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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(274) 日本初開催のパラ卓球国際大会で、日本勢が躍動!

8月1日から3日にかけて、パラ卓球の国際大会「ITTF・PTTジャパンオープン2019東京大会」が東京・港区スポーツセンターで開催されました。日本で初めて開かれた国際卓球連盟(ITTF)主催の公認大会で、世界23カ国から約200選手がエントリー。1年後に迫った東京パラリンピック出場にもつながる国際ランキングポイント獲得を目指し、熱戦が展開されました。
日本初開催となったパラ卓球の国際大会「ITTF・PTTジャパンオープン2019東京大会」。世界の強豪も参戦し、会場となった東京・港区スポーツセンターは多くの観客で盛り上がった(撮影:星野恭子)

パラ卓球は、使用する台や用具などを含め、健常者とほぼ同じルールで行われます。ただし、障害種別によって「車いす」「立位」「知的障害」の3つのカテゴリーがあり、さらに障害の程度により、車いすは「クラス1~5」、立位は「クラス6~10」、知的障害は「クラス11」の全11クラスに分かれて競います。試合は2セット先取の3セット制で、男女別に個人戦と団体戦が行われます。団体戦では1試合目をダブルス、2、3試合目をシングルスで戦い、先に2勝したチームが勝ちとなります。

今大会には日本から全46選手(男子34、女子12)がエントリーし、男女シングルスで6個ずつ、男子団体で6個、女子団体で3個の計21個のメダルを獲得。3日間でのべ3,000人という観客を大いに沸かせました。
さまざまな障害の選手が参加するパラ卓球。「立位カテゴリー」では義足や杖を使う選手、手に障害があるためラケットをテープで固定したり、ラケット付きの義手を使う選手など、自身の障害と向き合い、用具や戦略を工夫してプレーする (撮影:星野恭子)

東京パラリンピックを1年後に控えたタイミングでの日本初開催の国際大会について、日本選手からは、「日本の皆さんにパラ卓球を知ってもらえる良い機会になった」「(海外と異なり)応援してくれる家族や知人らにプレーする姿を見てもらえて嬉しかった」「日本語の声援を受けて刺激になったし、来年の東京パラリンピックがイメージできた」など好評でした。

また、パラ卓球を初めて見る観客も多く、「想像以上にレベルが高かった」「さまざまな障害の選手いてが、いろいろ工夫していてすごいなと思った」「日本選手も活躍して、見ていて楽しかった」などの声が聞かれました。東京パラリンピックを前に、競技をアピールするよいチャンスとなったようです。
片手に障害がある選手はラケットを持つ手でサーブのトスも上げる。他に、ラケットにボールを乗せて投げ上げる選手も。(撮影:星野恭子)
また、東京パラリンピックにはクラスごとに出場枠数が設定されており、大陸別選手権大会優勝者の他、世界ランキング上位選手などが出場要件となります。ポイントが獲得できる大会に国際大会に出場し、ランキングを上げていくことが重要です。

さて、今号ではカテゴリー別に特徴や見どころ、メダリストたちの喜びのコメントなどをまとめ、パラ卓球の魅力をさらに紹介したいと思います。

【クラス1~5=車いす】
数字が小さいほど障害は重くなります。個人戦はクラス別に、団体戦は複数のクラスが統合され、クラスの異なる選手がペアを組む場合もあります。

選手によっては下肢や体幹だけでなく、手にも障害があり、ラケットをテープで手に固定してプレーする選手もいます。

卓球台の大きさもネットの高さも一般と同じですが、臀部を浮かしたり、床に足をつけたりしてプレーすることは禁じられています。座高が低く、横への移動が難しい車いすに乗りながら、どうボールを追い、打ち返すかが工夫のしどころ。コースをついたり、ロビングなどで緩急をつけた攻撃など工夫して戦います。

■別所キミエヱ選手(クラス5)/女子個人銀メダル
現在71歳。パラリンピック4大会連続出場。リオでは5位入賞。2018年後半はアクシデントが続き、この春ようやく競技に復帰。「蝶々の髪飾り」がトレードマークで、「バタフライ・マダム」として慕われるレジェンド選手。今大会はシングルスにのみ出場し、2連勝後に韓国選手に1-3で敗れ、2勝1敗で銀メダル。

「今の自分なりにはいいプレーができ、次につながる負けだったと思います。卓球が好きなので、(試合ができて)楽しかったです。(71歳という)年齢は気になりません。自国開催の国際大会は大きな一歩、パラ卓球が年齢の幅が広いスポーツだと分かってもらえたと思います。今日は感謝の気持ちから、39(サンキュー)個の蝶々の髪飾りをつけました」
シングルスで銀メダルを獲得した、71歳の別所キミヱ選手。出場がかなえば、5大会連続出場となる東京2020大会を目指し、今も進化中。(撮影:星野恭子)

■茶田ゆきみ(クラス3)/女子個人銅メダル
2018年世界選手権出場し、世界ランク14位。5選手が出場したリーグ戦で2勝し、銅メダルを獲得。過去に完敗した格上の選手と再戦し、競り合いを演じるなど、負けはしたものの手ごたえある大会に。

