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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(286) 世界パラ陸上閉幕。ベテランと若手の融合でメダル13個。東京パラに弾み!

11月7日からアラブ首長国連邦のドバイで開かれていたパラ陸上の世界選手権が15日に閉幕。日本はメダル13個(金3、銀3、銅7)を獲得し、また来年の東京パラリンピックで実施が確定している種目で4位以上に入ったことで、12選手(男子7、女子5)が代表内定を手にしました。

ベテラン勢が健在ぶりを示すとともに、20代の若い選手たちの活躍も目立ち、来年に控えた東京パラリンピック、さらにその先にも光が見えた大会となりました。ロンドン、リオとパラリンピックでの金メダル獲得がなかった日本のパラ陸上でしたが、「この3年間の強化策は間違っていなかった」と日本パラ陸上競技連盟の三井利仁理事長は評価しました。

まず、目を引くのは男子の車いすT52クラスの活躍でしょう。脚だけでなく、手にも障害のあるクラスですが、漕ぎにくさなど感じさせないスピードで疾走します。4選手が東京パラに内定しました。とくに、佐藤友祈選手(WORLD―AC)は400mと1500mで2連覇の2冠を達成し、「世界新で2冠」を掲げる東京パラに向けて大きな弾みとしました。

また、56歳の伊藤智也(バイエル薬品)はロンドンパラ後に引退するも昨年、東京目指して復帰し、今大会でメダルを3個獲得し、地力を見せつけました。また、ベテランの上与那原寛和選手(SMBC日興証券)と若い大矢勇気選手(ニッセイ・ニュークリエーション)も内定しています。オリンピックと異なり、「マルチメダリスト」の存在もパラリンピックの世界的な特徴と言えます。日本では男子T52が牽引する形となっています。

義足ジャンパーたちの活躍も光りました。女子走り幅跳びT64(下腿義足)では、ベテランの中西麻耶選手(うちのう整形外科)が最終6回目で逆転の大ジャンプを披露して金メダルを、T63(大腿義足)では20歳で世界選手権初代表の兎澤朋美選手(日本体育大)が銅メダルを獲得。T63 では前川楓選手(チームKAITEKI)も4位と健闘しました。
女子走り幅跳びT64(下腿義足)で金メダルを獲得した中西麻耶選手の豪快なジャンプ (撮影:吉村もと)



 表彰式で金メダルを手にし、笑顔の中西麻耶選手 (撮影:吉村もと)

男子T63では、37歳の山本篤(新日本住設)が腰痛を抱えながら高い集中力で3位の記録を残し、ベテランぶりを見せました。一方、男子走り高跳びでも、鈴木徹選手(SMBC日興証券)が銅メダルを獲得。また、冬季パラリンピックのスノーボード金メダルで、夏のパラで二刀流を目指す成田緑夢選手(新日本住設)も自己記録に2㎝迫る好記録を残しました。今大会での内定要件は逃したものの、悲願の東京パラ出場に向け、いい感触は得られたのではないでしょうか。
 
スプリント種目では世界の強さや進化を見せつけられた印象が強いですが、そのなかでも、急成長の22歳、佐々木真菜選手(東邦銀行)が女子400m T13(視覚障害)で4位に入りました。また、石田駆選手(愛知学院大学)は男子400mT47(上肢障害)で惜しくも5位に終わったものの、100mでも準決勝に進出し、また激戦区のT64 (下腿義足)の100mで決勝進出を果たした井谷俊介選手(SMBC日興証券)などもこれからが楽しみな活躍ぶりでした。
T47(上肢障害)の石田駆選手(愛知学院大学)は病気によるパラ転向前はインターハイでも活躍したスプリンター。左肩が動きにくく、アンバランスななかで走りを磨く (撮影:吉村もと)

また、体格のよい海外勢が優勢な投てきで、今大会日本は男子やり投げT46(上肢障害)に初出場2名を含む3選手が派遣され、3人揃って世界8位までが進める決勝に進出。結果は、6、7、8位でしたが、日ごろから3選手で合宿を行い、切磋琢磨した結果が実り、しっかりと爪痕を残す戦いぶりだったといえるでしょう。
自己ベストも更新し、一時は世界4位に立った高橋峻也選手(日本福祉大学)。競技歴は浅いが、右肩はまひがあり、左手1本での投てき技術を身につけ、さらなる成長が期待される (撮影:吉村もと)

