「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(320) ブラインドサッカー日本代表、感染防止徹底して合宿。川村主将「さらに成長した姿で戦えるように」
ブラインドサッカー男子日本代表チームは7月23日から26日まで東京都葛飾区の奥戸総合スポーツセンターで強化合宿を実施し、24日と25日には報道陣に練習の様子を公開しました。2月以来、新型コロナウイルスの影響で国際大会や合宿などが中止されていましたが、6月10日から活動を再開。以来、ガイドラインにそって週2日と週末1~2日の練習を、参加人数を絞った中で重ねていましたが、宿泊を伴い、強化指定選手14人が顔を揃えた本格的な合宿は約4カ月ぶりでした。
高田敏志監督は、「サッカーが戻ってきて良かった。選手たちも楽しそうで、嬉しかった」と笑顔を見せ、川村怜主将も、「全選手が揃って、やっとトレーニングができた。ゲームができるのは嬉しいし、ありがたいことだと感じた」と充実感をにじませました。
2月以来の本格的な合宿で、ゲーム形式の練習に臨む、ブラインドサッカー男子日本代表チーム (提供:日本ブラインドサッカー協会)
今回の合宿では、コロナ感染防止対策が徹底されていました。特にホテルではシングルルームでの宿泊や食事も一般客とは異なる大きな会議室で4人掛けのテーブルに2人ずつ着席、全員集合でのミーティングは避けるなど、できるだけリスクを減らすよう細心の注意が払われて行われました。
高田監督は今合宿のテーマとして、自粛期間中に落ちたフィジカル面のコンディションや対人感覚を取り戻すなど、「ケガをせずに、コンディションのリカバリーが最優先」とし、「3カ月間、サッカーができなかった精神的ダメージや不安を取り除く合宿であり、まずは楽しみながらサッカーをやることを意識している」と話しました。
25日にはランニングタイム20分のゲームも実施。選手の動きはまだ万全ではなく、手探りな面は否めないなか、高田監督は「ほぼ予定通りメニューが消化できている。これだけ早く5対5のゲームが戦術的意図を持ってできるとは思っていなかったので、本当に嬉しい。久しぶりでも(選手は)動けていたし、蒸し暑い中、脚が攣るくらい走っていた。自分を追い込んでゴールを狙おうと、そういうのがすごく見えた」と、選手たちの真摯な姿勢を頼もしく感じているようでした。
見えない選手同士がピッチを駆け、ゴールを狙うブラインドサッカーには「声掛け」や「コミュニケーション」は欠かせません。久々のフルメンバーでの合宿にあたり、川村主将もその点にも気を配ったと言い、「自分と向き合って体のコンディションを確認することは大事だが、自分に向きすぎると声が出なくなる。パスを通すのにもコミュニケーションが必要で、相手に声を伝えることを意識しよう。なかなかみんなで顔を合わせて集まれる機会が少なかったので、こういった機会や時間をすごく大事に、なるべくみんなとコミュニケーションを取るようにと伝えた」と言います。
ブラインドサッカー日本代表の強化合宿で練習する川村怜主将 (提供:日本ブラインドサッカー協会)
また、ゴールキーパーは視覚に障害のあるフィールドプレーヤーの目の代わりとなり、声で情報を伝え、指示を出す役割も担っています。長年、代表キーパーとして活躍する佐藤大介選手は、久しぶりの実戦形式の練習で、「はじめからうまくいくと思わなかったが、そんな中でも、みなが走れるのは確認できた。細かい点はもっとやらなければならないけれど、改めてみんなでサッカーをやれることが幸せなことだと感じた。細かい部分のコミュニケーションがすごく大事な競技で、特にキーパーから発信して伝えていくことが重要。もっと高めていきたい」と自身の役割を再確認しているようでした。
初出場となる東京パラリンピックに向けて、コロナ禍が大きなブレーキとなったことは否めません。ブラインドサッカー日本代表は自粛期間中も週3回、1回1~2時間ほどのオンラインによる合同練習を実施し、コーチ指導のもとフィジカルトレーニングやボール操作などの練習を重ねてはいました。それでも、川村主将は自粛期間前に比べ、「やっと8割くらい戻ってきたが、残りの2割はまだ大きな差」と明かし、加藤健人選手も、「自粛期間中も自主トレなどしていたので、もう少し動けるかと思っていたが、ギャップがあった」と言います。また、視覚障害のある選手たちにとっては「周囲の音を聴く」など日常生活での行動もトレーニングと言え、自粛期間中、ほぼ在宅を余儀なくされ、高田監督は「人との距離感が大きな課題だが、少しずつ戻ってくるだろう。焦らずやっていきたい」と話します。
それでも、選手たちはパラリンピックの1年延期をポジティブに受け止めていました。川村主将は、「(新型コロナウイルスの影響で)3月の時点で延期が決まったときに、率直に延期でよかったなと思った。世界中にパンデミックが広がっている中で、猶予を与えられた。厳しい状況が続くが、来年に向けて、また1年準備ができるのをプラスに捉えて、さらに成長した姿で戦えるように、この1年を大事にしたい」と、決意を新たにしていました。加藤選手も、「やり方を工夫して、スポーツの力を示していきたい。本当は多くの人に見てもらって感動や希望を与えたいが、今はそういう環境ではないので、今はこの環境と向き合って、また試合が見に来られる環境になれば、いいパフォーマンスを見せられるように頑張っていきたい」と力強く話していました。
1年後に迫ったパラリンピックに向け、新たな一歩を踏み出したブラインドサッカー男子日本代表。「サッカーができる喜び」をかみしめ、さらなる進化を大いに期待したいと思います。
強化合宿中のブラインドサッカー男子日本代表チーム (提供:日本ブラインドサッカー協会)
もちろん、取材現場では報道陣に対しても感染対策が徹底されていました。受付で検温と調査票に体調や連絡先などを記載、署名したのち、手指を消毒。取材席も左右は2席、前後は1席開けての着席が指示されました。また、監督や選手へのインタビューも、スタンドの取材席からオンライン会議システムを通した形で行われました。これまでとは異なる取材環境ではありましたが、私自身は久しぶりのスタジアム取材に、「戻ってきた~」という感慨深さで、ワクワクする気持ちが大きかったです。「スポーツを取材できる喜び」を私も改めて実感し、貴重な機会だと感謝しながら、これからも真摯に取り組んでいきたいと思います。
(文:星野恭子)