「自国開催で応援のプレッシャーも力に変えて、2勝して銅メダルという最低限の結果が出せたのはよかったです。格上の2選手に負けたのは悔しい。今回見えた課題をクリアし、9月からの海外連戦でポイントを上げられるように頑張りたいです」

シングルスで銅メダルを獲得した茶田ゆきみ選手。「下回転をかけたボールが武器」と話す。回転数が多いのが特徴で、相手のミスを誘いやすい。(撮影:星野恭子)

オーストラリアのL.D・ディトロ選手(クラス4)。約30年のキャリアを持つ車いすテニスで世界女王に君臨後、4年前にケガなどをきっかけに卓球を始める。「コートも広く運動量が多い車いすテニスに比べ、卓球は息長くプレーできます。まだ世界ランキングは下ですが、新しいスポーツに挑戦するのは楽しいですね」 (撮影:星野恭子)

【クラス6~10=立位】
数字が小さいほど障害は重くなります。個人戦はクラス別に、団体戦は複数のクラスを統合し、クラスの異なる選手同士でペアを組む場合もあります。

障害のある足に義足や装具をつけたり、杖をついたり、手にも障害があるため、ラケットをテープで手に固定してプレーする選手もいます。片手に障害があり、ボールをラケットに乗せてトスをしたり、口でラケットを「握る」選手もいます。手が短く、「リーチ」では届かない分、「フットワークが強み」という選手もいます。
左足は義足、左手には杖を持ってプレーする、ウクライナのV・ディジュ選手(クラス8)。健常者の卓球で世界を転戦していたが、2008年に骨肉腫で左足をひざ上から切断し、パラ卓球に転向。2013年から欧州選手権リオパラリンピックでは団体戦金メダル獲得に貢献。 (撮影:星野恭子)

■岩渕幸洋選手 (クラス9) 男子個人銅メダル、男子団体銀メダル
世界ランキング4位で、日本男子陣をけん引するエース。実業団の協和キリンに所属し、健常の選手たちに交じって日本選手権などにも出場し、高いレベルで強化中。今大会は決勝トーナメント準決勝でオーストラリア選手に1-3で敗れて銅メダル。団体戦ではクラス10の垣田斉明選手と組み、フルセットの熱戦の末、銀メダルを獲得。

「攻撃力が課題。プレッシャーのかかる中で守りに入るのではなく、攻めの姿勢で自分のプレーがどれだけできるかを目指して強化していきたい。(出場は確定していないが)東京パラリンピックまでに世界ランキング2位以内となり、よいシードに入れるよう、目の前の1戦1戦を大切にしたいです。大声援の中でプレーでき、東京パラリンピックへのいい経験になりました」
垣田斉明選手と組み、銀メダルを獲得した団体戦では一人目のシングルス戦に登場し、障害の軽いクラス10の選手を撃破した。会場には岩渕選手の応援Tシャツを着た「応援団」が詰めかけ、大声援。「大勢の前で試合ができ、いつもより集中力も高まり、乗っていけました」 (撮影:星野恭子)

■垣田斉明選手 (立位10) 男子個人金メダル、男子団体銀メダル
右腕に先天性の麻痺がある。ラケットを左手で持つが、動かない右手がバックハンドの妨げになることもあり、力強いフォアハンドとどんな球もフォアハンドで打ち返すフットワークを磨いた。八千代市役所に勤務しながら競技を続ける34歳のベテラン。シングルスでの優勝は7年ぶり。

「優勝できて嬉しいです。頑張っても結果が出ない場面が多かったので、(優勝して)改めて職場や家族にも支えられたことへの感謝の気持ちがこみあげてきて、涙しました。これからが勝負なので、またさらにがんばりたい。強みはペンホルダーの握り方。主流のシェイクハンドとは違い、ショートやバックでは回転がかかりにくいので、相手にはやりにくいと思う。そこを持ち味に、これからも頑張りたいです」
シングルスで優勝を果たした瞬間、力強いガッツポーズで喜びを表した垣田斉明選手。卓球を始めた中学時代に、「かっこいいな」とペンホルダーでラケットを握り、今では「武器」に。(撮影:星野恭子)

■友野有理選手 クラス8 女子個人金メダル
日本体育大学1年生の19歳。小学5年生で脳梗塞になり、右半身に麻痺が残る。2017年アジアユースパラ競技大会の銀メダリスト。今大会では1戦1戦を大事に戦い、シングルスで優勝を果たした。

「(7月下旬の)アジア選手権では目先のことを考え過ぎてしまい、メダル決定戦で負けてしまいました。今回は楽しんでプレーしようと思い、金メダルが獲得できました。今のランクが24位なので東京パラリンピックにはまだ遠いのですが、今大会でランク10位の選手に勝てて自信になりました。この先、さらに自分の技術や戦術面を向上させて、東京パラリンピックには絶対に出たいです。粘り強いラリーが強みです」
「楽しんでプレーするのが私のスタイル」と話す、友野有理選手。姉の影響で幼い頃から卓球に親しんでいたが、小学校5年生で脳梗塞を発症。利き手側の右半身に麻痺が残り、ラケットを左に持ち替えてパラ卓球へ。サーブはラケットにボールを乗せて投げ上げて行う。前陣でのスピーディーなラリー展開が持ち味。(撮影:星野恭子)

