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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(301) 国際パラリンピック委員会、「東京パラは予定通り開催で準備中」などを発表

新型コロナウイルスの感染拡大という事態によりパラスポーツも大きな影響を受け、国内外の大会が中止、または延期などの対応に追われています。前号で、「3月開催の主な大会・イベントの中止情報」(https://op-ed.jp/sports/4841)をお届けしましたが、開幕まで半年を切った東京パラリンピックに向け、代表選考に関わる大会や貴重な強化大会も影響は必至です。

例えば、前号では<対応検討中>だった「車いすラグビーのジャパンパラ競技大会」も主催する日本障がい者スポーツ協会から3月5日に「開催中止」が発表され、チケットの払い戻しも始まりました。この大会は世界トップ4が顔を揃えるなかで日本代表の強化とともに、本番会場(国立代々木競技場)でのテスト大会も兼ねていました。選手やスタッフにとって、貴重な「地の利」を生かす機会が失われました。

「東京パラは、いったいどうなるのだろう」――そんな不安が広がるなか、国際パラリンピック委員会(IPC)は3月5日、「新型コロナウイルスに関して、パラアスリートとIPC加盟国、国際競技団体らに向けた情報」を発表しました。その中には、「東京パラは予定通り8月25日の開幕に向け、準備も順調に進んでいる」ことが書かれています。

さらにIPCは、世界保健機関(WHO)や国際オリンピック委員会(IOC)と連携しながら新型コロナウイルスの影響などに注視していること。さらには、大会中止等を受けて各競技の国際統括団体とも連携しながら東京パラの選考条件見直しの検討などにも言及しています。

そのうえで、選手たちや関係者たちに対し、WHOの発表など情報収集に努めながら、「8月25日に東京・国立競技場で行われる東京パラ開会式に向けてトレーニングをつづけ、ワクワク感を高めてほしい」と呼びかける内容になっています。

▼“Information for Para athletes and IPC members regarding coronavirus”
(IPC/2020年3月5日付)
https://www.paralympic.org/news/information-para-athletes-and-ipc-members-regarding-coronavirus

実際、3月4日からカナダで行われている「車いすラグビーの世界最終予選大会」では「残り2枚の出場切符」をかけ、当初8カ国が参加予定でしたが、直前にタイ代表が出場を辞退したため、「できるだけ公平な方法」が模索され、結局7チーム総当たり戦での試合形式に変更されました。

個人競技の場合は、競技ごとに設定された「期日時点での世界ランキング」によって出場枠が与えられる方法が大半です。ランキングに関わる大会が中止や延期を余儀なくされているなか、こちらも期日や選考方法に今後、変更が加えられるかもしれません。

もう一つ、国際大会中止によって大きなデメリットを受ける状況があります。「クラス分けの機会」です。「クラス分け」は公平な競技を行うためのパラスポーツの「肝」であり、パラリンピックなど国際公式大会に出場するには、選手はIPCが資格を与えた専門家(クラシファイヤー)による「国際クラス分け」の審査を必ず受けなければなりません。初参加の選手だけでなく、障害の状態が完全に確定(状態の変化がこれ以上ない)した選手以外は定期的に検査を受けつづけなければなりません。こうして「競技の公平性」が保たれています。

ただし、クラシファイヤーの派遣費用や設備の問題等もあり、この「クラス分けの機会」は一部の国際大会に限られているのが現状で、クラス分け実施予定だった多くの大会が中止されている今、「クラス分け」を受ける機会も失われています。つまり、パラリンピック出場への絶対条件である、「クラス」を得られず困っている選手も多く、数少ないクラス分けの機会を求め、出場する大会や渡航計画を急遽、練りなおしている選手も少なくありません。

また、オリンピックに比べて認知度が低く、PRがまだまだ必要なパラリンピックにとって、認知度アップの最高の機会である東京パラを控えたこの時期に大会やイベントの機会を失うのは大きな痛手です。残念としか言いようがありません。

このように影響はさまざまに広がっていますが、IPCの文書にもあるように、今は現状を受け止め健康や安全の維持を最優先させながら、日々変化する状況に敏感に、かつ冷静に対応し、練習やできる準備を進めることが現時点での最善策なのだろうと思います。そんな選手たちを変わらずに応援したいと思います。

日本国内でも、大会に向けた準備は着々と進められています。2月21日には、日本選手団が表彰式などで着用する公式スポーツウエアが東京都内で公開されました。開発したのは大会スポンサーのアシックスで、「JAPONISM(ジャポニズム」をコンセプトに、メインカラーには朝日が昇る力強さをイメージした鮮やかな「サンライズレッド」が採用されています。1着ごとに柄の位置が異なるなど多様性も表現された凝ったデザインにもなっています。
東京2020大会公式スポーツウエアの発表記者会見でポーズをとる選手たち。前列左から、素根輝選手(柔道)、森ひかる選手(トランポリン)、乾友紀子選手(アーティスティックスイミング)、中町俊耶選手(車いすラグビー)、倉橋香衣選手(車いすラグビー)、秦由加子選手(パラトライアスロン)。後列左から、鈴木徹選手(パラ陸上競技)、楢崎智亜選手(スポーツクライミング)、中山由起枝選手(クレー射撃)、山本篤選手(パラ陸上競技)、竹井幸智恵選手(シッティングバレー)、川嶋悠太選手(ゴールボール)、服部勇馬選手(陸上競技)。 
(撮影:星野恭子)

この発表会見はオリンピックとパラリンピックが合同で行われました。選手たちも混ざり合って並び、笑顔を見せているように、「オリパラ一体」をうたう東京2020大会はパラリンピックのPRにも重要な機会です。事態の早期収束を願いながら、こうしてパラスポーツの情報発信を続けるなど、今できることを行っていきたいと思います。

(文・写真:星野恭子)