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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(307) “新”東京2020大会に向けた新体制が発足。パラスポーツ界にはポジティブな取り組みも

今号も新型コロナウイルス感染症の影響を受けた内容になりますが、東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けた「前進」と、パラスポーツ界に見られる「ポジティブな動き」をピックアップしました。

■東京2020情報アップデート
新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を受け、来夏へと開催が延期された、東京2020オリンピック・パラリンピック大会ですが、4月16日には国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会が、準備状況を確認する「エグゼクティブプロジェクトレビュー」を電話会議の形で実施しました。

まず発表されたのは、来年7月23日に設定されたオリンピックの新開幕日に向けた「ジョイント・ステアリング・コミッティー」の設立です。IOCと組織委の連携による運営委員会で、IOCのコーツ調整委員長、クリストファー・デュビ五輪統括部長、組織委の森会長、武藤事務総長の4人がメンバーで、さらに同コミッティーをサポートする部署として、IOC側には「Here we go」が、組織委側には「新たな出発本部」というタスクフォース(作業部会)も設けられています。

さらに、大会日程については、当初の大会運営計画で調整された、「会場と競技スケジュールをそのまま21年も踏襲することが望ましい」として、既存の会場や施設を今年と同様の日程で押さえる方針が確認されました。

会議終了後、IOCのコーツ調整委員長は、「本日示された原則によって、我々は相互協力の精神を継続し、残された多くの課題に可能な限り効率的な方法で対応していくことができる。東京2020 大会は、このような混迷の時代において世界中の希望の光であり、オリンピックの聖火は現在世界が直面しているトンネルの先にある光となりうると信じる。ジョイント・ステアリング・コミッティーは、その実現のために全力を尽くす」と決意表明。

組織委の森会長もまた、「26 日には『新たな出発本部』を立ち上げ、前例のないこのチャレンジを乗り越えるための体制作りを進めてきた。本日の合意は5 年、6 年かけて準備してきたものを、今後1 年で推し進める上では重要な成果と考えている。引き続き、全ての関係者の皆さまと緊密に連携し、大会開催に向けて尽力したい」とのコメントを発表しています。

東京パラリンピックも来年8月24日開幕に延期されていますが、当初の日程と会場を踏襲した形になるとみられます。この電話会議後、国際パラリンピック委員会(IPC)も、「新型コロナウイルス関連情報」を更新しています。例えば、東京パラリンピックに関する「クラス分け」について、選考会等の大会と付随した「クラス分け」の機会の再開状況に応じて、適用可能な範囲の解決策を検討中であり、今後数週間以内に指針と出場要件の提案事項などを発表するとしています。

選手の障害の種類や程度による「クラス分け」は公平な競技を行うためのパラリンピックの根幹をなし、東京大会の出場資格にも関わる重要事項であることから、多くの大会が中止・延期され「クラス分け」の機会も失われている今、選手や関係者に大きな不安を与えています。

まだ感染症拡大の収束が見えないなか、どこまで踏み込んだ内容となるかは分かりませんが、選手や関係者の大きな懸念事項の一つなので、今後の発表に注目したいと思います。

▼IPCによる情報ページ(4月16日更新)
https://www.paralympic.org/news/information-para-athletes-and-ipc-members-covid-19

■新型コロナウイルスに負けない!パラスポーツ界もポジティブに反応

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、ほぼすべての大会は中止され、日々の練習さえ、ままならない状況ではありますが、パラスポーツに関わる皆が一丸となり、この困難に立ち向かおうとする動きも起こっています。

例えば、多くの選手がSNSを通じてメッセージを発信したり、屋内でのトレーニングメニューを公開したり、さまざまな動きが見られます。そんななかから、ほんの一例ですが、ご紹介します。

▼パラ陸上選手からのメッセージ(4月13日~)
義足のロングジャンパー中西麻耶選手が世界各地の陸上選手と「メッセージ」をリレーした動画をSNS(フェイスブック)上でシェアしました。「東京2020大会で集う前にワンチームとなって、まずは新型コロナウイルスとの闘いに勝ち、健康と安全と自由を手にしよう!」という力強いメッセージで、「リレーのバトン」には陸上シューズのスパイクピンを取り付けるときに使う「ハンドル」が使われています。オンライン上で、どんな風に「メッセージ」がリレーされているのか、パラアスリートの肉体美とともに、ぜひご覧ください。
https://www.facebook.com/maya.nakanishi.58/videos/10214485576207460/

▼日本パラリンピック委員会(JPC)と日本オリンピック委員会(IOC)の両アスリート委員会連携によるプロジェクト(4月17日~)
SNSによるアスリートのメッセージに、「#いまスポーツにできること」というハッシュタグをつけて発信することにより、「スポーツ界の一員として一緒に取り組もう」というプロジェクトです。

JPCアスリート委員会の大日方邦子委員長は、「スポーツは平和で安心な社会の上で成り立つことを改めて感じています。日頃多くの方から応援を受けているアスリートたちが力を合わせ、感謝と応援の気持ち、自分たちにできる取り組みを伝えていきたいと思います」とアスリートに呼びかけています。

発信する内容として主に、以下の3つを挙げています。
① Thanks:最前線の医療関係者、社会生活を支える方々
への感謝&応援
② Stayhome:感染拡大防止の取り組みを呼びかけるメッセージ
③ Stayhealthy:家でも楽しめるトレーニング、食事(栄養)、リフレッシュ、競技雑学など

▼「視覚障がい者ならどなたでも!おたすけ電話相談窓口」(4月18日~)
日本ブラインドサッカー協会が始めた新サービスで、ブラインドサッカー関係者に限らず、視覚に障害がある人や家族・同居人などを広く対象とし、専用の番号(050-3627-5015)に電話で問い合わせると、72時間以内に何らかの回答を提供・提案してくれるというサービスです。

「外出自粛が続いて、視覚障がいのある子どもが自宅にいて運動不足になり、困っている」「情報が日々、変化してよくわからない。自治体に電話をしてもつながりにくくて困っている」など、スポーツに限らず、日常生活上の困りごとの相談も受け付けているそうです。

視覚障害者を対象とする競技、ブラインドサッカーの普及に努める同協会ならではのサービスで、日ごろの活動で培ったネットワークなどを活用した画期的な取り組みです。新型コロナウイルス感染拡大の影響などで外出がしにくく、情報も得にくい視覚障害者にとって心強いサービスではないでしょうか。

対応時間は、10:00〜12:30/14:00〜16:30(平日・土日 ※祝日は除く)。その他、注意事項など詳細は下記をご確認ください。
http://www.b-soccer.jp/13326/news/20200417.html

感染症との闘いにまだ終わりは見えませんが、障害の有無や競技の違い、国境や言葉の壁をも乗り越えられる、「スポーツの力」を改めて感じています。「いま、自分にできること」はとにかく、最前線に立つ医療従事者の皆さんなどに#Thanksの思いを示しながら、#StayHomeで人との接触を避けること。これが一日も早くウイルスを封じ込め、# Stayhealthyで思いきりスポーツを楽しめる日常を取り戻すことにつながると信じています。

こちらのコラムでも、日々さまざま発信される東京パラリンピックやパラスポーツ関連のニュースからいくつかをピックアップし、コンパクトにまとめながら、「今」をお伝えしていきたいと思っています。
(文:星野恭子)