七野一輝選手(クラス6)は先天的な両下肢機能障害のため、左手で握る杖を駆使した「フットワーク」を武器にボールを追う。(撮影:星野恭子)

シングルス銅メダル、工藤恭子選手と組んだ団体戦では銀メダルを獲得した竹内望選手(クラス10)。生まれつき右腕に麻痺があるが、前陣での力強い攻撃が持ち味。得点すると、思わず発せられる大きな声が特徴。「今大会では自分ができる精一杯を出せたので、次につながる試合ができました」

オーストラリアのM・タッパー選手(クラス10)は生まれつき右腕に麻痺があるが、幼い頃から卓球をはじめ、ジュニアレベルで国内外の大会で活躍する。2010年からパラ卓球にも挑戦し、2012年ロンドンパラリンピックに初出場。2016年リオ大会では、オーストラリアで初めてパラリンピックとオリンピックの2大会の代表になった。今大会でもシングルス、団体戦ともに優勝を果たし、実力を示した。「来年の東京大会でもオリンピックとパラリンピックへの出場を目指しています」 (撮影:星野恭子)

【クラス11=知的障害】
健常者と全く同じルールで行われる。スピード感あるラリーや力強いスマッシュなど迫力あるプレーを見せる選手も多く、健常者の大会に出場している選手も多い。障害が外からでは見えにくいが、選手はそれぞれ会話が苦手だったり、集中力の持続や気持ちのコントロールに課題があったりする。コーチが各自の特性を見極め、マンツーマンで長所を伸ばしたり、分かりやすい言葉での指導などが欠かせない。

■古川佳奈美選手 女子個人銅メダル、女子団体銅メダル
22歳。博多卓球クラブ所属。2018年世界選手権3位。世界ランキング7位で、豪快なスマッシュなどが強みの攻める卓球スタイル。今大会では世界ランク2、3、4位の選手を連破する活躍を見せ、シングルスで銅メダルを獲得、団体戦でも美遠さゆり選手(25歳)と組み、銅メダルを獲得。

「いい成績を残せたので、2020年に向けても自信になりました。コーチと一緒に、東京パラリンピックに向けて気を抜かず頑張りたいです」
世界ランク1位のロシア選手からポイントを奪い、ガッツポーズする古川佳奈美選手。7月下旬に台湾で行われたアジア選手権では準決勝で格下に逆転負けを喫したが、今大会は格上選手を次々と撃破した。「(アジア選手権では)自分の力が出せなくてボロボロでした。ジャパンオープンで頑張りたいと思っていました」 (撮影:星野恭子)

■伊藤槙紀選手 女子個人銅メダル 女子団体銀メダル
34歳、ひなり所属。2016年リオパラリンピック日本代表。世界ランクは10位。一般的なシェークではなく、特徴ある握り方が強みになっている。今大会はシングルスで銅メダルを獲得、団体戦では櫨山七菜子選手(23歳)と組み、銀メダルを獲得。格上の選手に打ち勝つなど大きな手ごたえを得た。

「3位になってメダルをもらえました。次はチェコの大会。慌てずに落ちついて頑張りたいです。団体戦はいい勉強になります」
伊藤槙紀選手は独特なラケットの握り方が特徴。そこから繰り出される個性的なボールで相手を翻弄する。地道な反復練習もいとわず、コツコツと努力できる点も強み。「次のチェコ大会も、みんなで気合を入れてしっかりやりたいです」 (撮影:星野恭子)

世界ランク7位の加藤耕也選手(26歳)はシングルスで銅、竹守彪選手らと組んだ団体戦で銀メダルを獲得。「ここぞ」の場面で得点したときなど、叫び声とともに大きなガッツポーツがトレードマーク。「1試合1試合、充実した試合をしたかったので、結果が残せてよかったです。勝っても負けてもやりがいがあるのが卓球。感謝の気持ちを忘れずに頑張りたいです」 (撮影:星野恭子)

リオパラリンピック代表の竹守彪選手(25歳)も加藤選手と同じく、シングルスで銅、団体戦で銀を獲得。「最低の目標だったベスト4に入れてよかった。東京パラまであと1年を切り、みんなヒートアップしています。(今8位の世界ランクを)もっと上げるように、向かっていく気持ちで戦いたいと思います」 (撮影:星野恭子)
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ほんの一部の選手しか紹介できませんでしたが、さまざまな選手が参加するパラ卓球は、まさに「個性豊か」なことが特徴です。障害に応じて、それぞれプレースタイルも強みもさまざま。自分の障害と向き合い、強みを見つけて伸ばしていくことが重要ですし、対戦相手を観察し、対策を練った戦略も見どころです。見ごたえたっぷりのパラ卓球。機会があれば、ぜひ会場で観戦いただきたいと思います。
(*文中の世界ランキングは2019年6月現在)

(文・写真:星野恭子)