。例えば、3位決定戦は創部3年目の関西が同2年目の東海を11-0で圧倒しましたが、うち8得点と貢献したのは15歳の中学3年生、伊藤樹選手。幼稚園からアイスホッケーを始めたものの、小学校3年時に交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活に。しかし、翌年にはパラアイスホッケーと出合ってメキメキと成長し、今では日本代表強化合宿にも選抜され、次代のホープとして期待される逸材です。

持ち味はドリブルで持ち込んでのシュートと話し、目標は「世界一のプレイヤーになりたい!」。アイスホッケー経験もあるため氷上での視野も広く、1対1のシーンでも物おじせず冷静にゴールキーパーの動きを見ながら、技ありのシュートを決めたシーンなどは今後のさらなる活躍を大いに期待させました。
将来性を強く感じさせたホープの一人、15歳の伊藤樹選手(ロスパーダ関西)。プレーの随所にセンスを感じさせた (撮影:吉村もと)

他に、日本スポーツ協会によるアスリート発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」(J-STARプロジェクト)出身者7名も含まれるなど、近年、選手層が厚みを増しています。

今大会のゲームスーパーバイザーを務めた、現日本代表チームの信田憲司監督は大会終了後、「どのチームもレベルが上がり、感動するプレーも多かった。今後が非常に楽しみになった」と総括しました。

次代を期待される若手が増えたことについては、「これまで(日本の)パラアイスホッケーの弱点は競技人口が少なく、競争原理が働いていなかったこと」とし、日本パラアイスホッケー協会の努力で選手層が厚くなり、「皆が競い合っている状況が大きなポイント。ベテランにもいい刺激となり、チーム力が上がっている」と、手ごたえを語っていました。
大会を総括する、信田憲司日本代表監督。「競争原理で、チーム力が上がっている」 (撮影:吉村もと)

日本代表チームは平昌冬季パラリンピックでは予選敗退し、次の2022年北京大会で雪辱を目指していますが、コロナ禍により北京大会出場につながる世界選手権の開催も未定のままで、出場さえ見えない状況です。信田監督は、「かなり厳しい。(強化は)順調に来ていたが、世界と戦ってどのレベルにきているのか。(大会開催という)ゴールの日にちが分からず、不安要素はあるが、選手の成長を見ていると、何としてもチャレンジさせてあげたいという気持ち」と苦しい状況を吐露。とにかく、前を向き、地道な強化をつづけていくことを誓っていました。

なお、今大会は有観客で開催されましたが、施設最大収容人数400人の半分までで入場者を制限したり、選手や関係者と一般来場者との動線を分けたりなど、コロナ感染拡大防止に努めた運営で開催されました。また、選手たちはフェイスマスクに、飛沫感染防止のための特製のマウスガードをつけるなど、徹底した対策が取られていました。

いろいろ厳しい状況ではありますが、選手数増、競争原理の効果、ベテランと若手の相互刺激など、「これから」を期待させてくれたクラブ選手権大会。来年はまた、どんな進化を見せてくれるのか、楽しみが増えました。

(文:星野恭子/写真:吉村もと)