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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(327) 車いすバスケ女子日本代表活動再開。藤井主将「メダル獲得、それに尽きる」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で代表活動を中断していた車いすバスケットボール女子日本代表が活動を再開し、岩佐義明ヘッドコーチ(HC)と藤井郁美主将が9月9日、オンラインで取材に応じ、チームの現状や今後の強化プランなどを説明しました。チームは9月7日から13日(日)まで味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で強化合宿を行っていました。

女子代表は延期された東京パラリンピックに開催国枠で、3大会ぶりの出場が決まっており、今合宿は同大会に向けたチーム強化が目的でしたが、約半年ぶりに強化指定選手たちが顔をそろえる「再会の場」でもありました。岩佐HCは、「待ちに待った合宿。選手は楽しくボールを追いかけ、ハードなメニューにも取り組み、中身の濃い合宿が行えている」と手ごたえを語っていました。

自粛期間中、選手はそれぞれ自宅中心の練習に加え、各自の置かれた環境下で可能な限り、トレーニングを続けていたようです。藤井主将も体育館での練習は数カ月間できず、再開館後もすぐにコンタクトプレーはできず、体調を見ながら車いすでのランニングやシュートフォームの確認などから始め、活動再開ガイドラインなどに従って段階的に練習を進めてきたと言います。

強化合宿中にオンラインで記者会見する、車いすバスケットボール女子日本代表の藤井郁美主将(提供:日本車いすバスケットボール連盟)

また、久々に共に汗を流した仲間たちの様子を、「地域ごとに練習量の差が見られたが、(合宿)初日のフィジカルテストで、選手個々が責任をもって(自主トレを)やってきたのだと感じた」と語り、主将として選手たちの強い自覚とコンディションの良さを頼もしく思うような表情がうかがえました。

日本女子は過去2回(1984年、2000年)のパラリンピックで銅メダルを獲得していますが、08年北京大会の4位を最後にパラリンピック出場すら逃してきました。復活の場となる東京大会に向けて強化を進めていたなか、コロナ禍で大会は1年延期に。それでも、藤井主将は、「中止にならなくてよかった。目標はメダル獲得、それに尽きる。(コロナ禍で)実戦から離れ、海外チームとの試合ができない不安があるが、皆でレベルアップしたい」と冷静に現状と向き合い、「目標達成のために今、何が必要かを考えることで、モチベーションを保っている。個人的には40分間走れるフィジカルとシュートの精度を高めたい」と前だけを見据えています。

岩佐HCも、「ゲーム勘が重要となる1年」と話します。ただし、現状では対外試合は開催も出場も難しい見通しです。この先は毎月1~2回の合宿を重ねながら、まずは来年2月に大阪市で開催予定の国際親善大会「大阪カップ」をターゲットに、12月までに代表12名と補欠4名の16名を選考し、大阪カップに臨み、「国際試合の感覚を培いたい」と話します。さらに4月頃には16名の中から東京パラ代表12名を選抜し、その後は国内で男子チームとの練習試合も強化プランとして検討しているそうです。

オンラインで会見した女子日本代表・岩佐義明ヘッドコーチ(提供:日本車いすバスケットボール連盟)

「強化指定選手全員で切磋琢磨してもらい、各ポジションに合った強い12名を選考したい」と話す岩佐HCが目指すのは、「トランジションバスケ」です。守備からの切り替えを速くし、相手の守備が整わないうちにシュートを狙う攻撃的なスタイルです。小柄な日本が「高さのある海外勢に対抗するにはスピードしかない」とここ数年、取り組んできたスタイルで、岩佐HCは、「効果は見られる。パスのスピード、走るスピード、シュートのスピードで勝ち切りたい」。そのために課題に挙げるのは「勝どきのシュートの精度」で、今後1年をかけてじっくりと強化を図っていく意向です。

藤井主将もまた、「一人ひとりがフィジカルを強化することで、チームとしてレベルアップできる。あと1年続けていけば、トランジションの速いスピード感あふれるバスケができる」と意気込みながら、「1年間の準備期間は世界も同じなので、差をつけられないようにしたい」と気を引き締めてもいました。

■クラス分け再審査で、日本女子選手1人が東京パラ出場不可に

前述した合宿中のオンライン会見前日の8日、日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)はもう一つ重要な発表を行っています。国際パラリンピック委員会(IPC)が定める基準による障害クラス分けの再審査を受けた日本の女子選手一人(氏名非公表)が不適格と判定され、東京パラリンピックの参加要件を満たさなかったことを明らかにしたのです。

この発表に至った背景について、少し説明しましょう。まず、車いすバスケットボールの特徴的なルールとして、「持ち点制」があります。選手は自身の障害の種類や程度により、最も重い1.0から最も軽い4.5まで0.5点刻みで8つのクラスに分けられ、「クラス分け」の数字がそのまま選手の「持ち点」となります。そして、コート上の5人の持ち点合計を14点以下でチーム編成しなければならないというものです。

「クラス分け」はパラリンピック出場に不可欠な要件で、IPCが定める基準に則って各国際競技団体が行っています。しかし、今年1月31日、IPCから衝撃的な内容の発表がなされました。IPCが国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)が実施しているクラス分け方法について、特に障がいの軽い4.0と4.5の基準がIPC基準と異なっている点を問題視し、IPCの基準に従わない場合は、車いすバスケットボールを東京パラリンピックの競技種目から除外する可能性があると通告したという発表です。

「クラス分け」はパラリンピックの根幹をなすもので、公平な競技のためには不可欠なルールと言えます。一方で、東京パラ直前でのこうしたトラブルに、「なぜこのタイミングで?」という声もありました。実は、現行のIPC基準は2015年のIPC総会で各国際競技団体出席のもと承認され、2017年1月から施行されているものです。しかし、IPCの再三の要請に対し、IWBFの対応が遅れ、基準の見直しがなかなか進まなかったことから、上記1月31日の通告に至ったというわけです。

この通告を受けて急遽、IWBFは東京パラリンピックに出場する可能性がある各国の4.0と4.5クラスの男女132選手に対して再審査を進めていました。日本選手で対象となったのは全14名で、うち男子6名は全員が要件を満たすと判定されたものの、前述の通り女子は8名中1名が不適格となってしまったのです。

なお、JWBFによれば、この女子選手はすでにIPCの判定を受け入れたそうで、残念ながら、東京パラ出場の可能性は消えてしまいました。

藤井主将は、「今までやってきた仲間から(不適格の)選手が出てしまった。これから一緒に戦えないのは残念」と顔を曇らせましたが、岩佐HCが「世界の基準に対応し、与えられた選手の中で戦おうと前に進んでいる。しっかり対応してがんばりたい」と語ったたように、チームは前を向いています。

復活を期す世界舞台へ向け、さまざまな苦難を乗り越え、再始動した車いすバスケ女子代表。チームの絆を強め、ただ前へと進みます。

(文:星野恭子)