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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(290) ゴールボール日本女子が「アジア女王」に。男子も銅メダル獲得!

12月5日から10日にかけて、視覚障害者の球技、ゴールボールの国際大会、「2019IBSAゴールボールアジアパシフィック選手権大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で行われました。2年に1度男女別にアジアパシフィック地域のチャンピオンを決める大会で、今年は特に東京パラリンピック出場にもつながる重要な大会でした。

試合は男女別に総当たり戦による予選ラウンドの上位4チームが決勝トーナメントに進む方式で行われ、最終日の10日にそれぞれ決勝戦と3位決定戦が実施されました。日本は女子が金メダル、男子が銅メダルを獲得しました。なお、日本は男女とも開催国枠での東京パラ出場を決めており、今大会で優勝した男子中国チームと、女子2位の中国女子チームがそれぞれアジアパシフィック地域枠での東京パラ出場を決めました。
決勝でライバル中国を2-1で下し、3大会連続で「アジア女王」となったゴールボール日本女子チーム。左から、加藤瑛美アシスタントコーチ、高橋利恵子選手、欠端瑛子選手、天摩由貴主将、小宮正江選手、萩原紀佳選手、若杉遥選手、辻美穂子エスコート、市川喬一ヘッドコーチ (撮影:星野恭子)

なお、大会は全44試合がYouTubeで生配信され、また、アーカイブ動画も公開されています。日別のハイライト動画もありますので、奥深いゴールボールの試合をぜひご覧ください。

■「アジア女王」で目指す、パラ金メダル

女子は6チームが出場。堅守を誇る日本(世界ランク4位)は予選4勝1敗で準決勝に進出。オーストラリア(同9位)を3-1で下して到達した決勝で、宿敵中国(同2位)と対決。前半開始13秒で天摩由貴キャプテンがクロスボールで中国ゴールの左サイドに決めて先制。3分すぎには欠端瑛子選手がストレートで左隅に投げ込み、2点をリードします。

しかし、前半残り3分20秒に中国が意表をつくセンターからの速攻で1点を返します。後半は両チームとも高い集中力で息詰まる攻防を展開。反則もない引き締まったゴールボールを展開し、試合は2-1のまま終了。日本が悲願の大会3連覇を果たしました。

全7試合を戦い抜いた日本。初戦こそ、ランク外のインドネシアに10点差でコールド勝ちしたものの、予選の中国戦は0-2で敗け、勝った試合も1〜2点の僅差の試合が続きました。

でも、攻守にわたって軸となるセンターに抜擢された若手の高橋利恵子選手が大会初出場ながら、全試合フル出場で自責点ゼロ。ウィング陣もそれぞれ得意なボールで得点を挙げるなど、それぞれが役割を全うし、頂点に立ちました。
初出場ながら大会を通して落ち着いたプレーでチームを牽引したセンター高橋利恵子選手(前)と、決勝で貴重な追加点を挙げた欠端瑛子選手 (撮影:星野恭子)

市川喬一ヘッドコーチ(HC)は、「選手はよくやった」と称え、また、決勝で中国から奪った左サイドからの2点は「情報班の分析通り」と話し、「チーム一丸での勝利」を強調しました。

日本女子は2012年ロンドンパラリンピックの決勝で中国を破って金メダルに輝くも、2連覇を狙った16年リオ大会では逆に準々決勝で逆転負けを喫して以来、「打倒中国」が合言葉。目標をもった強化策で、17年のアジアパシフィック選手権、18年アジアパラゲームズ、そして今大会といずれも勝利し、アジアでは負け知らずの日本。「アジア女王」の称号ともに、東京パラリンピックでは、「金メダル奪還」を目指します。
今大会10得点で、女子の得点ランキング5位に入った若杉遥選手。狙ったコースに投げ込むコントロール力が魅力 (撮影:星野恭子)

■若さ溢れるチームがつかんだ自信と味わった悔しさ

男子は世界ランク4位の中国を筆頭に全7チームが出場。日本(同12位)は予選ラウンドを4勝2敗で乗り切り、準決勝を経て3位決定戦に臨み、韓国に11-5と圧勝して銅メダルを獲得しました。
銅メダルを手にし、東京パラリンピックに向けてさらなる進化を誓った日本男子チーム。左から、三上信雄アシスタントコーチ、工藤力也アシスタントコーチ、宮食行次選手、川嶋悠太主将、田口侑治選手、佐野優人選手、金子和也選手、山口凌河選手、江黒直樹HC (撮影:星野恭子)

