「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(263) 車いすバスケ、宮城MAXが11連覇! 健常者選手も参戦し、選手層も見ごたえもアップ!
予選会などを勝ち抜いたトップ8チームによる車いすバスケットボールの日本一を決める大会、「天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会」が5月10日から12日にかけ、武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)で開催され、最終日の決勝戦で宮城MAXが埼玉ライオンズに71-35で快勝し、大会11連覇を達成しました。大会MVPには決勝で31得点など圧倒的なシュート力を見せつけ、優勝に貢献した藤本怜央選手(宮城MAX)が選ばれました。
大会11連覇の偉業を達成し、令和初の天皇杯を手にして喜ぶ、宮城MAXの選手たち(撮影:星野恭子)
決勝戦は意外な大差がついたという印象があるものの、王者MAXが持ち味であるパスを主体とする連係プレーと藤本選手や土子大輔選手らのシューターが確実に得点を重ねた一方、若手が多く機動力を生かした守備力で対抗するライオンズを退ける結果となりました。藤本選手は、「得点差は考えず、一つひとつのプレーを重ねた結果」と達成感あふれる安堵と充実の笑顔で熱戦を振り返りました。
厳しいマークにあいながらもシュートを狙う藤本怜央選手(中央奥)。攻守にわたり、宮城MAXをけん引。日本代表の大黒柱でもある(撮影:星野恭子)
実は、10連覇中のMAXはベテラン勢を中心に総合力の高いチームではあるものの、今季は日本代表でも活躍する豊島英(あきら)選手をケガで欠くなど苦しいチーム事情もあり、1回戦の伊丹スーパーフェニックス(兵庫)戦では75-64、準決勝のワールドバスケットボールクラブ(愛知)戦でも67-57と、「苦しかった」(藤本選手)という試合を経て王座防衛戦に進出しました。
一方の埼玉ライオンズは昨年、一昨年で3位に入り、今季も他の大会で優勝を重ねるなど勢いのあるチームで、今大会でも1回戦で前回、前々回準優勝のNO EXCUSE(東京)を72-57、準決勝では機動力と得点力のあるパラ神奈川スポーツクラブを59-48で破り、4年ぶりの決勝に駒を進めました。
チームカラーの異なる2チームによる注目の一戦でしたが、ティップオフからMAXが全開。エース藤本選手がマークされれば、一昨年大会から出場が認められた女子選手の藤井郁美選手がアウトシュートを決めるなど前半で37-14とリードを広げます。後半に入っても勢いは止まらず、終盤はベンチメンバーもほとんど起用する「全員バスケ」で完勝。強さを見せつけました。
敗れたライオンズを豊富な運動量でけん引した若きエース、赤石竜我選手は日本代表でも活躍中ですが、悔しい敗戦に目を真っ赤にしながら、「この埼玉ライオンズで、絶対に優勝したい」と来年以降の巻き返しを強く誓っていました。
準優勝の埼玉ライオンズの赤石竜我選手。機動力で攻守にわたって活躍し、今大会ベスト5にも選出された (撮影:星野恭子)
なお、大会の模様は、Youtubeのアーカイブ配信でも観戦可能です。実況もあり、元女子代表で5大会連続パラリンピアンで銅メダリストの上村知佳さんの解説もあり、ルールや見どころなども分かりやすいです。ぜひご覧ください。
▼天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会 決勝戦
https://youtu.be/uIkGMIcUj7I
健常者の参戦で、活性化した日本のリーグ
今大会はもう一つ、「注目ポイント」がありました。日本車いすバスケットボール連盟(JWBF)昨年7月にルール変更を行い、国内大会に限り「健常者選手」も出場可能となったのです。車いすバスケは各選手が障害に応じて1.0点から4.5点まで持ち点が与えられ、5人の合計を14.0点以内に編成するというルールがありますが、このルール変更により、健常者選手は障害の最も軽い選手と同じ持ち点4.5クラスの選手としてチーム編成ができるようになりました。車いすバスケはパラスポーツの中でも伝統があり、花形競技でもあるため、健常者の参加には賛否両論があったそうですが、JWBFは3年近くかけ慎重な協議を重ねた結果、参加者数を増やすことで競技の普及や競技レベルの向上、選手強化を目的にルール変更に踏み切ったそうです。
