「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(304) 東京2020大会延期に、パラスポーツ界も即座に反応
3月24日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京2020オリンピック・パラリンピックの延期が決まりました。この決定を受け、国際パラリンピック委員会(IPC)をはじめ、日本障がい者スポーツ協会・日本パラリンピック委員会があいついで、コメントを発表しました。
また、東京大会日本代表チームに候補選手を推薦する日本の競技団体も、選手選考を兼ねた大会の中止や延期などの対応を発表。あるいは、3月24日時点で推薦内定を得ていた全46選手の処遇についても徐々に発表され始めています。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)も、国内事情をふまえた「アンチ・ドーピングにおける新型コロナウイルス対応に関するQ&A」を公開しています。
主な動きをピックアップしました。
■3月24日
【国際パラリンピック委員会(IPC):アンドリュー・パーソンズ会長のコメント(要約)】
東京 2020 大会の延期は、まぎれもなく正しい判断です。人々の健康と幸福はいつでも最優先事項でなければならず、パンデミックのなかではいかなるスポーツ大会も絶対に開くことはできない。今、重要なのはスポーツではなく、人命の保護であり、ウイルス感染拡大を止めることである。新型コロナウイルスの猛威は今、世界のほぼすべての地域に及び、感染者数はここ10日間で約5倍となる、37万5000人にものぼっている。
世界各地で、職場や商店が閉鎖され、自宅待機を要請されるなど都市封鎖まで行われている今、東京大会を予定通り開くという夢の実現にこだわるのは意味がない。延期のみが合理的な選択肢だ。延期の決定により、選手を含むパラリンピック・ムーブメントに関わる我々はそれぞれ、この予測不能な事態のなか、自身の健康と幸福、安全でいることに集中できる。
来年、開かれる東京パラリンピックは皆が再び一つになり、我々人類の壮大な祝祭となるだろう。
【チェルシー・ゴッテルIPCアスリート評議会会長のコメント(要約)】
選手目線の立場から、延期は選手や東京大会、そしてパラリンピック・ムーブメントにとって正しい判断だ。東京大会がいつ開催されるのか、より明確になったことは世界各地のパラアスリートにとって喜ばしいニュースだ。
IOC会長と日本の首相が迅速に判断されたことを嬉しく思う。おかげで、選手たちは現在おかれている状況に落ち着いて集中することができる。どんな選も準備万全でない中で、パラリンピックはもちろん、重要な大会に出場することを望まない。しかし、新型コロナウイルスが猛威を奮う今、世界各地の多くの選手たちが練習もままならず、大会にも出場できないという状況にある。
延期が決定された今こそ、パラアスリートたちは一つになり、互いに助け合い、この困難に立ち向かうことが大切だ。さらに、予測不能な事態の中で、安全を保つために適切な対策を講じるよう、人々に働きかけるために、アスリートと言う社会に影響を与えることができる立場を活用しよう。
▼IPCコメント(原文)
■3月25日
【日本障がい者スポーツ協会・日本パラリンピック委員会:鳥原光憲会長のコメント】
今回の延期の方針決定は、まさに大英断だと思う。延期は多くの困難に直面するが、みんなの協力でこれを乗り越えて完全な大会を実現すれば、より大きなレガシーの創造に繋がる。JPCとしても組織委員会等と歩調を合わせ、競技団体やアスリートと一層連携をはかり、大会の成功に向けて全力を挙げて取り組む決意である。
<選手のコメント>
■3月24日
【「Power of Sports~乗り越えよう、スポーツの力で」プロジェクト】
延期決定の発表よりも前に、車いすラグビーの三阪洋行さんの呼びかけで日本のアスリートたちが熱いメッセージをリレーしています。
車いすラグビー:三阪洋行さん/パラカヌー:瀬立モニカ選手/パラ卓球:岩渕幸洋選手/車いすバスケとボール:根木慎志さん/パラパワーリフティング:三浦浩選手/パラ陸上:花岡伸和さん&手話通訳士:橋本一郎さん/パラテコンドー:太田渉子選手/パラ陸上:鈴木徹/車いすラグビー:庄子健選手/ラグビー:廣瀬俊朗さん