3位決定戦は開始1分で韓国に2得点される苦しい序盤でしたが、タイムアウトで立ち直ると、反撃開始。レフトの金子和也選手とライトの山口凌河選手が次々とゴールを奪い、前半は6-3とリード。後半から山口選手と交代した佐野優人選手も2得点するなど日本のウィング陣が躍動しました。

江黒直樹HCは、「アジアでチャンピオンになって東京(パラ)へという夢は昨日、破れてしまったが、さらにパワーアップして強い男子チームを見せられるよう、これからしっかり積み上げたい」と、意気込みを口にしました。

今大会は20代4人、10代2人という若いメンバーで臨んだ日本男子。その伸びしろは計り知れません。江黒HCが語った「夢破れた一戦」は、きっと進化の原動力になると思います。その一戦とは、イラン(同7位)と戦った準決勝です。予選で6-10と敗れたイランへのリベンジを期して臨みましたが、結果は1-3で日本の敗戦。とはいえ、二桁得点が珍しくない男子の試合では稀な、「引き締まった好ゲーム」でした。

日本男子も開催国枠で東京パラ初出場を決めてはいるものの、「アジア王者で出場」を目標に今大会での初優勝を目指していました。センターの田口侑治選手によれば、準決勝前には「イランに勝って、(日本男子の)歴史を変えよう」と選手皆で誓いあっていたと言います。

そんな風に気合十分で始まった一戦。開始31秒で山口凌河選手がライトからレフトに移動して相手レフトに投げ込んだクロスで待望の先制点を奪います。その後は得点力あるイランの攻撃にも日本守備陣はよく耐え、前半を1-0で折り返します。

ところが、後半に入ると、攻撃のギアを上げたイランの猛攻が始まり、後半3分に1点を返されます。追加点がほしい日本も高低差のあるバウンドボールを持ち味とする宮食行次選手を投入して対抗しますが、逆に6分すぎに連続して2点を奪われました。
ライトの山口凌河選手は今大会8試合で21点を挙げ、男子得点ランク4位に入る得点力を示した (撮影:星野恭子)

試合終了後、江黒HCをはじめ、日本チームからは「悔しい」という言葉が繰り返され、かなりのショックを受けている様子が見て取れました。とはいえ、前述したように、翌日の3位決定戦ではしっかりと銅メダルを手にしました。川嶋悠太主将によれば、「今夜はとことん落ち込んで、明日、起きたときは切り替えよう」とチーム皆で実践したそうです。また、どの選手も、「チームワークの良さ」がいちばんの強みだと話していましたが、悔しい敗戦から手にした課題や手ごたえとともに、チーム競技では不可欠な「メンバー間の絆や信頼感」をさらに強めることができたのではないでしょうか。

初出場となる東京パラリンピックで世界を驚かせたいと意気込むゴールボール日本男子チームのさらなる進化と活躍も大いに期待しましょう。

なお、今大会の観客数は6日間で約8,200名を数えました。東京パラリンピックでは、ゴールボールは千葉市の幕張メッセで実施されることもあり、千葉県内の多くの小学校や中学校、高校が観戦に訪れていました。競技のPRも兼ね、体育の授業などにゴールボールを取り入れる学校も多いといい、大会でも静かに見守る時間と声援を送る時間のメリハリをつける「ゴールボール独特の観戦マナー」などもしっかりできていました。来年の本番でも、ぜひ選手たちを勇気づけてほしいです。さまざまな意味で、来年の大舞台がますます楽しみになってきました。

男子は優勝で、女子は準優勝で、東京パラリンピック出場を決めた中国チーム。男女とも高い攻撃力と堅い守備力備えた強豪だ (撮影:星野恭子)

<プレーバック!アジアパシフィック選手権大会>
【全44試合アーカイブ (日別)】
https://m.youtube.com/channel/UCBkrq1w8QCSmc7Qkm3bmvvw/videos

【デイリーハイライト (各日約2分】
https://m.youtube.com/channel/UCPbZgGY04d8YAHJW8BgxGRg/videos

(文・取材・写真:星野恭子)