「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(313) 競技団体、パラアスリートをさまざまに支援
新型コロナウイルス感染拡大のパラアスリートへの影響は練習や大会出場の機会喪失だけではありません。スポンサー企業の経営にも及んでいるため、パラスポーツ支援への影響も懸念されますし、収入減を被った選手も少なくありません。経済的な支援や心身のケアも必要です。
今回はそうした現状を受けて、国内外の競技団体が最近、発表したいくつかの取り組みについてご紹介します。
■車いすテニス選手の支援に、30万ドル以上の新たな基金発足
国際テニス連盟(ITF)は2日、テニスの4大大会(グランドスラム)と合同で、車いすテニス部門を対象に、総額30万ドル(約3,200万円)を超える資金援助を行うことを公式サイトで発表しました。
この基金は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ユニクロ車いすテニスツアーの中止やメジャー大会の延期によって収入源を失い、経済的に苦しい立場に置かれている車いすテニス選手や大会を主催する各国協会などへの助成金として使われる予定です。
選手が助成金を申請する際の条件は、2019年の獲得賞金額が10万ドル(約1,070万円)以下で、一定のランキング要件を満たした車いすテニス選手(男子・女子クラス各20位以内、クワードクラス15位以内)となります。
3月12日に男子プロテニスツアー(ATP)、女子プロテニスツアー(WTA)が中止されて以降、これまでにBNPパリバワールドチームカップやウィンブルドン選手権などITFが主催する全88の車いすテニス大会が延期、または中止されています。また、ユニクロ・車いすテニスツアーも他のプロツアーに合わせ、少なくとも7月31日までの中断が決定しています。
ITFは先月、ATP、WTA、4大大会な国際テニス運営団体らと合同で、所属する約800人の選手の経済的支援を提供する、「選手救済プログラム(Player Relief Programme)」を立ち上げていますが、今回、発表された車いすテニス向けの基金も、それに続く支援策ということになります。
▼ITF and Grand Slams Join Forces to Support Wheelchair Tennis (2020年6月1日)
■JWRF、メンタルヘルスケアサポート事業を開始
日本車いすラグビー連盟(JWRF)は5月27日から、コロナ禍で不安やストレスを抱えるすべての連盟登録選手やスタッフを対象とする、メンタルヘルスケアサポート事業をスタートさせました。病院や専門施設でのカウンセリング費用について、1人当たり1回まで1万円を上限に支給するというものです。
車いすラグビー選手のなかには障がいにより呼吸機能が弱く、コロナウイルスに感染すれば重症化のリスクが高い選手もいます。緊急事態宣言は全面解除されましたが、ウイルス感染の終息は見えないため、日本代表の活動もまだ停止しています。選手は感染の不安に加え、満足な練習ができないストレスも抱えています。また、スタッフには医療従事者も多く、心身両面の疲労なども見られるそうです。
今回発表されたメンタルヘルスサポート事業は、安心した生活を送ることで競技に集中し、楽しむ環境を整えることを目的としています。支援対象期間は7月31日までですが、状況によっては延長も検討するとしています。
▼メンタルヘルスケアサポート事業開始(2020年6月3日)
■JPSA、練習再開に向けた指針など発表
日本障がい者スポーツ協会(JPSA)は5月29日、緊急事態宣言の全面解除を受けて各競技団体が活動を再開させる際の指針となる、「障がい者アスリートのための新型コロナウイルス感染症予防」の指針を公式サイトで公開しました。これは、JPSAの医学委員会が日本障がい者スポーツ学会と日本リハビリテーション医学会の協力を得て作成したものです。
▼パラアスリートのための新型コロナウイルス感染症予防について (2020年5月29日)
また、6月2日には、日本パラリンピック委員会(JPC)の河合純一委員長(45)が緊急事態宣言全面解除を受け、この先徐々に練習を再開していくことになる日本のパラアスリートたちに向け、メッセージを送りました。全盲のスイマーとしてパラリンピックに1992年バルセロナ大会から2012年ロンドン大会まで6大会連続で出場した河合委員長ならではの、選手の心情に寄り添った内容となっています。
例えば、「私も選手でしたから、トレーニングが再開できるときの喜びはとても分かります。ただ、今回はこれまでにないほど長期間にわたり、トレーニングが十分に行えないという前例のないものでした。だからこそ、トレーニング再開にあたっては十分気を付けていただきたいと思います」など、けがを回避するため焦ることなく、徐々にパフォーマンスを向上させるよう呼びかけています。
さらに、「まだ、国際大会のスケジュールなどが明確になっていないことから、心配は尽きないかもしれませんが、JPC は競技団体と連携をして、これからも情報を届けていきます」とし、「新しい生活様式、新しい日常に慣れるのも時間が必要です。引き続き我々にできる形で感染しない、感染させない努力を続けていきましょう」と訴え、選手たちにエールを送っています。
▼JPC河合純一委員長からアスリートに向けてのメッセージ(全文)(2020年6月2日)
パラアスリートにとっても、「新しい日常」が本格的に始まろうとしています。新たなチャレンジが、新たな広がりに、そして成果へとつながることを期待したいと思います。
(文:星野恭子)