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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(258) ブラインドサッカー日本代表はスペインに惜敗。初のメダルにあと一歩届かずも、東京パラに向けてつかんだ貴重な手ごたえと課題

世界8カ国が参加して、ブラインドサッカーの国際公式戦、「IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ2019」が3月19日から24日まで東京の品川区立天王洲公園で開催され、世界ランク9位の日本代表は最終日の3位決定戦で同4位の強豪、スペインと対戦。大柄な相手に攻守とも互角に渡り合いましたが、後半残り時間3分でセルヒオ・アラマールに決勝点を許し、0-1で敗れて大会を4位で終えました。優勝はアルゼンチン(同2位)で2年連続2度目、準優勝はイングランド(同12位)でした。グループリーグのスペイン戦の決勝点など、今大会日本の全3得点をたたき出した川村怜キャプテン。厳しいマークを交わして鋭いシュートを放ち、フィジカルと気持ちの強さで存在感を発揮。観客席を何度もどよめかせた (撮影:星野恭子)

今大会は昨年に引き続き、2回目の開催でしたが、参加国が昨年の6チームから8チームに増え、4チームずつ総当たり戦によるグループリーグを経て、準決勝、決勝と行われるフォーマットはパラリンピックと全く同じになりました。日本の高田敏志監督はパラリンピックの前哨戦と位置づけ、移動や休息の取り方、メディア対応も含め、本番を想定したシミュレーションをしながら臨んだ大会でした。

そんななか、日本は快進撃を見せました。グループリーグ初戦のロシア(同3位)にはスコアレスドローで勝ち点1を手にすると、続くコロンビア(同11位)には先制点を許すも、エース川村怜キャプテンが2得点し、逆転で勝利をつかみます。最後のスペイン戦でも川村キャプテンが再びゴールネットを揺らし、1-0で勝利。強豪を次々撃破し、2勝1分けのグループ首位で初のベスト4に進出しました。

しかし、準決勝では去年準優勝のイングランドに0-2で惜敗。再戦となったスペインに3位決定戦でリベンジされ、国際大会初のメダル獲得にあと一歩届かず、涙をのみました。体格差のある海外選手相手に一歩も引かずに好守備を見せ、ボールを何度も奪った、佐々木ロベルト泉選手(#3)と田中章仁選手(#7)。田中選手は大会後、「これからも見て面白い、応援したくなるようなサッカーをして、世界でもっと上の順位に行きたい」と力強くコメント(撮影:星野恭子)

川村キャプテンは、「チームとしてすべてを出し切ったが、これが今の実力。マークされた中でも得点できるように、もっと成長したい。これだけの強豪国と5試合を戦える機会はなかなかなく、パラリンピックを想定して成長するチャンスだった。こういう機会を与えてもらい、感謝しています。今大会での経験を持ち帰り、個人としてもチームとしてももっと強くなりたい」と前を向きました。

高田監督は、昨年は「プロセスにこだわる」と引き分けでもいい試合に勝ちにいって敗れ、6チーム中、5位に終わった日本でしたが、今年は「結果にこだわり、上のステージに行く」と目標に戦った今大会でした。

「内容に関しては満足しているし、選手たちを誇りに思います。結果にこだわって戦ったが、4位。強豪相手に圧倒する時間もあったが、パスやフィニッシュの精度が課題。劣勢でも得点して勝てるチームを作りたい」と課題と今後の強化の方向性を語りました。2枚エースの一人として長く日本をけん引するベテラン、黒田智成選手(左)。3位決定戦では高速ドリブルで、スペイン守備陣の厚い壁の突破を何度も試みた。「ゴールという役割が果たせず、悔しい。十分戦えていたと思うが、あと一歩越えなければいけない『壁』がある。もっと技術を磨きたい」(撮影:星野恭子)

日本代表は以前から定評ある守備に加え、「得点しないと勝てない」として攻撃的なスタイルへと強化を進めています。高い位置でボールを奪い、パスやドリブルでボールを運び、ルーズボールを拾っては連続して攻撃を仕掛けます。視覚を遮断した中でボールの音や仲間の声などを頼りにプレーするブラインドサッカーですが、今大会で日本代表の見せたパスサッカーは見えない中で行うブラインドサッカーの可能性を大いに見せてくれたと思います。

