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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(296) 別大マラソン視覚障害の部で、二つの世界新記録が誕生!

    2月2日に開かれた第69回別府大分毎日マラソン大会の視覚障害選手の部の女子で、二つの世界新記録が生まれました。ひとつはT12(重度弱視)クラスで、リオ・パラリンピック銀メダリストの道下美里選手(43/三井住友海上)が、自らが持つ世界記録を1分52秒更新する2時間54分22秒をマークし、優勝も果たしました。視覚障害のクラスはT11(全盲)、T12(重度弱視)、T13(軽度弱視)の3クラスに分かれています。
視覚障害者女子マラソンで、T12(強度弱視)クラスの世界記録を自ら塗り替え、フィニッシュする道下美里選手(左)と後半の伴走者、志田淳さん。前半は青山由佳さんが担当(撮影:吉村もと)

道下選手は、「ずっと(記録更新を)目指してきたので、ほっとしました。支えてくれる皆さんと、全員で作った記録」と笑顔を弾けさせました。
世界新記録2時間54分22秒のタイム表示の横で、笑顔を輝かせる道下美里選手と志田淳ガイド(撮影:星野恭子)

角膜の難病で、中学2年生で右目を失明し、左目も25歳のときに視力をほぼ失った道下選手は、盲学校で走る楽しさを知り、2008年に初マラソンを完走。その後、どんどんタイムを伸ばし、日本ブラインドマラソン協会(JBMA)の強化指定選手にも選ばれ、視覚障害の女子マラソンが初めて採用された16年リオ・パラリンピックで銀メダルを獲得しました。

昨年4月のマラソン世界選手権(ロンドン)優勝で出場枠を勝ち取り、東京パラリンピックの出場もほぼ内定しています。目標とする金メダルに向け、ライバル勢をけん制する意味でも大きな弾みとなりました。「この時期に(記録を)出せたのは大きい。(東京パラでは)もう少し攻める走りをしたい。もっと進化した自分を見せたい」とさらなる進化を誓っていました。
世界新記録後の記者会見で、記者の質問に答える道下美里選手。右奥は指導する、日本ブラインドマラソン協会の安田亨平コーチ (撮影:吉村もと)

もうひとつは、T11(全盲)クラスで、井内菜津美選手(30/みずほフィナンシャルグループ)が自己ベストを10分以上も縮める快走で3時間12分55秒をマークし、他の選手が持っていた日本記録を4分25秒上回り、さらに世界記録も20秒更新しました。

生まれつき全盲で光を感じる程度の視力しかない井内選手がマラソンに本格的に始めたのは16年で、19年夏に転職して練習環境が充実したことが急成長につながったと振り返りました。
T11(全盲)クラス女子の世界新記録3時間12分55秒でフィニッシュした、井内菜津美選手(左)と後半の伴走を務めた、鈴木洋平さん (撮影:吉村もと)

世界記録については、「全く意識していなかったので、びっくりしました」と無心での快挙だったことを笑顔で話した井内選手。T11と12が統合して行われる東京パラリンピックのマラソン代表選考会を兼ねて行われた今大会でしたが、4位に終わり、マラソンでの出場内定には届きませんでした。

それでも、「トラック種目(1500m)の選考はまだ残っています。いい記録を出して、東京大会出場を決めたいです」と前を向き、意気込みを口にしました。

なお、東京パラリンピックのマラソンは大会最終日の9月6日(日)に、東京のコースで行われます。視覚障害男女の他、車いす男女と上肢障害男子の計5種目で、午前6時半スタートが予定されています。
(文・取材:星野恭子)