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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(289) ブラインドサッカー日本代表、モロッコ代表に完敗。ぜひ、貴重な経験に!

東京パラリンピックに向けたブラインドサッカー日本代表の強化を目的とした国際親善大会、「ブラインドサッカー チャレンジカップ2019」が 12月8日、東京の町田市立総合体育館で行われ、世界ランク13位の日本は同8位のモロッコ代表と対戦し、1-5で敗戦。9カ月後に迫る初の大舞台に向けて、攻守ともに「新たな課題」が見つかった試合となりました。
モロッコから先制点を奪った、日本の川村怜主将(#10)と、闘志あふれる守備で貢献した佐々木ロベルト泉選手(#3)。(撮影:星野恭子)

試合はモロッコのキックオフ直後から激しいボール争いが展開されたなか、前半約3分に日本の川村怜主将が先制ゴールをねじ込み、日本が幸先良いスタートを切ったように見えました。でも、その9秒後にはモロッコのアブデラザク・ハッタブ主将が同点弾を返します。勢いづいたモロッコはハッタブともう一人のエース、スパイール・スニスラ選手が追加点を挙げ、前半だけで3得点。

後半に入ると、日本も粘りの守備からボールを奪い、川村主将が敵陣に攻め込むシーンも何度か見られましたが、モロッコ守備陣の素早い寄せに阻まれます。逆に、ハッタブが日本守備陣を置き去りにする高速ドリブルからの鋭いシュートで2点を追加しました。
 モロッコの5得点中4点を挙げる大活躍で大会MVPを受賞した、アブデラザク・ハッタブ主将。先天性の視覚障害があるが、幼い頃からゴールボールやサッカーに親しみ、鋭い聴覚や空間認知能力を培ったという (撮影:星野恭子)

モロッコ代表は2016年リオパラリンピック(8チーム中8位)、2018年世界選手権(16チーム中8位)など大舞台を経験し、急成長を見せる強豪で、つい先週にはブラインドサッカーのアフリカ選手権で優勝し、来年の東京パラ出場も決めています。日本とは2014年に東京で開催された世界選手権で初対戦し、0-0の引き分け。当時は、「経験の浅い若いチーム」という印象だったと記憶していますが、それから5年。スピード感、ボールさばきのテクニック、寄せの速さなど、強化がしっかり進んでいる様子がうかがえました。

一方の日本も、開催国枠で出場が決まっている東京パラに向けて、攻守にわたって懸命な強化が進められています。この日の試合も、見るからに体格の違うモロッコ選手たちを相手に、日本の選手たちは倒されても倒されても果敢に立ち向かっていました。激しいぶつかり合いにより、相当なダメージを受けている様子はピッチ外からも分かるほど。それでも立ち上がり、ボールに食らいつく姿は力強く、観客からは温かい拍手が送られていました。

とはいえ、フィジカルの違いは相当なもので、モロッコの選手たちは長い手足をフルに生かしてアグレッシブにボールを奪っていきます。川村主将は試合後、競り合いの中で、「そこから脚が出てくるのかと戸惑った」とコメント。これまでに戦ったブラジルやアルゼンチン、中国など世界トップクラスとの試合とは違う、「初めての感覚」だったようです。
ブラインドサッカーの見どころの一つ「壁際の攻防」で、川村怜主将(#10)から長い脚でボールを奪おうとするモロッコ選手たちの堅い守備 (撮影:星野恭子)

大敗を喫したとはいえ、東京パラ出場決めているモロッコはグループリーグで対戦する可能性もある相手。この時期に、個人技や守備陣形などを確認できたことは収穫だったのではないでしょうか。

ただし、一つ気になったのは日本の選手層です。フィールドプレーヤーは最大の8人が登録されていましたが、試合に出場したのは5選手のみ。ベテランエースの黒田智成選手をケガで欠く苦しい布陣だったかもしれません。また、前半から劣勢という展開で、選手交代は難しい状況だったかもしれません。

でも、パラリンピックのような長丁場の大会では、交代選手をうまく使って「チーム力」を維持することも重要でしょう。ブラインドサッカーのような激しい競技では試合途中でケガをすることも大いに考えられます。観客の入った海外勢との試合はそれほど多くはないので、今回はサブのメンバーに経験させる貴重な機会でもあり、それも「重要な強化」ではないかと感じました。また、川村主将は、「選手は仕事を抱えながら厳しい練習にも励んでいる」とコメントしていました。選手の発掘や強化は短期間では難しく、もちろんこれまでも努力はされてきたと思いますが、大舞台を前に改めて浮き彫りになった「課題」だと感じました。

さて、日本代表はこの後、来年3月に東京・品川で開かれる国際公式戦の「ワールドグランプリ」に臨む予定です。世界の強豪8カ国が顔を揃え、パラリンピックと同じフォーマット(2グループによる予選リーグからの決勝トーナメント)で行われる公式戦です。

モロッコ戦での敗戦からの学びを糧に、今一度強化体制や戦略などを見直し、「グランプリ」で状態をしっかり確認。そして、悲願の初出場となる東京パラでは選手の笑顔が見られることを期待して、これからも応援したいと思います。

ブラインドサッカーの“砂かぶり席”、「透明フェンスシート(有料)」。思わずのけぞってしまうような大迫力のプレーが間近に (撮影:星野恭子)

(文・写真:星野恭子)