「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(311) 緊急事態宣言、全面解除へ。「新たな日常」への一歩、一歩
新型コロナウイルス感染拡大に伴う「緊急事態宣言」について政府は5月25日、専門家でつくる基本的対処方針等諮問委員会に継続発令中の首都圏4都県(東京、神奈川、千葉、埼玉)と北海道の解除を諮問し、了承されました。これにより全47都道府県で緊急事態宣言が正式に解除される見込みで、同日夕方には安倍晋三総理大臣の記者会見が予定され、今後の外出自粛や大規模イベントの再開に向けた基準なども示されるはずです。
例えば、京都もすでに、全面解除を想定し、休業要請の緩和などについてロードマップを発表しています。現在の「ステップ0」が「ステップ1」になれば、学校や美術館などに加え、体育館や野球場なども緩和の対象となり、無観客でのプロスポーツ大会や50人までのイベント実施も可能になるようです。
こうして日常生活が少しずつ取り戻されていくなか、これまで閉鎖されていたアスリートの練習拠点も運営が再開されていくはずです。例えば、東京都北区に建つトップアスリートの強化拠点「味の素ナショナルトレーニングセンター」は5月31日まで営業停止としていますが、緊急事態宣言解除を受けて、予定通り、あるいは再開が早まるかもしれません。
▼味の素ナショナルトレーニングセンター
(参考)昨年9月に開業し、主にパラアスリートの強化拠点として使われている、味の素ナショナルトレーニングセンター・イーストの外観。(撮影:星野恭子)
こうした動きに先駆け、国内のパラスポーツを統括する日本障がい者スポーツ協会(JSAD)は5月14日、各競技団体や各自治体の障がい者スポーツ関連団体に向けて、「スポーツイベントの再開に向けた感染拡大予防ガイドライン」などを公開しています。
▼200514スポーツイベントの再開に向けた感染拡大予防ガイドラインについて.pdf
このガイドラインは5月4日の「第 33 回新型コロナウイルス感染症対策本部」で示された方針などを受け、日本スポーツ協会との連携により作成されたもので、JSADでは各団体に対し、このガイドラインを参考に、「個々の競技特性に応じた競技別のガイドライン作成」に取り組むことを求めています。
また、「スポーツイベント開催・実施時の感染防止策」について、イベント主催者が実施すべき事項や参加者が遵守すべき事項なども例示されています。
ただし、特定警戒都道府県とそれ以外などでは置かれた状況も少し異なるため、スポーツイベントを開催する各自治体の方針に従うことが大前提であり、また新型コロナウイルス感染防止策については科学的な知見がまだ十分には集積されていないため、このガイドラインも今後、知見の集積や各地域の感染状況を踏まえ見直されることもあり得るとしています。
なお、ガイドラインの詳しい内容は下記のURLからご参照ください。
▼スポーツイベントの再開に向けた感染拡大予防ガイドライン.pdf
▼200514チェックリスト.pdf
もちろん、新型コロナウイルス感染症が終息したわけでなく、効果的な治療薬もワクチンもまだありません。あくまでも、感染防止と経済社会活動を両立しながら、「new normal=新しい日常」を少しずつ作っていくことになります。まずは、「スポーツのある日常」を取り戻す第一歩が踏み出せたという状況かと思います。
■いち早くロックダウンを解除した、オランダの今
「新しい日常」をイメージするうえで、参考になりそうな一例をご紹介します。国際パラリンピック委員会(IPC)が5月20日、公式サイトに掲載した記事からの抜粋ですが、日本よりも早くコロナ対策のロックダウンに入ったヨーロッパ諸国のなかで、オランダは最も早くロックダウン解除にこぎつけた国のひとつです。
まず、オランダ・オリンピック・パラリンピック委員会のラルフ・ファン・デル・リスト氏のリポートでは、オランダは3月15日にロックダウンに入り、政府の方針に従ってアスリートたちもナショナルトレーニングセンターなどでの練習が禁止され、自宅待機となりました。そんななか、各競技団体は所属選手たちと頻繁にコンタクトを取り続け、3月23日(日本時間24日)に東京パラリンピックの延期が決まると、まずは「安全・健康優先で」と呼びかけます。
そうして迎えた5月1日、ロックダウンがようやく解除されると、各競技団体には競技特性や選手の障害に応じた、「テーラーメイドの対応」が指示され、練習再開についても3つのルールが指示されました。そのルールとは、1)自分自身や家族に発熱など体調不良の兆候が見られれば、自宅待機、2)保健衛生の指導に従い、手洗いや消毒などの励行、3)いつでも、社会的距離(1.5m)を保つ。つまり、柔道などコンタクトスポーツは避けるなど、競技によって臨機応変に対応するなどで、競技活動における、「新しい日常(new normal)」を意識した内容となっています。
まだ、宿泊を伴う合宿は許可されていないようです。また、ボッチャの選手など公共交通機関での移動が必要な場合は感染リスクが高いので、在宅での練習を継続することを指導しています。
ただし、リスト氏は、これはあくまでオランダでの基準であって、各国の指導基準に従うことを強調しています。例えば、オランダでの奨励事項には、「マスク着用」は含まれていないそうです。
最後に、リスト氏は、「今は、(コロナ終息などのように)自分自身ではどうしようもないことに惑わされるのでなく、自らコントロールできることに集中するという考え方を持つようにしましょう」と結んでいます。
もう一人、ロックダウン解除後、東京パラリンピックに向けて練習を再開したスイマー、リサ・クルーガー選手のコメントも紹介します。リオパラリンピックの金メダリストです。
クルーガー選手によれば、パラ水泳のオランダチームは現在、首都アムステルダムから約50㎞離れた町を練習拠点としていて、現在はチームを3グループに分け、それぞれ早朝、午前、午後に分かれて練習しています。
チームメンバー10名以上に対し、プールは10レーンしかないため、「社会的距離」を保った練習環境を実現するための措置になります。まだプールの開館時間も限られているため、1チームの練習も以前は1回2時間だったところ、現在は1時間半に限られています。
他にも新たなルールが実行されています。例えば、1レーンには1選手だけ、奇数レーンと偶数レーンでスタート地点を別にする、トイレも更衣室も使用禁止、手洗いの励行など。また、トレーニングジムは以前より広い施設に移設され、同時に使用できるのは6人に限っているそうです。
クルーガー選手は、「こういう練習体制は少し違和感があるけれど、プールに戻ってこられたのは本当に嬉しいです。世界中でいち早く、競技への復帰を許された国になれたことは、信じられないくらいラッキーなことだと実感しています。他の国々にもこうした日常が一日も早く戻ることを祈っています」とコメントしています。
こうした他国の状況もヒントにしながら、「新しい日常」をつくり、慣れていく日々が日本でもスタートします。躍動する選手たちに会える日も、楽しみに待ちたいと思います。
(文:星野恭子)