「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(282) 車いすラグビー日本代表は、“悔しい”銅。「百聞は一見にしかず」は証明!
ラグビーワールドカップ開催中に、「もう一つのラグビー世界大会」として10月16日に開幕した車いすラグビーの国際公式戦、「ワールドチャレンジ2019」が20日、閉幕しました。世界ランク10位中8チームが顔を揃え、連日熱戦が繰り広げられた結果、同ランク2位の日本はイギリス(同4位)との3位決定戦に臨み、54-49で勝利し、銅メダルを手にしました。優勝はアメリカ(同3位)がオーストラリア(同1位)を59-51で下して輝きました。
銅メダルを獲得し大観衆の声援に応える、車いすラグビー日本代表チーム (提供:小川和行/パラスポ!)
強豪が揃い、「東京パラリンピックの前哨戦」と位置付けられた今大会。日本は優勝し東京大会への弾みにしたいところでしたが、悔しい結果になりました。でも、今大会での経験は来年に向け、重要なステップになったのではないでしょうか。
例えば、予選全勝で勝ち上がったものの、56-57と1点差で敗れた準決勝のオーストラリア戦は特に貴重な学びのゲームになったように思います。
世界王者、オーストラリアのエース、ライリー・バッド選手。スピードとパワーを兼ね備え、「世界ナンバー1プレーヤー」とも称される。「まだ30歳。最大目標の東京パラリンピック金メダルに向けて、ハードワークが日課」と話した。 (提供:小川和行/パラスポ!)
ケビン・オアーヘッドコーチは、「我々は世界トップクラスのチームだが、(世界王者の)オーストラリアに『勝てたらいいという希望』でなく、『勝てると信じるマインドセット』を選手に浸透させきれなかった」と振り返り、また、「効率的な攻撃スタイルをさらに高めたい」と課題も挙げました。
また、池透暢主将は、「大きな悔しさがみんなにある。今の努力では足りない。金メダルが取れるかもしれないチームでなく、金メダルを取れるチームに変えるために、まだ皆でやるべきことがあると認識できた」と前を向きました。
3位決定戦(対イギリス)で、好プレーにガッツポーツを見せた池透暢主将(中央)。「自分たちを信じて、応援が力をくれると信じて、最後までハードワークして戦えました」 (提供:小川和行/パラスポ!)
2020年に向けたテストの位置づけもあった今大会は、若手選手たちも出場機会を得ました。なかでも、高校2年の17歳、橋本勝也選手は大きな成長を見せた一人です。ただし、接戦だった準決勝戦では出場機会がなく、悔し涙を見せました。「試合後に泣くのは初めてですが、次につながると思う。東京大会後も代表エースとしてやっていきたい。悔しさをバネに練習します」と、さらなる成長を誓っていました。
笑顔も悔し涙もあったが、期待の若手として存在感を放った、橋本勝也選手。目標は、「世界一のプレーヤーになる」 (撮影:星野恭子)
また、「大歓声の中でのプレー」対策を試す場にもなりました。試合中はコートとベンチとのコミュニケーションも重要ですが、大歓声により互いの声が届かない場面もあります。そこで、オアーHCは、例えば、「ゾーン」と書いたボードを掲げて守備陣形を指示したり、指示によって異なる色のカラーボードを使ったりしながら、「音声以外のコミュニケーション方法」も試していました。「聞こえない中で有効だった」と選手からも手ごたえの声が聞かれました。
東京パラリンピックでは、各国のチーム力はさらにアップし、観客の数や歓声も確実に増すはずです。今大会はさまざまな面から、まさに、「前哨戦」として機能したのではないでしょうか。日本代表にはぜひ、今大会で得た「世界一への手ごたえと課題」を胸に強く刻み、さらなる進化を期待したいと思います。
■一度観たら、また観たくなる! 応援したくなる!
パラスポーツ観戦はまだ一般的でなく、会場観戦者が少ないのが課題ですが、実際に観ると面白く、見ごたえのある競技も多く、「初めて見たけど、楽しかった」という声が多いのもパラスポーツです。今大会は、そんな「百聞は一見にしかず」という点が証明された大会でもありました。
平日は全席無料、週末は1階アリーナ席のみ有料で開催されましたが、会場では全試合でスポーツDJが入って実況や会場の盛り上げに大きく貢献。また、能楽師で東京2020オリンピック・パラリンピック開閉会式の総合統括も務める野村萬斎さんが国歌独唱やハーフタイムショーを演出した開幕戦も含め、さまざまなショーアップ策が導入され、「パラスポーツのエンターテインメント化」の取り組みもなされ、大きな成果を見せました。
水曜日の午前中に行われた開幕戦の観客の大半は学校招待の子どもたち。野村萬斎さんはハーフタイムに、幼児向けの人気テレビ番組から「ややこしや」を披露し、大歓声 (撮影:星野恭子)
なんと、大会5日間で会場の東京体育館を訪れた観客は、のべ35,700人! 国内開催のパラスポーツ大会としてはかなりの人数です。もちろん仕掛けもあって、平日昼間は小中高校80校から約14,000人が招待され、また会社帰り風の大人たちの姿が目立った夜間は、スポンサー企業などの招待客も少なくなかったはずです。実際、大会序盤は「初観戦者」が大半のようでした。
でも、日を追うごとに「リピーター」の来場も増えていったのです。「面白かったので、また来ました」「(連勝中の)日本を応援したくて」など、一度観戦したことで車いすラグビーの面白さを知り、日本チームのファンになった人も多かったようです。
また、今大会は5日間毎日、テレビ放送もありました(NHK-BSとBS-TBS)。インターネットでのライブやアーカイブ配信もありました。「目に触れる」機会が多かったのも、「会場に行ってみよう」と思わせる誘因になったかもしれません。
大歓声の中でのプレーは海外 チームの力にもなり、好印象 を残したようです。例えば、オーストラリアのエース、ライリー・バッド選手は日本との準決勝戦後、「日本チームも素晴 らしく、タフな試合 だった」と接戦での勝利を振り返るとともに、「大勢の観 客のおかげで 素晴 らしい 雰囲気 の中、 試合 ができた。パラリンピック・ムーブメント、そして車いすラグビーを盛り上げてくれて、感謝 している。来年も楽しみにしています」と話していました。
東京パラリンピックを控え、競技の魅力を広め、ファンを増やすことは大命題です。今大会の取り組みや手ごたえは他のパラスポーツにも参考になるでしょうし、勇気にもなるのではないでしょうか。
(文:星野恭子)