昨年と比べ、順位こそ5位から4位へと1つだけの進化ですが、戦いぶりの内容については大きな進化を感じました。あきらめない気持ちや小柄ながら果敢に立ち向かうフィジカルの強さ、強豪に競り負けない戦いを挑み、終盤まで無失点に抑え慌てさせたこと。硬い守備や難しいパスサッカーの実行など持ち味は十分見せられたと思います。相手コーナーキックに備え、日本の選手に指示を与えるゴールキーパー(GK)の佐藤大介選手(右)。ブラインドサッカーのGKは「守護神」でもあると同時に、選手の「目の代わり」となる重要な役割を担う。佐藤選手は声をからしながらも選手に指示を与え、鼓舞しつづけ、今大会のベストGKにも選出された。「大会を通して守備も攻撃もコンパクトに、日本のやりたいサッカーはできた。試合を重ねるごとに強くなり、成長が見えた。後ろから見ていて選手が頼もしかった。それぞれ課題も見えたので、これからが勝負だと思う」 (撮影:星野恭子)

でも、1点が奪えず、勝ち切れなかったのは事実。優勝したアルゼンチンをはじめ、トップ選手たちの技術の高さやスピード、ここぞという時の畳みかけるような攻撃など、「世界」を感じるシーンも随所に見せつけられました。その差をどう埋めていくか、しっかりと向き合い分析することが大切だと思います。シュートやパスの精度、寄せの速さや勝負所での強さ、相手のスキを見逃さない勝負強さなど世界の強豪から肌感覚でつかんだ課題を、東京パラリンピックに向けたあと1年余りの日々で一つひとつ詰めていってほしい。きっとできる。そしてまた、ワクワクするサッカーを見せてほしい、そんな期待感をもたせてくれた大会だったと思います。大会2連覇を果たしたアルゼンチンのエースで、マキシミリアーノ・エスピニージョ(右)。今大会6得点で得点王と、大会MVPにも選出。大会までに5kg、大会中にも2kg減量しと言い、「体にキレが出た。6月の南米選手権で優勝し、東京パラリンピック出場が次の目標。(日本の観客からの)声援は励みになった。おもてなしに感謝します。アリガト!」 (撮影:星野恭子)

百聞は一見にしかず、を証明!

初戦を引き分けた日本代表でしたが、個の力に優れ、予想しにくいプレーを仕掛けてくるため、一番の難敵と思われたコロンビアを逆転の2-1で撃破。その堂々とした勝ちっぷりが話題となり、翌21日のスペイン戦のチケット販売数は伸び、完売御礼となりました。しかも、当日はチケットを求め、キャンセル待ちの列が並ぶほど。手に入らずに、がっかりして帰る姿も見られました。

5日間の観客数ものべ5,000人を越えました。日本代表の快進撃のニュースに、初観戦の観客も少なくなかったようで、「想像していた以上に激しいプレーで驚いた」「スピーディーでテクニックもあり、見ごたえがあった」といった感想も聞かれました。予想外の面白さを目の当たりにし、「また観たい」という声も多かったのが印象的です。3月21日のスペイン戦に1-0で勝利し、準決勝進出を決めた日本代表。チケット完売で約1300人の観客とともに、勝利の喜びを分かち合った (撮影:星野恭子)

川村キャプテンは客席を埋めた多くの観客に対し、「これまでにない、最高の“ニッポンコール”を聞かせてくれました。皆さんの声援があったからこそ、(5試合を戦い)これ以上動かないというところでも僕たちの体を動かしてくれました。声援とはこんなにもパワーがあると改めて感じました」と感謝の思いを口にしました。

「だからこそ、今日は(スペインに)勝ちたかった。その期待に応えることができず、残念です」と悔しさもにじませた川村キャプテン。その悔しさをバネに、さらなる進化を大いに期待したいですし、そうして、さらに多くの観客をどよめかせ、魅了してほしいと思います。

(文・写真:星野恭子)