パラリンピックなど国際大会では障害者選手しか出場できませんが、実は日本では2002年から車いすバスケの大学リーグもスタートするなど、健常者にも一定数の愛好者がいてプレーされてきた歴史もあります。一方で、ピーク時は1200名ほどだったJWBFの選手登録数はdパラスポーツ全体が普及し、競技のさまざまな選択肢が増えた最近は約700名と減少傾向でもありました。
実際、健常者の参加が認められたことで、これまでメンバー不足でチーム編成ができないチームにも参加機会が広がり、また、メンバー増により選手層に厚みが出て競技力がアップしたチームも見られました。
例えば、今大会初戦でMAXを苦しめた伊丹スーパーフェニックスは15人中2名の健常選手を擁します。日本代表でも活躍する、エースの村上直広選手(持ち点4.0)は、「僕に何かあっても(4.5の健常選手の)交代がいるから、これまで以上に思い切ったプレーができるようになった」とその効果を話してくれました。
また、準優勝の埼玉ライオンズでもこれまで4.5点のハイポインターは不在でしたが、今は13人中3人の健常選手が加入したことで、大舘秀雄選手(4.0)や篠田匡世選手(3.5)が適度に交代しながらゲームを進められるようになっています。
中でも、今年1月からライオンズ正式メンバーとなった大山伸明選手は車いすバスケ歴約8年。もともとバスケット経験もなかったそうですが、大学で車いすバスケという競技に出会い、大学リーグで活躍し、今大会でも「健常者ナンバーワン」と言われるスキルで躍動しました。
車いすバスケ歴約8年の健常者選手で、埼玉ライオンズの準優勝に貢献した大山伸明選手(左から2番目) (撮影:星野恭子)
大山選手は、「車いすバスケは競技として面白い。(天皇杯という)目標ができて、さらにやりがいを感じてプレーできている」と話すなど、障害という垣根を超えた競技としての広がりや可能性も感じられます。また、体幹もあり、身長もある健常者選手たちと競り合うことは障害のある選手にとっても切磋琢磨の機会が広がり、競技力アップにもつながるように思います。今大会では接戦の試合が多く、チーム間の競技力の均衡も感じられました。
一方で、健常者が必ずしも有利なわけではなく、車いす操作への慣れや競技自体の習熟度なども課題でしょう。また、パラ選手のみでチーム編成し、11連覇を達成したMAXの藤本選手はパラ選手としてプライドを持って戦い、「障害者選手の力を証明できた」と胸を張りました。実は、3位に入ったワールドも、パラ選手のみで編成されたチームです。健常者参加のルール変更については今後も引き続き、注目したいと思います。
なお、今大会は3日間合計で18,394人(2,173 人、4,336人、11,885人)が観戦に訪れました。スピード感や迫力、さらに多彩で高いスキルで繰り広げられる車いすバスケの競技としての魅力の浸透も大いに感じられる大会となりました。藤本選手はパラリンピック4大会出場やドイツリーグ参戦など海外でのプレー経験も豊富ですが、今大会を戦い終え、「日本の選手はスピードがあり、スキルも高いと改めて感じた」と話します。
王者MAXが他を圧倒したからこそ、他チームの「打倒MAX」への思いもさらに増したのではないでしょうか。来年の天皇杯の行方は果たして??? 日本のパラスポーツも、どんどん厚く、熱くなっています。
<天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会>
■チーム結果優勝: 宮城MAX/準優勝: 埼玉ライオンズ/3位: ワールドバスケットボールクラブ(愛知)/4位: パラ神奈川スポーツクラブ/5位: NO EXCUSE(東京)/6位: 伊丹スーパーフェニックス(兵庫)/7位: 千葉ホークス/7位: 福岡breez
■個人賞
MVP: 藤本怜央(障害クラス4.5/宮城MAX)
サントリーやってみなはれスピリッツ賞: 赤石竜我(2.5/埼玉ライオンズ)
三菱電機Changes for the Better賞: 藤井新悟(1.5/宮城MAX)
スリーポイント賞: 竹内厚志(3.0/ワールドBBC)/古澤拓也(3.0/パラ神奈川スポーツクラブ)
オールスター5: 斉藤貴大(1.5/伊丹スーパーフェニックス)/赤石竜我(2.5/埼玉ライオンズ)/竹内厚志(3.0/ワールドBBC)/藤井郁美(4.0/宮城MAX)
ベストレフェリー賞: クルーチーフ: 加藤昌樹(審判)/ファーストアンパイア: 岸良太郎(審判)/セカンドアンパイア: 小野裕樹(審判)
(文・写真:星野恭子)