「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(293) パラ水泳のレジェンド、河合純一氏がJPC新委員長に就任。「東京パラを、史上最高の大会に」
パラリンピックイヤー、2020年の幕開けとともに、日本のパラスポーツ界に新たな、そして大きな一歩となる動きがありました。日本パラリンピック委員会(JPC)の新委員長に1月1日付で、パラリンピック水泳のメダリスト、河合純一氏が就任したのです。パラアスリート経験のある委員長は初めてです。
JPCは日本障がい者スポーツ協会(1965年創設)の内部組織で、主に競技普及や選手強化を担う部署として、長野パラリンピック後の1999年に発足した部署です。
10日に就任会見が行われ、河合委員長は、東京パラリンピックを目前にした抱負として、「多くの人が注目する舞台であり、世界中のパラアスリートが最高の舞台で最高のパフォーマンスを発揮できるような環境を作ること。そして、JPCが掲げる会場を満員にする『フルスタジアム』と日本選手団の大活躍という『全員が自己ベスト』の目標をしっかりと実現することが与えられた使命だと思っている」と力強く語りました。
1月1日付で就任した、日本パラリンピック委員会の河合純一新委員長。初のパラアスリート経験者として、「アスリートの声を活かした組織に」 (写真提供:MAスポーツ)
1975年生まれ、44歳の河合氏は目の病気のため生まれつき左目の視力がなく右目も弱視でしたが、5歳から水泳を始めます。15歳で全盲となったのちも水泳を続け、パラリンピックには高校2年生だった1992年のバルセロナ大会から社会人時代の2012年ロンドン大会までパラリンピック6大会に出場し、金5個を含む全21個のメダルを獲得したパラリンピアンです。21個は日本人最多です。
現役中から、幼い頃からの夢だった教師になったり、日本パラリンピアンズ協会を立ち上げたり、日本身体障がい者水泳連盟会長などを歴任。現役引退後は日本スポーツ振興センターにも勤務するなど、さまざまな立場からパラスポーツの普及・発展に努めてきました。日本人選手としてただ一人、国際パラリンピック委員会の殿堂入りも果たしています。
河合委員長は、「アスリートセンタードの体制構築」も目標の一つに掲げます。最近よく耳にする、「アスリートファースト」でなく、選手を中心に据えた「センタード」です。「練習の苦しさや代表選考の厳しさなど、私自身のさまざまな経験や活動を活かして、これまで以上にアスリートの希望や夢の実現につながる組織づくりの取り組みたい」と言います。
もう一つ、「パラスポーツは東京大会で終るわけでなく、(東京大会は)あくまでも通過点」と言い、長期的な視点で、日本障がい者スポーツ協会が掲げる2030年に向けたビジョンである、「活力ある共生社会の実現」にも取り組みたいと話します。
共生社会とは一般的に、「年齢や国籍、障害の有無などに関わらず、誰もが暮らしやすい社会」「個性や多様性を認め、尊重し合う社会」などと言われます。 自身が考える共生社会の理想は、「ミックスジュースでなく、フルーツポンチ」。すりつぶしたジュースでなく、それぞれの形や味わいなど、具の個性が見える形で一皿に盛られているフルーツポンチです。ただ混ざり合い、「共に生きる社会」ではなく、「互いの良さを生かし合える社会」だと河合氏は説明します。
分かりやすい例えだと思いませんか? 実は私が数年前にインタビューしたときもこの例えをお話しされました。当時も、ストンと腑に落ちる表現だなと感心したものですが、この思いをずっとブラさず、目標に向かってアクティブに進み続ける姿に、「何かやってくれそうな期待感」を抱かずにはいられません。
JPCの井田朋宏事務局長も河合氏抜擢の理由に、共生社会の実現は多様性の受容であり、JPC自体が多様性を受けいれることが重要と考えたことを挙げ、「河合委員長の持つ豊富な経験とフレッシュな発想に、これまでJPCが積み上げてきたものを融合させて、目指すべきビジョンを達成したい。それは、2020大会が終わってからでは遅く、今、このタイミングだからこそ、よりよいビジョンを構築できるのではないか」と、新委員長の活躍に大きな期待を寄せていました。
2020年大会の開催が決まって以降、とりわけパラリンピックは一気に注目を集め、スポンサー企業も増え、大会やイベントも増えました。喜ばしい一方で、「パラバブル」とも言われるほどの活況に、以前から、「2020年以降」について懸念や不安の声が上がっているのも事実です。
「2020年大会が、日本のパラスポーツの歴史上、どんな位置づけになるかは5年、10年経たないと分からないかもしれない。でも、東京パラリンピックがあったからこそ、日本は変わったし、世界を変えられたのではないかと思われたい」と話し、今後の開催都市から目標とされるような、「東京大会を史上最高の大会にすることが我々に求められていることだと思う」
アスリート目線で先を見据えている河合新委員長の手腕に、大いに期待するとともに、応援したいと思っています。
(文・取材:星野恭子)