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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(324) 東京パラ1年前――メダル候補のスイマーたちが意気込み。「元気な社会への第一歩を」

新型コロナウイルス感染拡大で延期となった「東京2020パラリンピック」大会は8月24日、新たな開幕まで「あと1年」の節目を迎えました。定まった目標に向けてこれからの1年を有効に使おうと、パラアスリートたちはそれぞれに再スタートを切っています。

22日には、日本身体障がい者水泳連盟と日本知的障害者水泳連盟が合同で「東京パラリンピック1 年前会見」をオンラインで行い、選手選考方針の説明のほか、有力選手たちが意気込みを語りました。

両連盟ともすでに、コロナ禍の自粛期間を経て今夏から代表合宿など活動を再開。日本代表の上垣匠監督は、「東京パラがいつ開催されても、(競技期間の)10日間を戦い抜ける準備を着々と進めている。選手もそれぞれ、課題を持って取り組んでいるので、来年の大会では自分のパフォーマンスを発揮してくれると信じている」と期待を口にしました。

また、7月末から合宿中という知的障害者水連の谷口裕美子専務理事は、「久しぶりに選手同士が顔を合わせ、元気に同じ目標に向かって取り組み、笑顔の多い合宿となっている。知的障害の選手はコミュニケーションが苦手でラインや電話なども難しい。直接、顔を合わせ同じ時間を共有することが重要だと実感している」とコメント。知的障害クラスの選手は急な予定変更が苦手な人も多く、大会延期によるショックも大きかったようですが、選手たちは事態を少しずつ理解し、「新たな目標に向かって個々の課題に向き合える(1年の)時間をもらえたと、それぞれ頑張っている」と、選手たちが新たな一歩を踏み出した様子を伝えました。

■内定済みの3選手、決意新たに

水泳チームではすでに3選手が昨秋の世界選手権優勝で東京パラ代表に内定しています。全盲クラスの木村敬一選手(29歳/東京ガス)はリオパラリンピックでの4つを含む通算6個のメダルを獲得している日本のエース。4大会連続出場となる東京大会に向け、「目標は、まだ手にしていない金メダル獲得が第一。自国開催のパラリンピックは特別なので、その瞬間を現役のトップ選手として迎えられる幸せをかみしめて、(東京パラでは)精いっぱい競技したい」と誓いました。

2018年からアメリカに練習拠点を移していますが、コロナ禍で帰国中の現在は現地のコーチから届く練習メニューで強化をつづけています。「練習環境やサポートは日本のほうが進んでいるので、このプラスを生かさない手はない。置かれた状況のなかでベストなことを探し、毎日を積み重ねていきたい」と前向きですが、「残念ながら確実に来年、東京大会があるのか、どのような形で開催されるのか不透明なことも多い」と複雑な胸中も覗かせます。

それでも、「開催できるとなった時は世界中が元気になろうとしている最中だと思う。世界を動かしているような出来事が自分の生まれ育った国で行われるのは誇り高いこと。開催できたら日本中が盛り上がって、世界に向けて元気な社会への第一歩を示せるような瞬間にできれば」と決意を新たにしていました。

また、知的障害クラスで内定を得ている山口尚秀選手(19/四国ガス)は延期決定当初は動揺もあったようですが、「自分に負けない気持ちを持って、今できることを一つひとつこなしていきたい。東京大会では金メダル獲得と、(自身が持つ100m平泳ぎの)世界記録更新が目標。そのためには、(会場となる東京・江東区に新設された)東京アクアティクスセンターの設備や環境をチェックして、レース本番のイメージをつかむことも課題」と話し、初出場となる大舞台を見据えます。

同じく知的障害クラスで初出場となる東海林大選手(21/三菱商事)は、「今年開催だったら、自分の実力がまだ足りない状態で臨むのかと不安もあった。1年延期となって、自分に足りないメンタルや基礎体力を補える時間が増えたと思っている。一つひとつの練習をチャンスに変えて、いい練習がしたい。初出場となるパラなので、あまり気追わず楽しみたい」と前向きに語っていました。

■パラ水泳代表選考会は来年5月開催へ 

上記3選手以外は国内での日本代表選考会で出場権を目指します。当初は今年3月に実施予定だったものの延期されていた同選考会は来年5月21日~23日に横浜国際水泳場で開かれる「2021ジャパンパラ水泳競技大会」で実施されることも発表されました。具体的な選考条件などは来年、発表されるそうですが、出場権を目指す選手たちにとっては「一つのターゲット」が定まったことになります。

上垣監督は、「今から9カ月間の時間をいただけた。選手には新しい課題や目標に挑む時間として、来年の選考大会では派遣基準記録の突破とともに、(東京パラ)本番で戦える状態に仕上げてほしい」と期待を寄せました。

パラリンピック通算5つのメダルを持ち、東京で5大会連続出場を目指す、肢体不自由クラスの鈴木孝幸選手(33/ゴールドウイン)は2日前に戻ったという留学先のイギリス・ロンドンからリモートで会見に参加。

「イギリスの感染状況や予防策などに気を付けながら、自分の可能性を信じてよりレベルアップできるようにトレーニングしていきたい。目標としている金メダル獲得は変えずに、来年に向けて頑張りたい」と力を込めました。

全盲クラスでパラリンピック初出場を目指す富田宇宙選手(31/日体大大学院)は昨秋の世界選手権では銀メダル獲得のホープ。「選考会を本番だという気持ちで臨んで自己ベストを出し、さらに本番に向けて上を目指すことを念頭に、レベルアップを狙いたい」と意気込みます。コロナ禍での活動自粛期間中は実家のある熊本県に戻り、自宅庭に特設のビニールプールを設置して練習をつづけたそうです。

「限られた状況だったが、いい土台がつくれた。フォームの根本的な改善など普段では取り組めないような課題に取り組めた。東京パラが開催されれば、これまでとは少し違う意味合いを持つ大会になる。私たち障害者が困難を乗り越え、さらにコロナを乗り越えてトレーニングを積み、さらなるパフォーマンスの向上をお見せする機会。(これまで以上の)強いメッセージを届けられるように競技力向上は大前提で、さらに『パラをやってよかった』と言われるような素晴らしい時間を提供できるよう、あらゆる面から準備したい」と、1年後の祭典に向け強い覚悟を示しました。

「あと1年」を最大限に生かそうと、チーム一丸で前向きに取り組むパラスイマーたち。活躍が期待される東京パラリンピックは2021年8月24日から9月5日までの13日間、22競技539種目が21会場で行われます。水泳競技は8月25日から9月3日までの10日間で金メダル146個を争います。

(文:星野恭子)