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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(323) 日本バスケ界一丸のイベント開催!「車いすバスケの新しい時代の幕開け」

新型コロナウイルスの感染拡大はスポーツにもさまざまな影響を与えていますが、一方で創意工夫を凝らし新たな挑戦に取り組むことで、大きな可能性も生まれています。今号ではそんな取り組みの一つを紹介します。

「オールバスケで、日本を元気にしたい!」――そんな熱いテーマを掲げたイベント、「BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE」が8月16日、国立代々木競技場第一体育館で開催されました。主催したのは日本バスケットボール協会(JBA)で、5人制男女、3人制(3x3)男女の各カテゴリーはもちろん、「バスケットボールファミリー」の一員として車いすバスケットボールも含まれて行われました。全カテゴリーの代表候補選手が一堂に会したイベントは、日本バスケ界初となる試みでした。

イベントの冒頭、JBAの三屋裕子会長は、「国難とも言えるこの状況を越え、そして夢を叶える。そんな力がバスケにあるんだーーそう信じて、これからも歩みを止めることなく進んでいきたい」と力強く開会を宣言。その後、カテゴリーごとの紅白戦やフリースローチャレンジなどバスケの魅力を伝える多彩なメニューが展開されました。

無観客イベントでしたが、インターネットで無料ライブ配信されたことで、大勢のバスケファンが全国各地から観戦できました。会場に設置された大型ビジョンにはネット越しに応援するファンの姿も映し出され、またパフォーマンス後の選手インタビューではオンライン会議システムを通してファンが直接、選手と交流できるなど、「スポーツ観戦の新しいカタチ」を示す機会にもなりました。

先陣を切ったのは車いすバスケットボールです。男子日本代表候補の豊島英選手(宮城MAX)、秋田啓選手(岐阜SHINE)、大舘秀雄選手(埼玉ライオンズ)、香西宏昭選手(NO EXCUSE)が登場し、車いすバスケという競技の魅力や特徴を伝えるデモンストレーションを行いました。

車いすバスケといっても、使うコートやゴールのサイズは5人制バスケと全く同じです。まずは、2人1組でパスをつなぎながらシュートするツーメンや同様に3人で行うスリーメンを披露。5人制でも基本となる動きですが、車いすを操作しながら正確なパスやシュートを繰り出しスピード感あふれるパフォーマンスに、ネット配信のコメント欄には、「はやい~」「すごい」などの声も。

続いては、スリーポイントシュートです。こちらも5人制と全く同じで、高さ3m5cmのリングに向かい6m75cm離れたラインから狙う高度なシュートですが、特に車いす選手はジャンプで高さを補うこともできません。解説を務めた京谷和幸ヘッドコーチは、「車いすを漕いで勢いをつけながらシュートする」ことが成功のコツと説明。イベントでは緊張感からか成功率はいつもより少し低めでしたが、鍛え上げた腕力やテクニックをアピールする時間となりました。また、車いすならではのテクニックとして、片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技も披露。ティップオフ時やゴール下でのリバウンド合戦などで見られますが、片輪でバランスをとるため強い体幹も必要な難しい技です。

メインイベントは、コートの両サイドに置いた障害物をスラロームで抜け、シュートを決めるタイムトライアルでした。4選手の挑戦を前に、イベントMCで元5人制女子代表の中川聴乃さんも挑戦。車いす操作を練習してから臨んだという中川さん、ゴール下からのシュートはさすがの精度で1分23秒20と健闘。ところが、つづいてチャレンジした豊島選手は圧巻のチェアスキルを見せ、いきなり25秒46の好タイムをマーク。2番手の秋田選手はボールがコート外に転がるトラブルで44秒50、スピードが持ち味の大舘選手は33秒32、日本代表エースの香西選手は27秒24と追い上げたものの、豊島選手の優勝で幕を閉じました。実は豊島選手は4人の中では最も小柄で障害も重いクラスですが、機敏性や高いスキルを見せてくれました。

車いす選手はこのあとも、カテゴリー対抗のシュートトライアルやフリースロー合戦などにも登場。パフォーマンス後には豊島選手が会場インタビューに臨み、「車いすバスケも入って、カテゴリーを横断してのイベントを実現できたのはありがたいし、今後につながるいいきっかけになりました」とコメント。同選手はまた、2日前に行われた記者会見でも、「このイベントに車いすバスケを加えてくださったことは新しい時代の幕開け。今回は選手が揃わず試合は見せられないが、デモンストレーションという形で、前に歩み続けている僕たちの姿をお見せします。楽しんでいただけたら」と意気込みを話していましたが、その言葉通り、車いすバスケならではスピード感やテクニックなど競技の魅力の片りんを伝えるよい機会になったのではないでしょうか。

東京2020パラリンピックでは大会をきっかけに、障害のある人もない人も互いを認め尊重し合って暮らす「共生社会の実現」も開催意義の一つに掲げられています。コロナ禍を受けて実現したバスケ界初の「共生イベント」は、パラリンピック開催を前に貴重な一歩だと感じました。

「バスケで日本を元気に」というJBAのプロジェクトは今後もつづくそうです。次回のイベント開催時には車いすバスケの紅白戦も実施され、さらにその魅力や迫力を伝える機会になれば!大きな可能性が感じられるイベントでした。

(文:星野恭子)