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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(337) 「人馬一体」の華麗な妙技! パラ馬術全国大会が聖地、馬事公苑で開催

東京2020パラリンピックの正式競技でもあるパラ馬術の国内最高峰の大会、「第4回全日本パラ馬術大会」が伝統ある東京・JRA馬事公苑を舞台に 11月27日から3日間の日程で開催されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため無観客での開催でしたが、東京パラリンピック出場を目指す強化指定選手全5名を含む、全13選手が出場。コロナ禍で多くの大会が中止され、大半が「久しぶりの実戦」だったようですが、選手はそれぞれ精一杯、愛馬とともに高めてきた「人馬一体の演技」を披露していました。
「第4回全日本パラ馬術大会」が開催されたJRA馬事公苑(東京都世田谷区)。来夏の東京2020オリンピック・パラリンピックの馬術競技会場にも予定されている (撮影:吉村もと)

パラ馬術は技の正確性や優美さ、活発さなどが審査される馬場馬術競技で、東京パラリンピック実施競技のなかでは唯一の採点競技です。オリンピックの馬術同様に男女混合ですが、肢体不自由や視覚障害の選手を対象とし、障害の程度によって最も重いグレード1から最も軽いグレード5の5つのクラスに分かれて競います。選手の障害に応じて改良した特殊馬具の使用が認められ(事前申請・許可制)、グレードごとに求められる歩法や運動課目が異なります。

種目は3つあり、今大会では初日にチームテスト(団体課目)、2日目にインディビジュアルテスト(個人課目)、最終日にフリースタイルテスト(自由演技課目)が実施されました。初日に行われた団体課目はその名の通り、パラリンピックでは最大4名でチームを組んで規定演技を行い、うち3選手の合計点で順位が決まりますが、今大会では個人戦として競われました。グレード3を制したのは稲葉将選手(静岡乗馬クラブ/シンプレクス)とカサノバ号(オス)で、獲得した得点率67.059は全クラスを通してトップスコアでした。

先天性脳性まひによる両下肢まひの障害がある稲葉選手は強化指定選手で、東京パラリンピックの出場要件も満たしている有力選手の一人。今大会は久しぶりの公式大会であり、初めて演技する会場でもあり、「少し緊張して力が入ったことが演技に出てしまった。点数はもう少し欲しかった」と振り返り、「気持ちは馬にも伝わってしまう。メンタル的に開き直る方法を見つけたい。(東京パラリンピックでは)日本人初のメダル獲得が目標」と意気込んでいました。

今大会では規定演技を行う個人戦の「個人課目」、自身で選んだ音楽に合わせてオリジナルの演技を行う「自由演技課目」でも優勝し、三冠を達成しました。東京大会の代表はまだ選考期間中で、さらなる進化が期待されます。
三冠を達成した稲葉将選手。写真は自由演技課目で愛馬、カサノバ号とパフォーマンスする様子 (撮影:吉村もと)

ちなみに、採点は複数の審判がそれぞれ、運動課目ごとの審査基準に従って10点満点の減点方式で評価し、その合計を得点率で算出します。そして、各審判の得点率の平均値がその演技の得点となり、順位が決定されます。今大会は3人の審判制で実施されましたが、パラリンピックでは5人の審判が評価します。

会場となったJRA馬事公苑は、1964年の東京オリンピックでも馬術会場となった歴史ある施設で、東京2020オリンピック・パラリンピック大会の会場にも予定され、改修工事も行われたばかりです。厩舎や練習馬場なども含め、選手たちからは、「これまで見たことのない素晴らしい施設」といった声が聞かれました。

なかでも大きな特徴は演技を行う馬場で、オランダ産の砂にフェルトが混ぜられた、国際基準を満たす高い品質となっています。グリップが効きやすく、選手によっては「躓きやすかった」という声も聞こえましたが、グレード4で三冠を果たした高嶋活士選手(ドレッサージュ・ステーブル・テルイ/コカ・コーラボトラーズジャパンベネフィット)は、「踏んだことのない馬場質で、馬は最初、少しソワソワしていたが、僕個人としては運動しやすい好きな馬場。馬の脚に負担なく動ける、いい感触」と高評価。稲葉選手も、「本番会場で演技できたことはいい経験になった。馬も、自分も落ち着ける要素になる。いいイメージがもてた」と手ごたえを話していました。
改修されたJRA馬事公苑の馬場の砂。オランダ産の砂にフェルトが混ぜられている (撮影:星野恭子)

馬場馬術では馬の素質や美しさも大きな要素ですが、最も大切なのは選手と馬の相性であり、信頼関係です。言葉は交わせないものの、日ごろの世話などでコミュニケーションを取りながら、馬の性格や能力を理解し尊重し、呼吸や気持ちを合わせて同調性を高めることが大切です。

特にパラ馬術では、選手にはそれぞれ、病気や事故などによる異なる障害があり、馬への指示の与え方や馬具などにも創意工夫が必要で、コンビ独自「人馬一体の演技」を創り上げていくことが欠かせません。

例えば、一般に馬に指示を与える場合、手綱を引いたり、脚で馬のおなかを圧迫したりしますが、パラ馬術の選手の中には握力が弱かったり、手や脚にまひがあったりするので鞭を使ったり、馬具を改良したりなど、それぞれ独自の工夫をこらしています。

また、選手をサポートするスタッフもいます。例えば、高次脳機能障害などで演技の記憶が難しい選手のためにコマンダーが次の運動課目を読み上げる役目を担い、視覚障害選手はコーラー」の声や音によって方向を確認しています。

意思のある馬との演技は難しい部分もあると思いますが、逆に気持ちが通じ合った演技ができたときの達成感もまた大きいのでしょう。今大会でも、演技後に「パートナー」の首をポンポンと愛撫したり、感謝を表すような様子がよく見られました。

東京パラリンピックの本番会場で行われたパラ馬術の日本一決定戦。競技の奥深さも感じられた3日間の大会でした。大会の模様はインターネットでアーカイブ配信(解説入り)されています。人と馬のチャレンジを、ぜひご覧ください。

▼第4回全日本パラ馬術大会
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(文:星野恭子)