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佐野稔の4回転トーク 19~20シーズン Vol.① 近年にないコンディションの良さを感じさせた羽生結弦  ~ 「スケート・カナダ」を振り返って

世界最高得点に肉薄。さすがは2度の五輪金メダリスト

2位のナム・ニュエン(カナダ)に60点近い大差をつけての優勝。さすがは五輪2大会連続の金メダリスト。ほかの選手には申し訳ありませんが、実績からすれば、羽生結弦にとっては「ライバル不在」の大会。勝つのは当然のこととして、注目は羽生本人が納得のいく演技ができるかどうかでした。

 どちらかと言えばスロー・スターターの傾向があって、過去シーズンの序盤はバタバタすることもあった羽生ですが、自身にとっての今シーズン初戦となった9月の「オータム・クラシック」では、随所に動きの良さを感じさせました。このオフは大きなケガに悩まされることもなく、おそらくしっかりとした練習を積み重ねることができたのでしょう。近年にない良いコンディションで、新たなシーズンを迎えることができています。

 今回も動きの良さはそのままに「オータム・クラシック」では、着氷が乱れたショート・プログラム(SP)冒頭の4回転サルコゥもしっかり成功。本人は「ノーミスとは言えない」と、若干不満を残したようですが、FSでは後半の3連続ジャンプの3つめを、3回転サルコゥから3回転フリップにレベルアップして、見事に成功。滑り終えた直後の「どうだ!見たか!」と言わんばかりの表情が、羽生の満足度を物語っていた気がします。

自己ベストを更新する総合322.59点は、ネーサン・チェン(アメリカ)の持つ現行ルールでの世界最高点323.42と、わずか0.83差に肉薄した高得点です。FS最初の4回転ループがオーバー・ターンとなり、出来栄え点(GOE)がマイナス評価になってしまいましたが、もしもあのジャンプをビシッと成功していたら、間違いなく世界最高得点を更新していたはずです。この状態であれば、今シーズンの羽生結弦は、さらに高いステージへとつき進んでいくのでないか。そんな期待が膨らむ「スケート・カナダ」でした。
 

世界選手権奪回に向けて。怖いのはケガだけ

 今年3月の「世界選手権」でネーサン・チェンに敗れたことが、今シーズンを迎えるにあたっての、相当大きなモチベーションになっていることが、羽生のコメントなどからうかがえます。

昨シーズンのチェンの活躍ぶりは、私の予想のはるか上を行くものでした。去年の秋にエール大学に進学。新たな環境に身を置いたことや学業との両立が、スケートにしばらく影響するのではないかと見ていたのです。ところが、彼は新たな変化をむしろプラスにして、世界のトップスケーターとして確固たるポジションを築き上げてみせました。今シーズンの男子フィギュア界も、羽生とチェン、そして宇野昌磨、この3人の争いが中心になっていくことでしょう。

 そうしたなかで、羽生にとっての最大の敵はケガです。みなさんご承知の通り、このところ何年も続けて、ケガなくシーズンを終えることができていません。2年続けて「グランプリ・ファイナル」には出場できず、「全日本選手権」は3年連続で欠場しています。何より残念なのは、ケガのために満足な練習ができずにいることです。

4回転ルッツにせよ、その先の夢の4回転アクセルにせよ、やはり裏付けとなる練習なくして、成功はあり得ません。シーズンを無傷で過ごすことが、3年ぶり5度目の「グランプリ・ファイナル」優勝、世界チャンピオンの奪回、そして人類初の4回転アクセル成功のための、大前提です。羽生の抜きん出た能力からすれば、ケガさえなければ、おのずと結果は付いてくるはずです。