視覚障害クラスの中長距離では、初代表の26歳、唐澤剣也選手(群馬県社会福祉事業団)が5000mで銅メダル、ベテランの和田伸也選手(長瀬産業)が自己ベストでの1500m4位で、ともに東京パラ内定を決めました。夏の暑い時期にも、日本ブラインドマラソン協会主催の強化合宿などで暑熱対策も施しながらの地道な強化が実りました。
5000mで銅メダル獲得の唐澤剣也選手(右)。T11の全盲クラスは目の代わりとなる星野和昭ガイド(左)との連係による、駆け引きも重要。前半の伴走は茂木洋晃ガイドで務め、3人のチームワークで、東京パラを引き寄せた (撮影:吉村もと)

好調さを見せた要因には、合同合宿の回数が増えたり、オリンピックなど世界大会で実績のある専門コーチを招へいしたりといった、これまでにはあまりなかった強化策が少しずつ成果を見せてきたように思います。

一方、出場選手層も厚く、過去には好成績を上げてきた男子T54(車いす)は5000mで3選手とも決勝を逃すなどおおむね厳しい結果となりました。世界ランキングでは上位につけている実力者たちなので、戦略の見直しやピーキングなど今後の奮起に期待したいところです。

なお、日本パラ陸上競技連盟によれば、男子走り高跳びT64(下腿義足)で銅メダルを獲得した鈴木徹選手と、女子100mのT52(車いす)で銀メダルを獲得した田中照代選手(TIR)と銅メダルの木山由加選手(オー・エム・エル・デジタル)については、参加選手数が国際パラリンピック委員会(IPC)の規定を満たさず、東京パラリンピックで実施されるか未確定の種目であるため、現時点では内定とはならず、IPCの発表待ちとなっています。

内定選手たちを含み、今大会に出場した選手たちの競技直後のコメントが日本パラ陸上競技連盟のホームページで公開されています。実は、コメントのまとめを、私、星野が担当させていただきました。喜びの声、悔しさや次へ向かう決意のコメント、予選を終え、決勝への意気込みなどなど……。選手たちの競技にかける思いや、ここまでの道のりなども読み取っていただき、さらに応援していただけたら、嬉しいです。

さて、今大会で、東京パラ内定を逃した選手にも出場のチャンスはまだあります。来年4月1日時点での世界ランキング上位者や、今後IPCより発表されるハイパフォーマンス標準記録(より高い標準記録)の突破者などで、代表争いは来年夏まで続く見込みです。今後もぜひ、応援ください!

▼世界パラ陸上競技選手権大会 結果や選手コメントなど(日本パラ陸上競技連盟HP)
https://jaafd.org/events/20191110-001-65

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▼東京パラリンピック代表内定選手
▽佐藤友祈(T52車いす/WORLD―AC): 男子400m、1500mで2冠
▽中西麻耶選手(T64下腿義足/うちのう整形外科): 女子走り幅跳び金メダル
▽伊藤智也選手(T52車いす/バイエル薬品): 男子400m銀メダル、100mと1500mで銅メダル
▽上与那原寛和選手(T52車いす/SMBC日興証券): 男子1500mで銀メダル、400mで4位
▽山本篤選手:(T63義足/新日本住設):男子走り幅跳銅メダル
▽兎澤朋美(T63大腿義足/日本体育大学):女子走り幅跳び銅メダル
▽唐澤剣也(T11視覚障害・全盲/群馬県社会福祉事業団):男子5000m銅メダル
▽佐々木真菜(T13視覚障害・弱視/東邦銀行)女子400mで4位
▽和田伸也(T11視覚障害・全盲/長瀬産業):男子1500mで4位
▽高田千明(T11視覚障害・全盲/ほけんの窓口):女子走り幅跳びで4位
▽大矢勇気(T52車いす/ニッセイ・ニュークリエーション):男子100mで4位
▽前川楓(T63大腿義足/チームKAITEKI):女子走り幅跳びで4位

(文・取材:星野恭子/写真:吉村もと)