松井秀喜引退の理由をスポーツジャーナリズムはどう捉えるのか?(玉木 正之)
12月28日早朝、メジャーリーガーの松井秀喜が、日本時間午前7時からニューヨークでプロ野球選手としての現役引退記者会見を開いた。
そのなかで最も印象に残ったのは、アメリカでは「死ぬ気でプレイしようと思っていた」という言葉だった。事実、そのとおりの見事な活躍で、それだけに大きなケガにも見舞われたわけで……。ともかく、御苦労様でした。
高校時代からの素晴らしいバッターが、03年という象徴的な年(サッカーW杯日韓大会の翌年)に渡米。長嶋茂雄氏が朝日新聞(!)に「キミだけはアメリカへ行かないで!」と書いた声を振り切ってメジャー入り。アメリカでも見事なスラッガーぶりを発揮したが、日本のプロ野球は、その後、何事もなかったかのように「メジャーの下部組織」に「安住」。
これだけの大打者が日米通算507ホーマーに終わったのは残念というほかないが 日本のプロ野球界は、彼を取り戻せなかった理由を、考え直すべきだろう。
そういえば、甲子園での高校野球の試合で、超高校級選手の松井が相手投手から「5打席連続敬遠」という「愚行」で対応されたときも、マスメディアは、その是非を侃々諤々(楽しく?)「論争」するばかりで、その「作戦」がけっして高校生の考えたものではなく、試合に勝ちたかった大人の監督が命令したものだった、という単純明解な事実にすら辿り着けなかった(もちろん「大人の監督」をその後どうしたら高校生のためになるか……ということも話し合われなかった)。
ならば、今回の松井の現役引退についても、日本のプロ野球界もスポーツ・ジャーナリズムも、マスメディア(読売新聞)がいつまでも運営の中心に位置していてもいいものかどうか……という根本的反省にはなかなか辿り着けないだろう……。
日本の野球は何処へ行く? いや何処へ行くべきか? 何処を目指すべきか? 少し落ち着いたら松井秀喜さんに是非とも訊いてみたい。
最後に、松井秀喜選手に関するエピソードを一つ。
日米の関係を野球から論じたジャーナリストのロバート・ホワイティング氏が松井秀喜にインタヴューしたときのことだった。「背番号55には、どういう意味があるの?」と訊いたホワイティング氏に対して、松井は、「現役時代の王選手のシーズン55本の記録を目標に……」と答えた。するとホワイティング氏は、「そうだろうと思ったけど、だったら、どうして56にしなかったの?」……
この質問には、松井も、目を白黒させて、「考えたこともなかったです」と答えたという。彼も、日本人らしい日本人だった……?
【玉木正之のホームページCamerata di Tamakiの『ナンヤラカンヤラ』12月28日を改編】