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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(308) 伝統のボストンマラソンで、バーチャル車いすレースが実現!

あいかわらず、新型コロナウイルス感染症の収束は見通せませんが、不屈のパラアスリートたちは、「残されたものを最大限に生かす」「できないから、できるへ」など力強いメッセージを発し続けています。

これまでも、不安や閉塞感を吹き飛ばそうと前向きに、会員制交流サイト(SNS)やオンライン会議システムなどを利用し、世界各地のパラアスリートが連携した取り組みをいくつか紹介してきましたが、今回は、「車いすマラソン」での面白い取り組みをご紹介します。

毎年4月の第3月曜日には、アメリカで伝統のボストンマラソンが開催されていますが、今年はコロナ禍により9月開催に延期されました。でも、当初の開催日だった4月20日、オンライン会議システム「Zoom」を使った「バーチャル車いすレース」が行われたのです。発案者は昨年、史上最年少の20歳でボストンマラソン初優勝を果たしたアメリカのダニエル・ロマンチュク選手で、大会前日の19日、世界の仲間たちに向けてSNSで下記のように呼びかけました。

「オンラインでつながって、20日の米国東部時間午前9時2分から1時間18分4秒の間、一緒に走りませんか?」

この「1時間18分4秒」はボストンマラソンの車いす男子の大会記録で、2017年にリオパラリンピック金メダリスト、マルセル・フグ選手(スイス)が樹立したタイムです。レースといっても勝敗を競うものではないので、完走時刻がまちまちの「42.195㎞」でなく、走行時間を設定したのはよいアイデアですね。

この呼びかけに、世界各地から60名を超える車いすランナーが賛同。そして、計画通り、それぞれの拠点で一斉にスタート切ったのです。

車いすランナーの多くは、競技用車いすを乗せて使うトレーニング用のローラー台を自宅やガレージなどに設置し、悪天候など屋外を走れないときでも練習ができるように工夫しています。自転車選手の屋内練習用ローラー台と同様です。そのローラー台とZoomシステムを使い、このバーチャルレースが実現しました。

この「バーチャルレース」を紹介した国際パラリンピック委員会(IPC)公式サイトのリポートによれば、ロマンチュク選手がこのレースを思い立ったのは、「いろいろ複雑な思いはあるが、(本来、ボストンマラソンが行われるはずだった)この日への集中力を保ち、あるべき一日を過ごしたかった」からだそうです。

この呼びかけに応じ、ボストン3勝のフグ選手(スイス)や、女子の部で過去5勝を挙げているタチアナ・マクファーデン選手(アメリカ)、世界記録保持者で現世界女王のマニュエラ・シャー選手(スイス)ら世界トップランナーから、次世代の若手選手まで多彩な顔触れがそろいました。

日本からは例えば、男子の日本記録保持者の洞ノ上浩太選手が参加。日本時間でのスタート時間にあたる20日の22時すぎに漕ぎだし、1時間18分4秒を平均時速24.8km/hで 走り、32.37kmを走破。「フォーム矯正中で全く距離を乗っていなかったので、めちゃくちゃキツかった。しかし、みんなの元気な姿が見れて良かった」と、自身のSNSに感想を投稿しています。

IPCの記事によれば、レースが終了し、Zoomのシステムも閉じられる直前に、参加者から「また、やりましょう!」というコメントも寄せられたようです。「リアルで走れなくても、オンライン上で走れる」ことを実現したユニークなレース。今年で124回目を迎えたボストンマラソンにまた新たな歴史が一つ刻まれました。

ロマンチュク選手は大会が延期されるという前代未聞の事態を経験し、「計画を立てても、変更されるかもしれない。だから、柔軟に対応できるように備えておくことが必要だと学んだ」ともコメントしています。

困難に直面しても創意工夫によって新たな希望も生まれます。パラアスリートたちの挑戦からさまざまなヒントも見つけながら、この事態を前向きに乗り切っていければと思います。

(文:星野恭子)