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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(273) ブラインドサッカー日本代表、世界王者ブラジルとホストタウンの岩手県遠野市で強化試合。「僕たちがお手本とすべきチーム」

東京パラリンピック初出場に向け強化中のブラインドサッカー日本代表が7月14日と15日の2日間、岩手県遠野市でブラジル代表とのトレーニングマッチ2試合に臨みました。結果は初日が0-1、翌日も0-2と惜しくも2連敗となりましたが、パラリンピック4連覇中の絶対王者、ブラジルを相手に貴重な手ごたえと課題を得たようです。
ブラインドサッカー日本代表(白)とブラジル代表(青)によるトレーニングマッチが 7月15日、遠野市国体記念公園市民サッカー場で実現。「面白かった」「すごかった」と、サッカー好きの遠野市民も魅了。(撮影:星野恭子)

この日本代表とのトレーニングマッチは、ブラジル代表が昨年の世界選手権優勝で出場権を得た東京パラリンピックに向けた強化とシミュレーションも兼ね、7月4日から17日まで同市内で強化合宿を実施したことから実現しました。日本は過去、ブラジルと9回対戦して未勝利ですが、昨年8月の南米遠征では1敗1分けと善戦。日本にとっても来年に向けた強化の成果を試す、絶好の機会になりました。

初日(7月14日)は同市の稲荷下屋内運動場で行われました。音が反響する屋内の会場ですが、両チームとも影響を全く感じさせず、キックオフからボールがスピーディに動き、ハイレベルな試合展開となりました。世界トップのブラジルに攻め込まれるシーンも何度かありましたが、日本もよく守ります。このまま前半終了かと思われた残り1分、日本のわずかな守備の乱れを見逃さなかったブラジルにカウンターから先制点を奪われました。
ドリブル突破を狙うブラジル選手(黄)の進路をふさぐ、川村怜キャプテン(青#10)と、カバーに急ぐ佐々木・ロベルト泉選手(右)。稲荷下屋内運動場にて。(撮影:星野恭子)

後半は、日本も攻撃のリズムを取り戻し、シュートシーンも見られましたが、決め切れません。しかしブラジルの猛攻を日本もよくしのいで追加点は許さず、試合は終了しました。

翌15日は会場を遠野市国体記念公園市民サッカー場に移し、青空の広がる屋外ピッチで開催されました。日本は守備重視だった前日に比べ、この日はキックオフから攻撃的なサッカーを見せ、積極的に攻めあがります。

対するブラジルは試合巧者ぶりを示し、そんな前がかりな日本のスキをつき、前半2分に先制。その後、8分にも追加点を上げ、日本は2点リードされて折り返します。

後半に入ると、日本もゴール前に何度も攻め上がり、得点の可能性を感じさせました。しかし、ブラジルゴール前の守備も堅く、あと一歩ゴールまで届きません。それでも集中力を欠くことなく、日本も随所にいい守備を見せ、ブラジルに追加点を許しません。試合はこのまま、0-2のブラジル勝利で終了しました。
ブラジルゴールに攻め込む黒田智成選手(白#11)と、守備の要、田中章仁選手(同#7)。遠野市国体記念公園市民サッカー場にて。(撮影:星野恭子)

試合後、川村怜キャプテンは、「ブラジルは非常に強かった。個人の能力や技術の高さが目立つが、組織力も高く、僕たちがお手本とすべきチームだと改めて感じた。今回得た課題(ゴール前の精度など)を明確にし、来年の本番で勝てるチームを作りたい」と力強くコメント。

また、高田敏志監督も、「昨日は守備からしっかり入ろうとし、攻撃のチャンスもできたので、今日は(点を)取りに行こうとしていた。リスクを背負いながら戦うとどうなるかという戦略の中での失点は仕方ない面もあった。後半は(日本が)かなり押し込める時間もあったが、さすがブラジルで打ち切れないところがあり、得点できなかったのは残念」と悔しさをにじませました。

一方で、「ここ数年、ブラジルと対戦する機会があったが、攻め込める時間がなかった。(今回は)『自信をもってやろう』と選手を送り出し、特に後半は、「きた!」という場面が何度もあった。ゴール前にボールを運ぶまでにさまざまなプロセスがあり、チャレンジがあった。そこは評価したい」と健闘した選手を称えました。
2日間の激闘を終え、互いの健闘を笑顔で称え合う日本、ブラジル両チームの選手とスタッフ (撮影:星野恭子)

今回の2試合で、日本はスタメン4人(川村怜、黒田智成、佐々木ロベルト泉、田中章仁)に加え、控え選手全3名(加藤健人、佐々木康裕、寺西一)も出場機会を得ました。高田監督は、「それぞれが自分の役割に自信を持ってプレーしてくれた」と評価し、川村キャプテンも、「ブラジルのような強度の高いチームには交代も必要になってくる。今回はベンチワークも含め、この先につながるいい経験ができた」と手ごたえを口にしました。

