「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(260) 「はじめまして」の3人がつなぐ、桜色のトーチ~東京パラの聖火リレー概要発表
東京パラリンピック開幕まで、4月13日でちょうど500日。準備はどんどん進んでいます。3月25日にはパラリンピック聖火リレーの概要や使われるトーチのデザインなどが同大会組織委員会から発表されました。いろいろ、オリジナリティにあふれる内容になっています!
まず、パラリンピック聖火リレーのコンセプトは、「Share Your Light~あなたは、きっと、誰かの光だ」。新たな出会いから生まれる光を集めて、みんなが調和し、活かしあう社会を照らし出そう、という思いが込められています。東京パラリンピック聖火リレー会見が都内で開催。左から、元バドミントンオリンピック代表の池田信太郎さん、東京2020大会組織委員会の森喜朗会長、元射撃パラリンピック代表の田口亜希さん、トーチデザイナーの吉岡徳仁さん(撮影:星野恭子)
さて、オリンピックの聖火はギリシャで採火されるという決まりがありますが、パラリンピックは自由。最近の慣例では発祥地のイギリス・ストークマンデビルと開催地内で採火されています。東京もその例に倣いますが、開催国内での採火は主催地、東京と競技が開催される千葉、埼玉、静岡に加え、全43道府県での実施を目指して調整中だそうです。実現すれば、イギリスから運ばれる火と合わせ、48もの火が集まった聖火となります。過去にはおそらく例がないそうです。
パラリンピックの聖火リレーはオリンピック閉幕後からパラリンピック開会式までの約2週間しかないので、全国を回るオリンピックとは異なり、パラリンピックでは競技を開催する4都県だけになります。発表されたプランでは、パラリンピックの聖火リレーは3つのシーンに分かれて進められます。シーン1は8月13日から17日で、43道府県で採火された「各地の聖火」が学校や病院、パラリンピックゆかりの地などでお披露目(聖火ビジット)された後、東京へと「出立」します。
つづくシーン2では、18日に静岡、19日に千葉、20日に埼玉で、それぞれ採火式を行った後、いわゆる聖火リレーで各県内を巡ったあと、東京へと出立します。東京では21日に「東京の聖火」の採火式とリレーが行われます。最終シーン3では、21日の夜に各地から到着した「それぞれの聖火」を集める集火式が行われます。ここで初めて、「東京パラリンピック聖火」が生まれ、翌22日から開会式当時の25日まで開催都市内で聖火リレーが行われる予定です。
4都県で行われる聖火リレーは、さらに斬新です。なんと、「3人1組」。原則として初対面の3人がそれぞれ1本ずつトーチを持って聖火を運び、次の3人にリレーするというのです。リレー地点では、6人のランナーによる、「トーチキス」が行われることになります。過去に例のない華やかさになるのではと想像されます。
「3」という数字について、パラリンピックのシンボルが赤、青、緑の3本の曲線で構成されているほか、「3本の矢」など協働の精神なども込められていると言い、「人と人、人と社会との、 “新しいパートナーシップ”を考えるきっかけに」というメッセージを伝え、パラリンピックの精神である、「多様性」や「共生社会」を印象付ける内容にもなっています。
3人1組なら、「聖火ランナー」になるチャンスがより多くの人に広がるという意味でも、よいアイデアだなとも思います。
使われるトーチもお披露目されました。日本の花、「桜」がモチーフになったデザインで、上から見ると桜の花びらになっています。花びらの造形のため、5つのくぼみがあり、これが手になじみ、持ちやすさにもつながっているそうです。温かみあるピンク色が印象的な東京パラリンピックの聖火リレー用トーチ。新幹線などにも使われている製造技術(アルミ押出成形)を用い、継ぎ目のない、「ひとつなぎの形」が実現。「人と人とのつながり」という大会コンセプトも象徴 (画像:Tokyo 2020提供)
形やサイズ(全長71㎝)、重さ約1.2㎏(本体+燃焼部)などは3月20日に発表済のオリンピックとほぼ同じですが、大きく違うのは色。オリンピックはゴールドですが、パラリンピックは温かみを感じるピンク色で、「桜ピンク」と名付けられています。より強く桜をイメージさせる色合いです。
トーチの主な素材はアルミニウムで、全体の約30%には東日本大震災後に使われ、現在、解体が進む仮設住宅由来の再生アルミニウムが使われるのもオリンピックと同じです。両大会で1万本を超えるトーチが造られるそうで、復興に向けて一歩ずつ進む被災地の姿を、聖火リレーを通して世界に発信します。
東京2020聖火リレー公式アンバサダーに就任した、パラリンピアンの田口亜季さんは、「桜ピンクの色が明るい感じで、太陽の下だとどんな色になるんでしょう。3人が笑顔で走っているところを早く見たくてワクワクドキドキしています。老若男女、障がいの有無などに関わらず多くの人に、(リレーへの)参加や(沿道からの)応援などで関わってもらいたいです」と聖火リレーをPR。
トーチをデザインした吉岡徳仁さんは、東日本大震災の被災地を訪問して子どもたちと桜のお絵描きをした経験がモチーフのもとになったと言い、「子どもたちが少しでも元気になればと思ったが、最後は自分のほうが元気をもらっていた。(東京)パラリンピックでも選手それぞれの挑戦する姿が多くの人の勇気になるのではないでしょうか」と大会への思いも語りました。
なお、ランナー選考基準や選考方法などは今年の秋頃に決定されるそうです。できれば、全都道府県での採火式が実現し、より多くの人が東京パラリンピックに触れ、盛り上げ、さらには大会後にパラスポーツ熱が続いていくきっかけの聖火イベントとなることを期待したいです。
(取材・文:星野恭子)