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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(325) 延期の1年間を有効活用! 東京2020都市ボランティア対象のセミナーが開催

東京2020大会の延期に影響を受けているのは選手やスタッフだけではありません。20万人以上の応募者の中から選抜された約8万人といわれる大会ボランティアも同様です。

「オリンピックが好き」「誰かの役に立ちたい」「めったにできない夏を体験したい」などなどボランティアを志す理由はそれぞれかと思いますが、「はたして来年、その想いはかなうの?」など不安な気持ちは共通かもしれません。

例えば、大会組織委員会が7月中にオンラインで実施したアンケートでは約2万6千人の大会ボランティアから回答が寄せられ、「活動への不安」として6割以上が「大会の実施形態や活動中の感染防止対策」を挙げて第1位に。また、「卒業や留学、転勤など環境の変化で参加できないかもしれない」という不安を挙げた人も2割に上ったそうです。

そうした現状も踏まえ、「都市ボランティア自主勉強会セミナー」が8月23日、オンラインで開催されました。東京以外の競技開催地(札幌、宮城県、福島県、千葉県)の街中で活動する「都市ボランティア(シティ・キャスト)」を対象に、彼らのモチベーションを保ち、ボランティア同士の交流を促そうというセミナーです。

主催したのは日本財団ボランティアサポートセンター(ボラサポ)で、大会組織委員会と日本財団が結んだ連携協定に基づき、東京2020大会の成功と大会後につながるボランティア文化の醸成を目的に設立された組織です。その活動の一環としてボラサポでは上記4 自治体の都市ボランティアを対象にオンラインによる交流会を7月から8月にかけて計4回実施済みで、その際の参加者アンケートで、「独自に交流会や勉強会を実施してみたい」という声が大きかったことから今回のセミナーが企画されました。

セミナーは2部制で行われ、第1部は「ボランティア自主勉強会開催セミナー」と題し、ボラサポが培ってきた「運営ノウハウ」などを伝える内容となっていました。例えば、「オンライン会議システムZoom」の使い方や、山口県で活動するNPO 法人「市民プロデュース」の平田隆之理事長を講師に「魅力的なプログラムの作り方」や「上手な進め方」などで、なかなか興味深い内容でした。

参加者は9名で、それぞれ「道案内などの英会話」や「救急救命」などの勉強会開催を考えている意欲的な皆さんで、積極的な質疑応答も印象的でした。例えば、「Zoomでの効果的なライティングの工夫は?」や「投影資料の作り方は?」など前向きで具体的な質問が多く、「来年を見据え、よりよいボランティア活動につなげたい」という意欲が伝わってきました。

参加者の一人で、千葉県の在住の80歳の男性は海外関連の仕事で磨いた英語力を生かし、日常的に成田空港で外国人向けのガイドボランティアを行っている経験を持ち、東京大会でも成田空港を担当予定です。

スポーツ関連のボランティアは東京大会が初めてだそうですが、これまでに参加した研修会やセミナーなどから、「一方的にサービスするのがボランティアだと思っていたが、実は私自身も成長できるいい機会なんだと感じている」とボランティアのやりがいについて語り、1年延期された本番での活躍を心待ちにしている様子でした。

ボラサポではすでに今回の受講者が学びを実践する場として、10月4日に「オンライン勉強会」を企画しているそうです。さらなる学びの場となることを期待します。

第2部は東京パラリンピックのPRも兼ねた「パラアスリート講演会」として、パラパワーリフティングで東京パラ出場を目指す山本恵理選手が約50名の聴講者に向け、「パラスポーツの魅力 ーFirst Stepの大切さー 」について語りました。

現在、37歳の山本選手は先天性二分脊椎症のため脚が不自由ですが、9歳から水泳を始め、パラアイスホッケーにも挑戦後、約4年前に下肢障害者が対象のベンチプレス競技、パラパワーリフティング(PPL)に出会います。当初の記録は37㎏でしたが、現在は日本記録となる63㎏まで伸ばし、パラリンピック初出場を狙っています。

そうした自分自身や他選手のエピソードを交えながら、「パラスポーツは、『いつからでも、だれでも、どこでも』、挑戦できることが魅力!」と熱くPRしました。

聴講者の大半はパラスポーツ観戦未経験者で、「競技生活で苦しかったことは?」「楽しくてやっているので苦しいことはない」や、「ストレス解消法は?」「思い切り泣くこと」など活発な質疑応答が展開されていました。

また、「日常生活でお手伝いしてほしいことは?」などボランティア志望者ならではの質問もあり、「車いすの人や障害者を見かけたら、まずは声をかけてほしい」という山本選手の返答は大いに参考になったのではないでしょうか。

千葉県在住のある男性は、「海外出張が多い仕事で、これまで45カ国を訪問し、各地で多くの人にお世話になった。今度は訪日外国人に恩返しがしたい」と都市ボランティアに応募したそうです。山本選手が話した「知人からの声かけでパワーリフティングと出会い、東京パラを目指してワクワク楽しい日々を送っている」というエピソードに対し、「自分の一言で、誰かの人生を前向きに変える可能性があることに気づき、感銘した」と言い、「そんな機会があれば、自分も声をかけてあげたい」と新たな発見があったようです。

ボランティアは元々、「何かしたい」という自発的な動機を持ち、何らかの行動を起こしたい人たちです。イベントや大会などが軒並み中止され、ボランティア活動の場も激減し、モチベーションも下がりがちのなか、自主的な活動へと背中を押す今回のセミナーは有意義な試みだと感じました。

東京大会開催はまだ不透明ではありますが、「あと1年、強くなれる時間をもらった」と前を向くアスリートたちのように、ボランティアの皆さんにも「新たに学んだり、ボランティア同士の連帯感を強めたりする1年」ととらえ、ポジティブに過ごしてほしいですし、ボランティアにとっても輝ける場が1年後に訪れてほしい、そんな思いを強くしたセミナーでした。

(文:星野恭子)