パラリンピックのような短期間で多くのゲーム数をこなす戦いでは疲労少なく戦い続けることが重要となり、選手層の厚みは不可欠です。それぞれの選手にとって、世界トップチームを相手に戦い、手ごたえあるプレーができた経験は自信となり、今後につながっていくことでしょう。

さて、日本代表はこの後、9月末から10月初旬にタイで開催されるアジア選手権に向かいます。東京パラリンピック出場権をかけた真剣勝負の場であり、アジアの強豪国が顔を揃えます。日本は東京大会出場が決定していますが、高田監督は「(パラリンピック常連の)中国やイランを倒して、アジアナンバー1として、(パラリンピックに)行きたい」と意気込みます。

世界王者とマッチアップした遠野市での貴重な経験を糧に、さらなる進化を目指すブラインドサッカー日本代表から目が離せません。

■まちの個性を生かして、東京2020大会を盛り上げる、「ホストタウン」

このトレーニングマッチが岩手県の遠野市で開かれたのは、東京2020大会開催に向けて、遠野市が「ホストタウン」に登録しているからです。「ホストタウン」とは、東京大会盛り上げのために国が推進している取り組みで、全国各地の自治体がそれぞれ応援したい外国を登録し、事前合宿や相手国にまつわるイベントなどを通して相互交流を図ろうというものです。
「カッパ伝説」でも知られる遠野市。ホストタウンとしてブラジルを歓迎するボードにもカッパのモチーフが (撮影:星野恭子)

遠野市は2017年12月にホストタウン登録をしています。地元の遠野高校が全国高校サッカー選手権に6年連続28回出場するなど市民の関心が最も高く親しまれているサッカーを通じて国際交流や共生社会の促進、地域スポーツの推進などを目的に2018年、ホストタウンとしてブラジルのブラインドサッカー代表と事前合宿などに関する覚書を締結。今回の合宿受入れと日本代表戦の開催につながりました。試合に先駆け、市民との交流会やブラインドサッカーを含む、「パラスポーツ体験会」なども実施しています。

2日間にわたった日本代表戦も無料で公開され、子どもから大人まで多くの遠野市民が訪れました。豪快なシュートや選手たちが熱くぶつかり合うたびに歓声がもれ、「初めて観たが、迫力がすごい」「想像以上にスピード感のあるゲームだった」とブラインドサッカーの競技性の高さと面白さに驚かされたようでした。ボランティアとして運営を支えた遠野高サッカー部員たちも、「足元のテクニック」や「見えてるんじゃないかと思うパス交換の精度」などレベルの高さに驚き、「接触も怖がらない勇気」などにも大いに刺激を受けた様子でした。
高い個人技と組織力を示したブラジルチーム(青)と、世界王者に食らいついた日本代表(白)の熱戦はブラインドサッカーの魅力を地方にもアピール。右奥は大声で選手に指示を送る日本の高田敏志監督 (撮影:星野恭子)

川村キャプテンは、「地方で、僕らの試合を生で観戦してもらうことは、ブラインドサッカーの競技を広めることにもつながる。もっとやっていきたい」と地方都市でのイベント開催の意義についてコメント。

一方、ブラジルのルイス監督をはじめ、選手たちからは、「ブラジルと同じ環境でトレーニングができた」「宿泊施設も食事も快適」「不足があれば、すぐに対応してくれた」など遠野市の「おもてなし」を称賛する言葉が聞かれました。

また、日本代表の高田監督もブラジルチームの様子から、「日本の評価を高めたと思う」と市のホスピタリティを称え、また、「(合宿誘致の)おかげで(世界一の)ブラジルと対戦できた。他の強豪国からうらやましがられた」と、市の取り組みに感謝していました。
遠野市内あちこちに掲示されたブラジル歓迎の旗やポップ。町をあげての「おもてなし」が大好評。 (撮影:星野恭子)

このように、「ホストタウン」は国際交流を通した町おこしの機会でもあります。とはいえ、どこでもなれるわけではなく、応援する国とのつながりや理由などが審査され、決定されるそうです。受け入れるホストタウン側の「本気度」も問われているわけです。

首相官邸の発表によれば、今年6月28日現在のホストタウン登録件数は全国323件となっています。

▼(参考)ホストタウン一覧 (首相官邸ホームページ)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/hosttown_suisin/gaiyou_dai1.html

東京オリンピック開幕まであと1年、パラリンピックまでも400日を切りました。各ホストタウンでのイベントや事前合宿などの実施はますます盛んになるはずです。あなたの街にもオリンピアンやパラリンピアンがやってくるかもしれません。貴重な機会です。ぜひ応援、ご参加ください!

(文・写真:星野恭子)