大谷ファイターズ入りに感じた「違和感」(玉木 正之)
「違和感」を覚える、としか言い様のない出来事がある。
たとえば、メジャー入りを宣言していた花巻東高校の大谷翔平選手が、一転決意を翻してファイターズ入団を決めたことが、そうだ。
高卒で渡米するのはリスクが大きく、日本のプロ野球でプレイしてからのほうが成功の確率が高い、というファイターズの説得はリーズナブルで、結果的には本人自身のためには良い選択であり、良い結果だったと思う。
その意味で、松瀬学氏がNews-Logに書いた記事に、小生もまったく異議はない。
しかし、これでは、日本のプロ野球がアメリカ・メジャーの下部組織(マイナーリーグ)である、と完全に認めてしまったことにならないか?
ファイターズはメジャーに代わってカネ(契約金と年俸)を使い、選手を育成し、育てば即戦力としてメジャーに提供する。
そのとき球団はポスティング制度で多額の移籍金を手にする(ダルビッシュの場合は約40億円だった)。
それを前提に入団交渉するのは12球団の申し合わせ違反である。とはいえ、メジャー行きを公言していた選手を翻意させたのだから、この場合は仕方ないとしても、大谷選手が活躍すればするほど彼の球団を去る時期が早まる、というアンビバレントな状況が生まれたことになる。
ファンは、この二律背反の状況で声援を送り、彼がメジャー入りするときは、拍手と涙で送り出すのか……? そんな「マイナー・リーグのファンの心得」を球団は期待しているのか……?
ファイターズは、監督経験のないプロ野球解説者の元選手を監督に抜擢したり、ソフトボール選手をドラフト指名したり、高校野球の監督をコーチに招聘する……等々、様々な斬新なアイデアで「チーム作り」に手をつけ、コアな野球ファンを瞠目させると同時に、結果も残して地元ファンも喜ばせている素晴らしい球団だと思う。
ならば「チーム作り」だけでなく、「マイナー」から脱皮して「メジャー」と肩を並べるような魅力ある「リーグ作り」にも、そろそろ取り組んでもらえないものだろうか……。
【12月5日付毎日新聞朝刊スポーツ面『時評・点描』に少々手を加えました)】