▼日本のパラアスリートからのメッセージ (音量注意)
【世界のパラアスリート】
東京大会の約1年の延期決定について、世界のパラアスリートたちの多くも支持をSNSなどで表明しています。
例えば、2016年リオパラリンピックで金メダル3個を獲得したアメリカのスイマー、マッキージー・コーン選手はインスタグラムでコメントしています。
「はじめに、延期は聞くのも話すのもとても厳しい言葉でした。でも、世界で起きている状況を見て、私たちはこの決定が前に進むための唯一の方法だと理解しなければなりません。私はIOCとIPCが下した約1年の延期という決定を完全に支持します。夢をかなえる旅は少し変わってしまったけれど、夢そのものは変わっていません。私たちは一致団結して前に進み、2021年の東京ではより強くなっていましょう。私たち選手の姿は世界を明るくできるはずです。その日が来るまで、安全を保ち、夢を見続けましょう」
他にも、ブラジル、イギリス、アメリカ、イタリアなどから、パラアスリートたちがコメントを寄せています。
▼世界のパラアスリートのコメント(英文)
<内定選手の処遇について>
東京大会の延期が発表された3月24日以前に、東京パラリンピック日本代表への推薦内定を得ていた全46選手(10競技)のうち、カヌー、陸上競技、水泳の3競技の全18選手について、各競技を統括する国際団体が出場資格および出場枠の割り当て方法について現時点で公表している内容から大幅に変更しない限り、「内定を維持」する方針が発表されました。
なお、パラリンピックの日本代表選手は、各競技団体が選考した選手をJPC(日本パラリンピック委員会) へ推薦し、JPCが審査・承認するというプロセスで決定されます。
■3 月 26 日
【日本パラ陸上競技連盟】
増田明美会長名で、「選手の皆さんへ」というリリースを発表し、世界パラ陸連(WPA)が大幅な方針変更をしない限り、「WPA マラソン世界選手権 T54 車いすマラソンの部(2019 年 4 月)及びドバイ世界パラ陸上(2019 年 11 月)で内定を獲得した(全14)選手は、原則そのまま内定選手としてJPC へ推薦したい」といった意向を発表。
増田会長はリリースの最後に、「新型コロナウイルスの影響で大会の中止が相次ぎ、練習スケジュールも大幅な変更を余儀なくされていると思います。調整力も競技力のうちです。今できることをしっかりと行い、目標に向かって進んでいきましょう」と選手たちに呼びかけました。
【日本障害者カヌー協会】
吉田義朗会長名で、ICF(国際カヌー連盟)が方針を大幅に変更しない限り、2019 年世界選手権大会で内定を獲得した選手(1名)は、原則そのまま内定選手として JPCへ推薦したいと発表。
また、また、IPC(国際パラリンピック委員会)及び ICF から新たな方針が出された時点で、今後の代表推薦選手の選考方法を発表する予定であることにも発表されました。
■3月29日
【日本身体障がい者水泳連盟/日本知的障害者水泳連盟】
両団体がそれぞれ、同様の内容でリリースを発表。昨年の世界選手権を制した3選手に出した東京パラリンピック代表の内定を維持すること。そして、今後予定される代表選考会(開催時期未定)に出場すれば、日本パラリンピック委員会(JPC)に代表として推薦することを発表しました。
<日本アンチ・ドーピング機構(JADA)>
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)がWADAアスリート委員会と協議を経て取りまとめたQ&A(よくある質問)を3月23日付で公開したことを踏まえ、JADAは国内事情をふまえた「アンチ・ドーピングにおける新型コロナウイルス対応に関するQ&A」を3月26日、公開しました。
パラアスリートは障害の内容や程度もさまざまで、また、年齢の高い選手や進行性の病を抱えている選手も少なくありません。東京大会延期の影響もさまざまな考えられますが、延期の決定は世界情勢を踏まえた苦渋のものだったはずです。マッケンジー・コーン選手のコメントのように、選手の皆さんには前向きに受け止め、今できることに立ち向かってほしいですし、そんな姿をこれからも応援していきたいと思います。
(文:星野恭子)