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佐野稔の4回転トーク 19~20シーズン Vol.④ ロシアの強さが目立つ中、結果以上の収穫があった宇野昌磨 ~ GPシリーズ「ロシア杯」を振り返って

状態は底を脱した感のある宇野昌磨

8位に沈んだ「フランス杯」から2週間。今回の「ロシア杯」も本来の演技だったとは言えませんが、得点は今シーズンの自己ベスト。トリプル・アクセルを決めるなど、随所に良いところが見られました。何より良かったのは、だいぶリラックスして落ち着いた様子だったことです。

日本の育成年代の指導に携わり、日本人スケーターに精通したステファン・ランビエル・コーチが同行してくれたおかげなのかは分かりませんが、緊迫感漂っていた「フランス杯」のときと較べると、今回の宇野昌磨には多くの笑顔が見られました。状態は底を脱した、と言えるでしょう。これからは上昇あるのみ。順位こそ4位に終わり、「グランプリ(GP)・ファイナル」の連続出場は途絶えましたが、それ以上の収穫があった大会でした。

 フリー・スケーティング(FS)の2つめのジャンプに予定していた4回転トゥ・ループを、完全に助走に入っていながら、踏み切る直前になって回避したのは、なかなか珍しいシーンでした。ジャッジたちも一瞬何が起きたのか、理解できなかったんじゃないでしょうか。少なくとも私は現役生活中、あのような‘スルー’をした経験はありません(笑)

 宇野本人によれば、最初の4回転サルコゥを失敗したときに、スケート靴のなかの左足の位置がズレた感触があったので、跳ぶのを寸前で止めたそうですが、さらに驚かされたのは、演技の最後になって、回避した4回転トゥ・ループに挑んだことです。

日頃あんなことが起こると想定した練習をやっているはずはなく、疲労だってピークを迎える局面です。かなりの冒険でした。FSでは7回のジャンプが認められていますが、6本で終わらせてもルール上、違反ではありません。結果、転倒はしましたが、ああいった果敢なトライができたのも、状態が上向いているからかもしれません。

新たな取り組みを始めている宮原

2位となった「中国杯」に続き、2週連続のGPシリーズ出場となった宮原知子でしたが、今回はショート・プログラム(SP)冒頭に予定していた3回転ルッツからの連続ジャンプが、単発の2回転ルッツになってしまう痛恨のミス。規定により「0点」扱いとなり、まさかの6位スタートとなってしまいました。

FSでも7つのジャンプのうち5つが回転不足。もはやベテランの域に達したと言える、卓越した表現力で巻き返したものの総合4位。5年連続の「GP・ファイナル」出場に関しては、GPシリーズ最終戦の「NHK杯」次第、ほかの選手の結果待ちになってしまいました。

 中国、日本、ロシアと、短期間に移動の連続で、当然疲労もあったと思います。また今大会のジャッジは宮原に限らず、全体的にジャンプの回転不足を厳しく判定する傾向がありました。ここ数シーズン、着氷に課題を残している宮原にとっては、難しい状況のなかでの試合になりました。

ジャンプの回転不足を克服するには、高さを出していく必要があります。とはいえ、それは強く踏み切れば良いのかといった、単純な話ではありません。一度身体に染み付いた自分のジャンプ技術を、基礎からつくり直すような作業になるのです。今シーズンを迎えるにあたって宮原は、単身スイス に渡ったり、カナダのリー・バーケルコーチの指導を受けたりするなど、新たな挑戦に取り組んでいるようですが、そうした地道な努力を続けるほかありません。

女子に追いつき追い越せの、ロシア男子

 男子シングルは、ロシア勢が表彰台を独占。女子シングルもアレクサンドラ・トルソワ、エフゲニア・メドベージェワの1、2フィニッシュと、ロシア選手が席巻する今シーズンのフィギュア界を象徴するような大会になりました。特にメドベージェワにとっては素晴らしい自国凱旋となり、完全復活を印象づけました。

 平昌(ピョンチャン)五輪のあと拠点をカナダに移し、ブライアン・オーサーコーチのもとで、新たな競技人生をスタートさせましたが、やはり慣れない環境での新生活にとまどいもあったのでしょう。不調に陥り、昨シーズンはアリーナ・ザギトワの前に、影の薄い存在になっていました。ですが、今回の演技には、向かうところ敵なしだった、かつてのメドベージェワらしさが戻っていました。

 ロシア男子の「ロシア杯」優勝は、あのエフゲニー・プルシェンコ以来10年ぶりのことだったそうですが、表彰台に上がった3選手については、三者三様の面白さがあり、それぞれ魅力のある選手です。特に優勝したアレクサンドル・サマリンの4回転ルッツには迫力がありました。

ロシアは14年のソチ五輪に向けて、国家ぐるみでフィギュア強化に取り組んでいたのですが、その成果は女子のほうが先に出て、男子は後れをとっていました。それがここに来て、楽しみな人材が顔を揃えました。日本男子陣にとっては、手強い相手になりそうです。